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20.観光 そして劣情

ほのぼのタイム。

「イルゼ! 次はあっちの店に行こうではないか」


「リリス焦らない。食べ物は逃げないよ」


 イルゼとリリスの二人は、ランドラの街を観光していた。元より水面下で悪事を働く『オメガの使徒』を撃退するまでの滞在な為、息抜きは必要なのだ。


(早く故郷に行きたいのに……あんまりかかるようなら依頼取りやめようかな)


 しかし受けてしまった以上仕方がない。これは命令でもなく、強制でもない、自分の意思で決めた事なのだ。


 ならば最後までやりきる事に意味がある。


 でも……本当に何ヶ月もここに滞在する事になるのなら依頼放棄するのも一案かもしれないとイルゼは考えていた。


(今の私は、自由だから)


 それに、もしも今回の騒動にオメガの使徒が関わっているのならば、調査は一歩進んだ事になる。


 そして彼等がリリスを捕捉したのなら、何か次のアクションが起こす可能性が高かった。


 彼等の狙いはリリスであり、リリスを囮にすればのこのことやって来るのではないかとも思い観光していたが、こうして二人きりで――剣聖と一緒に観光しているうちは襲ってくる事はないだろう。


「なら、今を楽しまないと」


 イルゼはリリスの後を追って、屋台から屋台へと移動した。


◇◇◇


「たらふく食ったのう。余は満足じゃ」


 リリスは満足そうにその大きく膨れ上がった腹を撫でる。金貨3枚分食べたのだ。


 庶民からすると半日で半年分の食費を消費してしまった事になる。


 だが、国王から貰った大量のお金は一向に減る気配がなかった。


 それもそうだ。国王から一生遊んで暮らせるくらいのお金を渡されているので、リリスがいくら暴食でもお金に困る事はない。


「ん。リリス食べすぎ。太るよ」


「太らん太らん。余は魔王だからの」


「どういう理屈?」


 リリスはよく分からない理屈を述べながら、次は何しようかとイルゼに問う。


 イルゼとしてはもう食べ歩きは飽きてきていたので、少し体を動かしたいと言った。


「何か手頃に出来る、アトラクションみたいな物が有ればいいんじゃが」


 何か良い出し物はないか、辺りをきょろきょろしていると野菜を売っている店で見知った顔を見つけた。


「……んっ? あれはミラではないか!!」


 自分達が泊まっている宿で働くミラを見つけ、リリスはおーい! と手をぶんぶん振りながら声をかける。


「今、誰かに呼ばれたような…………あっ!」


 きょろきょろと辺りを見渡し、自分を呼ぶ存在がリリスだと気づくや否や、中に食材が入っているのにもかかわらず籠を落とし、天使様ーと叫びながら勢いよく近寄ってきた。


「むっ」


 リリスに抱きつこうとしたのをイルゼが押し返す。


「へぶっ!」


「ミラ、だめ」

「此奴、時間が経つごとに悪化してないか?」


「ひょんなほひょありまへんよ」


 イルゼに手で顔を押されながらも必死になって前に進もうとするが、力で敵うはずもない。


 年下の子に腕力で負けて、ミラは少し悔しかった。


「うう〜。私の方が年上なのに」


「ミラとは鍛え方が違う」


 その細腕を曲げて、力こぶを作って見せる。


 女性にしてはある方だが、男性ほど筋肉も力こぶもついていない。


「ほうほう、では余が」


 リリスもイルゼに感化されて力こぶを作って見せたが、こちらはほとんどなく、イルゼが試しに触るとぷにぷにするだけだった。


 ミラも触ろうとしたが、手でバシッと弾かれ、さながら猫のように背を伸ばしたイルゼに威嚇された。


「そんな……」


 リリスには触れさせないよと全身を使って体現したのだ。


「ミラはだめ」


「天使様酷いですよ。私にだけ身体を洗わせてくれないですし」


「ん。あれはミラの目が怖いから」



 前日の魔剣騒動の後、宿へ帰宅した二人は、入り口で待ち構えていたミラと共に温泉に浸かった。


 疲れていたのもあるが、イルゼは比較的同性には寛容なのだ。


