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105.恋 そして不幸な少女

お待たせしました。イルゼの告白の行方はいかに!?

「――ん、リリスは私のものだから」


 イルゼからの唐突な愛の告白に元魔王は固まる。否、固まるしかなかった。


 そしてもう一人。動揺しつつ、二人のやり取りを見ていた者がいた。


(拙者……完全に空気でござるな)


 異国の剣士、サチである。


 彼女の存在を忘れているかのように、二人はお互いしか見えていなかった。


 イルゼはリリスの顔に両手を添えてじっと見つめる。一方、リリスは頬を紅潮させて固まったままだ。


(え、これ拙者が居ていいやつでござるか? 魔王とか聞こえた気がするけどきっと気のせいでござろうな。うん、そうに違いないでござるよ)


 そう強く自分に言い聞かせて、現実から目を背ける。

 そんな彼女を置いてけぼりにして、二人だけの世界が展開されようとしていた。


『ふふっ。お熱いですねお二人さん。どうするんですか魔王様? イルゼ様からは逃げられそうにありませんよ』


 妖艶な笑みを浮かべてリリスに尋ねるドライアドだったが、当の本人は未だにフリーズしていた。


「………………」


 急な告白はクソザコナメクジであるリリスのキャパシティを大幅に超えてしまったらしい。


「ん、ちょっとズルかったかな? でも後悔はしてない」

「……」

「リリス、答え聞かせて欲しい」


 つぶらな瞳で迫るイルゼに、リリスは終始たじたじだった。


「あ、ああ。そうじゃな……余もお主の事が好きだぞ」


 しどろもどろになりながらも何とか言葉を紡ぐリリス。


「――お主に全てを委ねる。だから、その……よろしく頼む」


「ん、よろしくお願いされます」


 それを聞いて満足したのか、イルゼはリリスに抱きついた。


「リリスの心臓。すごくドクドクいってる」

「な、なぁあ〜」

 

 情けない声を上げ、足の力がへなへなと抜けていく魔王様はというと――。


(一体どうなっているのじゃー!? 告白ということは余とイルゼは今からこ、恋人同士という事に!? という事はあーいう事やそーいう事を……!!?)


 イルゼとリリスの告白の意味合いが同じものなのか怪しいが、この時の彼女は告白された事により絶賛大混乱中で何も考えられず、ただひたすらに叫びたかった。


 しかしイルゼがガッチリホールドしている為、離れられない。

 しかもサチの存在を完全に忘れていて、このままだと公開処刑まっしぐらだ。


 助けを求めるようにリリスはドライアドの方を向く。視線に気付いた彼女は胸に手を当て静かに言った。


『魔王……いえ、()()()様。あなた様の気持ちはよく分かりました。それがあなた様の願いでしたら私たち妖精族はその考えを尊重します。イルゼ様。どうかリリス様の事をよろしくお願いします』


