楽しい時間はあっという間
「お題は烏龍茶、紅茶、コーヒー」
兄が言い、さっきと同じようにそれぞれが準備をした。僕は紅茶だ。
「さっきと逆の順番でやってみない?」
最後の方が戦略が立てやすそうだと思った僕はそう聞いてみた。
「じゃぁ、母さん、俺、婆ちゃん、雄大な」
順番もあっさりと決まり、母がまずアピールを始めた。
「香りが良くてケーキと一緒に飲みたくなるわ」
これは紅茶か、コーヒーか。他の人が全員烏龍茶の可能性を捨てて勝負に出たわけだな。今度は自分だけじゃなさそうな可能性に心が躍った。
「煎れるとき……綺麗に色が出たらうれしくなるなぁ」
兄が慎重に言葉を紡いだ。母の後にあえて3つ共に共通していることを言っているから、おそらく烏龍茶で間違いないだろう。
「芸術品みたいなソーサーとカップで飲むとお姫様になったような気持ちになるねぇ」
祖母が言う。これはどっちだ?冷たいのなら3つともグラスのイメージが強い。カップとソーサーと聞けばコーヒーがまず思いつくけれど。紅茶の線も捨てきれない。兄を指すのが安全だなぁ。紅茶チームが仲間割れしないように僕は思いきって勝負に出た。
「‘不思議の国のアリス‘でのキーアイテムだよね」
「じゃあ1度目の指名行くぞ、せーのっ‼」
祖母と兄が僕を指差し、母と僕が兄を指差していた。このままでは引き分けになってしまう。
「これ、2度目必要?」
兄がみんなに確認する。母が首を振り、僕も少し考えて首を振った。母が僕と同じなら指名は平行線だし、違うなら僕の負けが確定するだけだ。
「じゃんけんしたらええよ」
祖母が柔らかく笑って言った。
えっと、パー出す癖があって、僕が1度目順番決めるときにパーだしたから次もパー出すと思われているはず。チョキなら最悪でもアイコにできるだろう。
「ジャンケンポン」
兄はパーを出した。3度目の正直ならぬ、4度目の正直だ。僕は勝利を手に入れた。
「紅茶の勝ちかな?」兄が確信しているような声で言った。
「多分コーヒーかな?」
母が首を振って答える。
『えっ!?』
僕と兄が同じタイミングで聞き返す。母のスマホにはコーヒーの文字。祖母が嬉しそうに珈琲とかいたメモを掲げた。
「なんで僕を指差さなかったの?」
「お婆ちゃんが紅茶だった時。私が雄大を指差していたら2度目で、私に2票集まるのは確実でしょ?そのリスクを避けたのよ」
ペロリと舌を出して母は言った。
僕は母の戦略を聞いて、そんな考え方もできるのかとワクワクした。シンプルなゲームだからこそ思考の経緯を聞くのは面白い。
「兄ちゃんは烏龍茶だよね?」
僕が聞くと
「そうだよ」と口を尖らせた。