「天使様〜お背中をお流ししますよ」


「ん……」


 イルゼは悩んだ。

 確かに疲れているので出来ればお願いしたい。

 しかし相手はミラ。何よりその手つきが怪しい。

 何をされるか分からない。

 それならばリリスにやってもらおうと。


「リリスに流してもらう」


「そっ、そんな!! こんなにも私は天使様に尽くしたいというのに」


 ガクッと項垂れるミラ。しかしすぐにガバッと復活し、リリスを捉える。


「天使様!! 天使様には流していいですよね」


「余は魔王なのじゃが……まあよいか」


 「ぐへへ」と怪しい手つきをするミラ、イルゼはそれをよしとしなかった。


「リリスの背中を流すのは私の役目。ミラは大人。大人は大人と流し合って」


 さあ行こっ!! と強制的にリリスを洗い場に連れて行く。


「おおっ……」


 目尻に涙を浮かべる、20代前半のミラ。


「そっ、そんなぁーあんまりですよ天使さまー!」

「はいはい、若い子の邪魔しない。ごめんねイルゼちゃん。この子は私が連れて行くから」


 再びガクッと項垂れたミラを同僚のロゼが連れて行く。


 彼女も今日は私用で温泉に浸かっているのだ。それもその筈、今イルゼ達が入っている時間帯は仕事を終えた従業員が入る時間なのだから。


「ん。ロゼありがと」

「いえいえ。こちらこそミラが迷惑かけます」


 美少女二人に、濡れた瞳で「私たちも入っていい?」と言われたらダメと言える人間はこの世界に存在しないであろう。



 そんな事があったので、ミラにリリスを触らせたくなかった。


「だからミラは絶対だめ。危ない」


「今の回想のどこに私が危ない要素があったんですか!?」


「ん。全部」


「全部!?」


「まあまあイルゼ。のうミラ、お主が我らに本当に何もしないというのならば……今度入った時、余の身体なら流しても構わんぞ」


「ほんとですか?!」


 思わずイルゼを見ると、彼女も小さく首肯していた。

 何もしないなら構わないらしい。


「本当に変な事はしちゃいけないぞ」


 ビシッと決めポーズを取る。


「あっ……」


 上目遣いで見てくるリリスに、ミラの理性は限界を迎えた。


「やっ、やっぱり無理ですー!」


 再び抱きつこうとしたミラをイルゼが引き離す。


「やっぱり危険。リリス気をつけて」


「う、うむ」


「あ、あぁ。天使様〜!!」



 その後、正気に戻ったミラから何か面白い物はないかと聞くと「そうですね〜、こういうのはどうでしょう」と街にあるオススメスポットをいくつか教えてくれた。


「ありがとうミラ」

「うむ。助かったぞい」


「天使様のお役に立てて光栄です」


「ミラも一緒にくる?」


「あぁ……宿から頼まれてる買い物があるのでやめときます」


「そう? 分かった」


 意外だった。相手がミラなら一も二もなく飛びついてくると思っていたからだ。


 確かに先程までの彼女であったらそうしていた事だろう。しかし少し理性を取り戻したミラにとって今、何をすべきか理解していた。


 買い物だ。


 今度何かやらかしたら、オーナーからクビにすると宣告されていたのだ。それが彼女の理性を押しとどめていた。


 自分の役目を全うしなければいけない。


 ミラは去っていくイルゼ達を固唾を呑んで見守っていた。そして落とした籠を見る。買った商品が地面に散乱していた。


 これは一から全て買い直しだ。


 買い物を終えたら時間的に宿に戻らないといけないので、イルゼ達と合流する事は叶わない。


 だから彼女は一言こう漏らした。



「…………私も行きたかったよー!!」


ここまで読んで頂きありがとうございました!


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 皆様の一手間が更新の励みになります、どうぞこれからも宜しくお願いします!!


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