106.別れ そして到着
久しぶりの更新です。お待たせしました
無事に魔獣討伐を終えたイルゼ達が泉の入り口まで戻ると、そこには見覚えのある三人組がいた。
依頼者であるシスターとシノ、そしてゼットである。真っ先に声を掛けてきたのはシスターであった。
「イルゼ様! リリス様、サチ様も! 皆さんご無事で何よりです!! 遅かったので何かあったのではないかと心配しました」
「ん。ちょっと後片付けに手間取ってた」
「じゃが泉に棲みつく魔獣はもうおらん。これからは今まで通りに使えるぞ。我らに感謝するのだな!」
一番何もしていないリリスが胸を張って偉そうに言い放つ。イルゼとサチが何とも言えない目を向け、二人が凄腕でリリスは自分と同じレベルだと分かっているシノは苦笑した。
何も分かっていないゼットは単純に感心する。
「イルゼさんは身のこなしから凄い人だって分かってましたが、やっぱりお二人も凄かったんですね!」
「ん。頑張った」
「……拙者はまだまだ未熟者だと今回の事で痛感したでござる。精進せねば」
「ふふん! もっと褒めてよいのだぞ!」
イルゼは真面目な顔で頷き、サチは表情は変わらないものの小さく拳を握った。リリスは言うまでもない。
シスターはそんなイルゼ達にぺこぺこと頭を下げ、感動した様子で一人手を合わせていた。
「本当にありがとうございます! ああ、なんとお礼を言えばいいのか……」
「最初にも言ったけど、冒険者として当然の事だし私がやりたくてやった事だから」
その当然のことを行える冒険者が何人いるのか、イルゼは知らない。本当の善意で無償の依頼を引き受ける変わり者など、それこそ冒険者ギルドに所属する者の中でも一握りだろう。
「イルゼ様ぁぁぁぁー! 貴方は女神様です、ラフェーティア様ですよー!!」
「シスター。イルゼさんが困っちゃうから、やめよう」
もはやイルゼに対する敬意が天元突破して、崇拝の域にまで達しているシスターをシノは申し訳なさそうに止める。
「私は女神じゃない。ただ人より少し剣が上手いだけの普通の女の子」
それはない! とリリスとサチ、シノが心の中で全力で否定するも、それがイルゼに届くことはなかった。
「でも孤児院に戻る前にシスター達と会えてよかった。戻ったら子供達に囲まれることは分かってたから。だからここでお別れ。孤児院の他の子にもよろしく」
「え、そんな! 依頼達成のお祝いとお礼もまだしてないのに……」
シスターが悲壮な表情をするが、イルゼは首を横に振る。
「お礼も別にいらない。私達がやりたくてやった事だから」
「ですが、それでは……」
「余は構わぬがお主はそれで良いのか? 余ほどではないが、子供達と仲良くしていただろう?」
「長く一緒にいると別れるのが辛くなる。このくらいが丁度いい」
少し寂し気に微笑んで、イルゼはシスターに別れを告げる。
「拙者もイルゼ殿の意見に従うでござるよ」
サチとリリスもそれは同様で、イルゼの気持ちを酌んで引き下がった。
「そうですか……私たちにあなた方を止める理由はありません。本当に依頼を受けて下さりありがとうございました。孤児院を代表してお礼申し上げます。ほら、シノちゃんとゼット君も!」
「皆さん、短い間でしたがありがとうございました!! このご恩は絶対に忘れません!」
「俺もイルゼさんと肩を並べられるくらい強くなります! だからその時は……いえ、またその時に言わせてください!!」
「? ん、頑張ってね。強くなるの待ってる。じゃあ行こうか。リリス、サチ」
「シノ殿。嫌なことがあったら、今度は拙者が慰めてあげるでござるよー」
「は、はい! その時は是非お願いしますサチさん!!」
「ゼットよ、その時は負けんぞ? なにせ余とイルゼは既に恋人の契りを――もがっ!」
「リリスはお口チャック。シスターも元気で」
イルゼがリリスの口を手で塞ぎ、シスター達と別れの挨拶を済ませる。
そうして通りすがりのSランク冒険者一向は思わぬ寄り道を終えて、目的の町へと旅立ったのだった。
◇◆◇◆◇
所用で孤児院を空けていた老齢のシスターが有志の冒険者を連れて戻ってきたのはそれからすぐのことだった。
若いシスターからイルゼ達の話と特徴を聞き、信じられないと疑ったが、シノやゼットの主張する通り泉からは魔獣が消えていた。
念の為、ベテランの冒険者達に調べてもらった結果本当に魔獣は討伐されており、その死骸から神話の神獣だったモノだという事も分かり、少女といった年齢に差し支えない三人組が倒してしまった事に腰を抜かしてしまったという。
その後もイルゼ達は訪れた各所で手助けや依頼をこなして旅を続け、時には食べ歩きを楽しみながら目的の町を目指した。
〜数週間後〜
「ん。ついた」
「随分遠回りしたような気がするでござる」
「でも色んな人に出会えて楽しかった」
「それはそうでござるな」
「毎回問題を起こすアホの子はいたけど」
イルゼが見つめる先には、人生で初めて見る港に目を輝かせる元魔王がいた。
「ほう、これが話に聞く漁港……かなり盛況しているように見えるな」
国王との約束の期限1週間前に、彼女達は港町ウェスフィリデに到着するのであった。
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