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その者は、神の愛し子と呼ばれていた。
創造神の寵児。
人の中にあって、頂点にあり、人々を導く者としてあった。
そう、思っていた。
だがある日、神は去った。
価値のない物と見定めた。
この地も、この地に生きるものも、愛し子であったものも。
誰よりも寵愛を受けていると自負していたその者は、絶望した。
自身の心の全てであった。
存在の根幹でさえあったのだ。
割れて沈みゆく大地を見て滅びを悟り、逆巻く海を見て諸共に死にゆくならそれで良い、と覚悟した。
だが、その身を投げうち、この地をとどめた者がいた。
人とも神とも距離を取り、それ自身が光り輝く神のような存在。
それもまた創造神の創った者でありながら、人ではない、「中途半端」な存在。
そう、思っていたのに。
それは、創造神の滅びを止めて見せたのだ。
死を覚悟し、受け入れる心積もりであったのに。
神に見捨てられて、この後生きている意味などあるものか。
荒れ狂う海へ向かって叫び声を上げた所までは覚えている。
暫くは記憶が無かった。
長く眠っていたのかもしれない。
気が付くと、随分と時が過ぎていた。
巷に残った伝承では、滅びを前に清らかな乙女が救いを希ったという。
月神と太陽神が救いをもたらしたと。
心の底に、どろりとした黒い感情が渦巻いた。