「任して。私、強いから。それと北の地の事もなんとかする。元々私がやった事だし、リリスの責任は私の責任でもあるから」


 気高く、そして美しい銀髪の少女から放たれるオーラに圧倒されるドライアド。


 だが、すぐに笑みを浮かべて言った。それはもう嬉しそうな顔で。


『ありがとうございます。イルゼ様」


 まるで、長年待ち望んでいたものがやっと来たと言わんばかりに。


『……そうかあなた様は、あの方の――』


 そしてイルゼに向かって頭を下げると、そのまま光に包まれて消えていった。



――ようやく終わった。難しい事はよくわからなかったがひとまず上手く纏まったのだろうとサチは安堵する。


 だが、次の瞬間。


「ん。じゃあ次はサチの番」


 今度はイルゼがサチの肩をガシッと掴み、そのまま羽交い締めにする。


「え、え? 一体なにを……ござっ!?」


「大丈夫じゃ。怖くない。簡潔に言おう。今からお主の記憶を消す」


 リリスが左手で彼女の前髪を上げ、右手で彼女の頭を持ち、自分の額とくっつける。


「記憶を……消すっ!?」


 リリスに残された数少ない能力の一つ、対象の記憶を覗く能力を発動させる。今回使うこれはサチの記憶を覗くものではなく、対象の記憶を操作する新たな能力だった。


 これはランドラで魔王の血を飲んだことにより、後天的に発現したものだった。本来の力の使い方を思い出したと言ってもいいだろう。


 リリスは孤児院出発前に、対象の記憶を操作できるかも知れない事をイルゼに伝えていた。


 それがあったからこそ、イルゼもリリスの正体を話したり、ドライアドとも憂いなく会話することが出来たのだ。


 もちろんサチには知られても構わないと思っていたが、告白の事もあるため今は忘れてもらった方が良いと判断した。


「動かない方がいい。リリスも初めてだから」


「は、初めて!? 拙者が記憶を消される第一号になるでござるか!?」


「安心せい。大人しくしていればすぐ終わる」


「そういうことではないでござるよ〜!!」


「暴れない」

「ぐぎゅっ!」


 尚も暴れるサチであったが、人類の最終兵器として育てられた彼女に力で敵うはずもなかった。


「ん。それにもしリリスが失敗しても私がこれで記憶を飛ばすから安心して」


 鞘に収まった腰の剣を指して言う。


「まさか、それで殴る気ではないでござろうな?」

「そうだけど? なんで?」


 さも当然とばかりに首を傾げる銀髪の少女に、もはや常識は通じないとサチは悟った。


「イルゼ殿にそんな物で殴られたら死んでしまうでござるよー! 誰か助けてくだされー! さっきの摩訶不思議な葉っぱでも良いでござる! 拙者殺されてしまうでござるよー!」


 必死に叫ぶも、誰一人として答える者はいない。


「ん、じゃあリリスよろしく」


「うむ。失敗して廃人になっても恨むではないぞ」


「恨みたくもなるでござるよ!?」


「じゃあリリスよろしく」


「ちょ、ちょっと待って欲しいでござる……ああああああぁぁぁ」


 問答無用とばかりにリリスの能力が発動する。


 徐々にサチの意識は薄れていき、最後には完全に気絶してしまった。



 彼女が目を覚ましたのはそれから数時間後。辺りは既に日が暮れ始めていた。


「……? 拙者は一体何を? 確か魔獣と戦闘しててそれから……」


 戦いが始まった後の事を彼女は何も思い出せなかった。


 状況が理解出来ず狼狽える彼女に、イルゼが手を差し伸べる。


「もう終わったよ。帰ろう。サチは魔獣の攻撃を喰らって気絶してた」


「そ、そうでごさったか……? なにやらイルゼ殿に殴られる恐ろしい夢を見たような気がするのでござるが……」


「それはお主の気のせいじゃな。白昼夢というやつじゃ」


「ん。そう。白昼夢」


 二人がそう言うならそうなのであろうと納得するも、夢というにはどうも腑に落ちなかった。


「そうでござるか……二人にはえらい迷惑を掛け申した」


「大丈夫。迷惑掛けられるのはリリスで慣れてる。さ、帰ろう。お腹空いた」


「うむ。余もお腹が空いたわ」


 二人の手を借りて立ち上がるサチであったが、途端に後頭部に痛みが走る。


「ござっ!? 妙に頭が痛むのでござるが……まるで何か堅いもので殴られたような……」


「…………気のせい。たぶん倒れた時に頭を地面に強く打ちつけたからだと思う」


 最もらしい理由にサチは納得する。


「確かにそうかもしれないでござるな。……本当に不甲斐ない」

「んっ、そんな事ない。サチはよく頑張っ(抵抗し)た」


「で、ござるか。けど今回のことでまだまだ修行が必要だということが分かり申した。これからも頑張るでござるよ」


「ん。頑張ろう」


 三人並んで歩く中、サチのポニーテールが左右に揺れる。結われた髪で見えなくなっている部分には大きなたんこぶが出来ていた。


 それが出来た理由は言うまでもないだろう。


ここまで読んで頂きありがとうございます!


「イルゼかわいいっ!」

「リリスさん頑張れ!」


『てえてえ』


と思ったら、広告下↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると嬉しいです。


 皆様の一手間が更新の励みになります、どうぞこれからも宜しくお願いします!!


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