16
愛用のカップと揃いの柄の皿に三角に握った「米」を乗せ、静音はほくほく顔だった。
ここ数日で、初めて見る静音の緩んだ表情に、ルーは内心驚いていた。
おにぎりっていうのよ、と、聞いてもいないのにルー達に言いながら、湯気が上がって見るからに熱そうな米を水と塩を馴染ませた手で転がすように握りかためはじめた時は大丈夫なのかと心配もしたが。
「何だかよくわからないお魚にはお醤油かけて」
焼き上がった魚も皿に移して「醤油」と言うらしき黒い調味料をたらす。
ルーとリルの分も含めた三個のカップに茶を注ぎ、静音はテーブルについた。
「いただきます」と言いながら、静音は「おにぎり」にかぶりついた。
「ああ、おいしい……」
静音は、噛みしめながらしみじみと呟いた。
ルーは皿の上に山と盛られた握り飯に何とも言えない視線を向ける。
「こんなに作って、食いきれるのか?」
「んーん、収納空間に入れておくわ」
静音は、箸で魚の身をほぐす。それもまた、器用な事だ、とルーは思う。
醤油のしみた白い身をひょいひょい口へ運ぶのだ。
「レタスもトマトも新鮮」
小皿に取る事もせず、サラダボールから直接箸で口に運ぶ。
「静音、トマト頂戴」
リルがふわふわと飛んできてねだる。
「んん、どうぞ」
箸でつまんでいたトマトを差し出すと、ドレッシング塗れにも関わらず、リルは飛びついて両手で抱えて食べ始めた。
「あらら……」
静音は、収納空間から小皿を出して、トマトをいくつか取り分けて、ナイフでリルの一口サイズに切った。
「ドロドロになっちゃうわよ。これどうぞ」
リルのティーカップの傍に置いてやる。
リルは最初の一切れを食べ終えると、さっと腕を振って自身に浄化魔法をかけた。
「ありがとう」
ふわふわと皿に寄ると、小さく切られた一つ一つを食べ始めた。
「魔力じゃなくてもいいの?美味しい?」
自分の食事を止めず、静音は尋ねる。
「うん。あのね、静音」
「なあに」
「静音が調理した物って、美味しいの」
握り飯にかぶりついた瞬間だったが、静音は咀嚼を止めた。
「このサラダ、静音の魔力ですごく綺麗なの」
言われて、サラダを魔力視で見てみるが……
「何も感じないけど」
リルは首を振った。
「すごく綺麗なの。そして当たり前だけど美味しいわ」
静音は首をめぐらせてルーを見る。
ルーは頷き、サラダボールからトマトを一切れつまみあげて口へ入れた。
「うまいな」
静音は、呆気にとられてサラダとルーの間を何度も視線で行き来させた。
「野菜むしったり切ったりして、調味料混ぜただけよ?」
「そういうことではないのだろう」
「静音が上機嫌で作ったものだから、余計に美味しいわ」
リルが口の周りをオイル塗れにしながら言った。
「私の情緒も関係あるの……?」
「そうだな」
静音は半分齧った握り飯を持ったまま、テーブルに突っ伏した。




