夜更け
何度かゲームして勝利がみんなに一巡する頃、ふと会話がとまった。ジーージーーと鳴くヨゼミの声。
「草木も眠る丑三つ時にヨゼミは元気だねぇ」
祖母がそう言って目を細めた。
「あら、もう2時?」
母がスマホの時間を確認して驚いたような声を上げた。
「次でお開きにしようかね」
祖母が頷く。
「最後のお題は饅頭、大福、団子」
兄が出したお題に、祖父が饅頭好きだったことを思い出す。祖父はよく、「この饅頭は1個まるごと食べるからおいしいんだよ」と言っていた。老舗和菓子店のそれはまだ幼い僕の手の平ほどあって、ずっしりとした甘すぎない餡と歯切れのよい皮がなんとも絶妙な割合だった。饅頭を食べたせいで夕飯が食べられなくて母に怒られたのさえいい思い出だ。今座っているこの縁側で祖父と食べ、渋い緑茶を啜る時間が大好きだった。忘れていた空腹感がひょっこりと顔を出す。僕は素早く饅頭とスマホに書き込んだ。ゲームが始まれば興奮でお腹は静かになるはずだった。
「順番は俺、婆ちゃん、雄大、母さんでいいかな?」
1ゲーム毎に1人ずつ順番をずらしていた流れから、兄が確認した。
兄はみんなが頷いたのを見てから話す。
「老舗和菓子店にも、スーパーにも売ってるけど俺は老舗和菓子店のが好き」
食べる瞬間を想像したのであろう兄がうっとりとした顔で言い、目をつぶった。
「2つに割ったときにのぞくアンコがたまらないね」
祖母も釣られるようににうっとりとして目をつぶる。
「プツッと薄皮を噛み切る瞬間の幸せったらないね」
母までも兄や祖母と同じ顔をする。
「じいちゃん好きだったよね」
僕も何度も頷いて目をつぶった。
「仏壇にちょうど5個あるぞ」
僕は聞こえた言葉に目を開いて
「食べてもいい?」
と母に聞いた。
「今日だけ特別よ?」
母はしかたないなぁと笑って頷いた。僕はガッツポーズで喜びを表現した。
「緑茶、ちゃんと5杯入れてくるからね」
祖母がよいしょっと立ち上がり、仏壇を見て微笑んだ。それを手伝おうと母もついていく。その背中を見送って、
『1個まるごと食べるから美味しいんだよね』
僕と兄は顔を見合わせて頷きあった。