家族揃い踏み
「こうトントンと答えられると悔しいなぁ」
兄の負けず嫌いに火が付いた。だが、こちらにも弟のプライドと言うものがある。いざ、勝負。
「……次は、飴、ガム、ラムネ」
またお菓子か、小腹が減ったなぁ。でもこんな時間におやつを食べたら母はものすごく怒るだろう。あぁ、でも。口内で飴玉を転がすぐらいならバレないんじゃないだろうか。いやいや、もし母が気づいたら「口元から甘い匂いがするよ」といって見抜く気がする。ガムなんてもっての他。……ラムネなら一瞬で溶けるし香料も少なそうだ。
ラムネでも持ってくるか兄に聞こうとしていつのまにか下げていた視線を上げた。長く質問しない僕に「降参か?」と兄が笑いかけた。そうだった。質問を考えなくては……。
「……それは、飴よりも長く口内に残りますか?」
僕は妄想のおかげで手に入れた質問をする。
「……えぇっと」
兄が言いよどんだ。
「飴だね」
僕は勝ち誇って言う。ガムなら長く残ります。だし、ラムネなら一瞬で溶けるから悩むことないからね。
「っだーー!! すこしはかわいげを見せろよ!!」
負け通しの兄が吠えた。僕は慌てて人差し指を口に当て、シィーー!! と兄を宥める。だが、時既に遅し。
僕が言い終わらないうちに廊下へと続く襖ががらりと開いた。
「あんた達、いい加減寝なさい!!」
仁王立ちの母がそこに立っていた。怒られる!! 僕は覚悟して身を縮めたのに兄は平然と母に言い返した。
「暑いんだもん、母さんも寝つけなかったんでしょ??」
「まぁね、……ところで喉乾かない?」
母はそう答えてグーを突き出した。ジャンケンで飲み物を取りに行く人を決めようということか。
「最初はグー、ジャンケン、ポン」
僕以外の2人がチョキを出して僕が台所に麦茶を取りに行くことになった。
3人分のグラスを持って部屋に戻った僕は2人が「雄大は大体パーだしちゃうからねぇ」と笑っているのを聞いた。
僕は襖を開けて再戦を申し込んだ。2人はパーを出した。僕の負けだった。解せぬ。
「かわいげあるじゃないか」
と兄の機嫌が直った。僕はもう一度あの栄光を取り戻したかった。だからこう提案した。
「さっきのゲーム、母さんも一緒にできないかな?」
「似たようなことならできるぞ」
兄は得意げにそう答えた。「なになに?」と兄の言葉の先を促す母。興味を持ったようだ。
「エスパーゲーム2!」ジャーンと効果音のしそうな勢いで兄が言うと同時に襖が開いた。
「おやぁ、騒がしいと思ったら、皆おきとるんか」
祖母がそういって目を細める。これで家にいる全員が揃ったことになる。
「起こしてゴメンね。婆ちゃんもゲームする?」僕が聞くと
「折角だから、しようかねぇ」と祖母は嬉しそうに頷いた。
「じゃあルールを説明します」
一つ咳をして兄が厳かに言った。その顔がおもしろくて僕は思わず吹き出す。つられた母と祖母も笑顔だ。
「3つのお題、アイス、チョコレート、かき氷から好きな単語を選んで心の中だけで覚えて」
最初と同じお題だ、お腹がくぅーと情けない声を上げる。お菓子食べたいって頼んでもきっと母はダメだと言うだろうしなぁ。僕は麦茶でお腹を慰めた。
「ここがちょっと難しいよ」
兄はそういい、言葉を切った。
「誰が少数かを当てるんだ。例えば。俺と雄大がアイス、婆ちゃんがチョコ、母さんがかき氷だったとして。
1人ずつ1度だけ発言して自分の考えを伝え、相手の描いているものを推理する」
兄は、理解が追いついているかを確認するように僕たち3人を見た。
「自分と違うことを考えている人を探して、仲間外れとして1人指名する。これは1度だけ選択を変えられる。多数決で1人、ゲームメンバーから外す人を決める。残ったメンバーのうち、同じことを考えている人が多い方、あるいは同数の勝ち。ただし、さっきの例で言うともし雄大が指名された場合は婆ちゃんと、母さんの勝ち。仲間を指名しちゃったらそのチームは問答無用で負けになる」
一気に説明した、兄は心配そうに僕たち3人を見た。理解しているかと問われるとちょっと自信がない。
「とりあえず1度やってみましょう」
母の提案に乗り、ゲームが始まった。