幸せは長く続かない
俺はチョコレートの箱をクラリスに「はい」と言って渡すと、クラリスは受け取りながら、目をぱちくりさせ、不思議そうな顔をする。
「食べさせてくれ」
朝から疲れ切っていた俺は、照れ、とか、恥ずかしいとかの感情を捨て、思いっきり甘える事に決めた。
こんな日々を送っていると、いつ邪魔されるかわからない。ダンジョン攻略も命懸けだし。
恋人らしいことはできる時にしておかないと、いつ出来なくなるかわからないから……って俺の婚約者の筈なんだけどなっ!
クラリスはボッと赤くなり「は、はい」と、ど真ん中の1つだけハートの形をしたチョコレートをそっとつまみ「アルベルト様、どうぞ」と俺の口まで持ってきてくれる。
口の中でチョコレートがゆっくり溶け、ミルクの風味の中からビター感が見え隠れし、複雑な甘さを醸し出す。
美味いな……これ。
俺の横に座ったクラリスが頬を薄紅色に染め、はにかんでいる姿が愛らしい。
さすがの鈍感令嬢も照れているようだ。
俺はとてつもない幸福感に包まれ、今すぐクラリスを抱きしめ、キスしたい衝動にかられる。
やっばい……幸せだ。めちゃくちゃ幸せだ。
さっきまでダンジョンを攻略していたとは思えないほど……俺は幸せだ。
「美味しいですか?」
「ああ……味見してみる?」
俺が悪戯っぼく含みをもたせて聞くと、クラリスはクスッと笑う。
「そのチョコレート、1つしか入ってないのでムリです」
うん。知ってます。
ハートの形、1つしかなかったもんな。
一刀両断、バサッと切ったね。
いや、そうじゃなくてさぁ……
クラリスらしい返答だけど! 俺達は恋仲な訳で。
ほら、そこはかとなくいい雰囲気なんだし……
はぁぁ……クラリス相手に遠回しな言い方をした俺が間違ってました。ごめんなさい。
俺は頭を掻きながら「いや、だから、そういう事じゃなくてさ……」とクラリスの肩をギュッと抱き、顔を寄せ、唇を重……
「アルベルト! 遊びに来てやったぞっ!」
ゴンッ
勢いよく開いた扉と聞き覚えがある……というか、ほぼ毎日聞いてる親友達の声に慌てた俺は、誤魔化す為に咄嗟にテーブルにつっぷしてしまい、額を思いっ切りぶつけてしまう。
ほらな? 予想通り、すぐ邪魔されただろ?
それにしても……
お、ま、え、ら~
毎度毎度、邪魔するタイミングが絶妙すぎなんだよっ!
お読みいただきありがとうございます。
主人公、遠回しすぎです。