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上空へ意識を移した静音は、宇宙空間から星を見下ろした。
太陽に照らされた面からは闇が薄まりほぼ消えていた。
夜側は視覚には判らないが、静音にはそちらも昼側と同様である事が判っていた。
立ち上がる光の柱が、夜側は鮮明だ。
南半球の大陸は、全体が金色に光っている。
立ち上がる光の柱も大陸全体から太く形成され、膨大な魔力が噴きあがっていた。
金木たちが、夢で全ての意識を縒り合せ、統一している結果だった。
静音は視線をずらし、極大陸の端にある半島を見た。
そこにも、柱が立ち上がっていた。
巨大な金木がこんな外れた所に一本だけ立っている。そして、その根元には、シリル・バトゥの神像があった。
静音はゆっくりとそちらへ降りた。
神像の前には、抜身の愛剣を握りしめて馴染みの剣士が倒れ伏していた。
顔色は悪いが、剣士は命に別状はなく、ただ、残存魔力が驚くほど少なくなっていた。
目の前の神像に注げるだけ注いでしまったのだろう。
静音はそっと、僅かばかりの魔力を剣士へ送った。僅かではあるが、これでだいぶ楽にはなるだろう。
顔を上げると、光の柱の中からゆらゆらと形を曖昧にしながらも、人形であろう影が現れた。
---ああ、あなたがトーヤですね。
静音が声をかけると、その影の後ろからもう一つ影が現れる。
---伴侶とご一緒でしたか。
静音は微笑んだ。
影は頭を下げた。
---我が子を救って下さり感謝いたします。
二つの影は同じ意思を伝えてきた。
---少し魔力をあげただけですよ。お気になさらず。
二つの影はもう一度頭を下げた。
---最後にここへ来てもらえるとは思いませんでした。あなたとは一度も話さずお別れすることになると思っていました。
トーヤの意思が聞こえた。
---ご挨拶くらいはしたいと思って来ましたが、息子さんを連れ帰る必要があるでしょうから、来て良かったです。
---お願いできますか。有難い。
---お引き受けしましょう。
影の輪郭がより一層揺らめいて周囲の光に溶けるように滲む。もう思い残すことは無い、と言いたげに。
---魔力粒子の人との親和性を僅かばかり戻します。
影は揺らめきながらそう告げた。
---アルケとアルトナミのありように、精霊の受けた被害や懲罰を考えあわせたりの措置だったようですが、万年経ちましたし、そろそろ少しは良いのではないかと思います。人にも色々ありますし。あなたが見せた魔導国家の幻影もあります。
静音は笑う。
---私もそうと言われたけれど、あなたもたいがい人が良い。こちらで酷い目にしか合ってないでしょうに。
---それでも愛する者と子に恵まれました。あちらにいてはそれすら叶わなかったかもしれないのです。
どれほどひどい環境にいたのだろう、とは思うが、静音はそれについては尋ねなかった。
---そうですか。それもいいでしょう。
と、それのみ答えた。
---反対されずに済んでホッとしました。
トーヤの言葉に静音はおやと思う。
---反対なんてしませんよ。
---ですがあなたもこちらで酷い目にばかり合っていたのではないですか。
ああ、そういうことかと静音は思う。
---私はこちらの世界にも人にも大して興味が無いのです。今世の太陽神と言われますが、神として振る舞う気もありません。皆好きにすればいいと思っています。
---眷属である精霊は大事にされているようですが。
---そうですね。別に私の中では矛盾していません。好きにしているだけですから。
ふわりと影が更に揺らめく。もう終わりが近いのだ。
トーヤと伴侶は最後にもう一度とばかりに剣士の傍へ行き、一体となって剣士の身体を包み込んだ。抱擁のように。
---さようなら。
静音は呟いて光の残滓を纏う剣士を移動させた。
なんだか慣れませんわ……
活動報告にも書きましたが、歳食うと新しい事に馴染むにも時間がかかりましてね。
今日も少なくて済みません。




