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月影映る・海  作者: 林伯林
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 「セラの行先はどことも見当がつかないのか」


 王子は肘かけを指で叩きながら言った。

 「本人もはっきりと決めていない様子でしたので、何とも」

 学者は改めて報告書を提出に来て王子に詰め寄られていた。


 ガイキと二人で帰還した時、渡り人が一緒ではなかった事に肩を落とした者と喜んだ者がいたが、王子は前者だった。

 遠征中の事を思えば、何故戻ってくると思っていたのか学者にしてみれば不思議だったが、身寄りも知り合いもない世界で頼れる者がなければどんな所でも戻ると何の脈絡もなく思っていたらしい。

 渡り人に嫌がらせを繰り返していた光魔法の魔導士たちは有力貴族の娘達であったが為、さしたる咎めだても受けず神殿へ帰っていった。多少評判が悪くなっただろうがその程度で、状況は何一つ変わっていないのだが。

 静音に給金が払われていなかった事も学者は帰ってきて知らされた。

 それもまた、戻ってくると王子に思わせた一因であったらしい。

 無一文でどこへ行けると言うのかと。

 無一文で遠征隊を飛び出して、魔沼を浄化して回っていた事はどう考えていたのだろう。

 「セラは生活力があると思いますよ」

 学者は笑みを張り付けたまま言った。

 「無事に浄化は終わったわけですし、それでよろしいではありませんか」

 最初にそう言っていたのは王子だったはずなのだが。

 「意に染まぬことをしてあの力を向けられたら大変なことになりますよ。そもそもあの嫌がらせを黙って受けてくれていたんです。後はそっとしておいてやるべきと思いますよ」

 王子は返す言葉もなく黙り込んだ。


 学者が報告書を置いて辞すと、王子は部屋の隅に控えていたエイディスを見る。

 エイディスは頭を下げた。

 「北の荒れ地は報告通りのありさまでした。ひときわ高かった月照の峰は砕かれて崩れ、雲が湧いておりました」

 エイディスはリシュリアに命じられてガイキと学者の後を追う事になっていた。

 しかし、学者は王子たちの馬車から馬を外して先を急ぎ、村に着いた時には姿を消していた。

 代わりの馬を購入した様子もなく、徒歩で出たと思われたが、急いで馬を調達して北へ向かったエイディスはいかにしても追いつくことがかなわなかった。

 北の荒れ地に着いた時、既に全ては終わっていた。

 「そなたもセラの行方は判らぬか」

 「見当もつきません」

 王子は溜息をついた。

 各地の王家の配下から連絡は徐々に集まっていた。

 突然現れて家具を購入し、どこへ配達するか尋ねると目の前で商品が消え、驚いている間に去ってしまった若い女の客の話が近くもない街数か所で報告された。

 短期間で移動できる距離でもなく、報告通り、転移魔法が使えるのだろうと思われた。

 魔沼浄化のスピード移動もそれで説明できる。

 そうなると、もう普通の人間では後を追う事はできなくなる。

 「国内にいるとも思われません」

 エイディスの言葉に仕方ないと王子は頷いた。

 「暫くはセラに似た者がないかどうか報告はさせよう」

 神殿も魔導士団もどう動くか見張らせる。

 今までどおりであった。


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