1、死神ゲジゲジ
2008年秋。
それはある日突然現れた。
最初にそれが現れたのは東京文京区のとある公立高校だった。
高校の体育館では、バスケットボール部が活動していた。
死神はそこに現れた。
死神は次々と部員に襲い掛かり、3名の部員が命を失った。
以下、被害者の名簿である。
山田真理夫 17歳 B型 死因 心不全
岩田輪理夫 18歳 B型 死因 心不全
石田類児 18歳 B型 死因 心不全
以下は警察の聞き取り内容である。
バスケットボール部の主将の西田屈歯が答えた。
――当時の状況を教えてください。
「突然、ムカデみたいな大きなものが現れて、輪理夫が襲われて、パニックになりました」
――ムカデみたいなものですか?
「ムカデかな。ゲジゲジだったかもしれません。なんか足がいっぱいあってすごい速さで動いていて、怖かったです」
――大きさは?
「これぐらいです。40センチぐらいあったと思います。眼が赤くて、とにかくパニックでした」
――そのムカデのようなものはどのようにして部員を襲いましたか?
「頭突きみたいに突進して、そしたら、輪理夫が突然意識を失って、次に真理夫が……。怖かったです」
――そのムカデのようなものはどこに行きましたか?
「すごいスピードで壁のほうに消えて行って。まるで壁を抜けるみたいに消えました。パニックでした」
西田屈歯は終始震えていて、警察は彼が幻覚を見たのではないかと考えた。
不可解な事件としてひとまず処理された。
このムカデのような生物はこの事件から4日後にも姿を現した。
神奈川県横浜市のとある住宅街に、同じものが現れた。
当時、寺山芳夫は友人らと同窓会の帰り道を歩いていた。
死神は彼らを襲撃した。
芳夫は自分の間隣にいた石山桃助が死神に襲われるのをまざまざと見ることになった。
桃助が倒れた後、死神は芳夫をにらみつけた。
しかし、死神は芳夫を狙わなかった。
死神はそのまま夜の中に消えて行った。
この事件の際に、警察は芳夫に聞き取りを行った。
――当時の様子を教えてください。
「なんかゲジゲジみたいなものが出てきて、それでっていうか、なんというか、怖くなって丸くなってしまいまして」
――ゲジゲジですか?
「ゲジゲジっていうか、ムカデかもしれませんけど、すごく大きかったです。それでっていうか、怖くて丸くなってしまい……」
芳夫は終始おびえた様子だった。警察は芳夫が幻覚を見たのではないかと考えた。
しかし今回も、公立高校の時と同じくムカデのようなゲジゲジのようなものが絡んだ奇妙な事件だった。
その後、この手の事件が3例目、4例目と続き、警察はついに本格的に捜査に乗り出すに至った。
町の監視カメラの映像から、今回の事件の首謀者が明らかになった。
犯人は以下の特徴を持つ。
節足動物の類と見られ、ゲジゲジに酷似している。
大きさは全長42センチ。
触れた者を一瞬で殺害しており、どうやら心筋の働きを停止させる力がある。
被害者はいずれも血液型がB型であり、それ以外の血液型の者は殺害されていない。
他の血液型においては、LN型の判定では被害者に共通点が見られなかった。
少なくとも時速55キロ以上で移動しており、宙に浮いているところが映像に残されている。
警視庁は特別対策本部を設置した。
これを受けて、マスコミは大々的にこの事件を報道した。
読売テレビの看板報道番組である「ミヤタ屋」ではこの奇妙な節足動物を「死神ゲジゲジ」と呼称した。
これを機に、全国的に今回の恐ろしい死神が「死神ゲジゲジ」と呼ばれるようになり、日本政府も正式に「死神ゲジゲジ」という呼称を与えた。
日本列島を覆う未曾有の大事件はこうして始まった。