兄の提案
「なぁ、エスパーゲームでもするか?」
ヨゼミの声を聞くだけの時間にもいい加減飽きてきた頃、兄が思いついたように言った。
「なにそれ、聞いたことないよ。どんなゲーム?」
僕は少し前のめりになって聞き返す。退屈しのぎができそうだ。
「まず3個の名詞を決める。……そうだな、例えば。アイス、チョコ、かき氷」
兄が指を折りながらゆっくりと説明する。僕はおいしそうな並びに夜食が食べたくなった。
「で、俺はその3つのうち1つをこのスマホに書き込むから、雄大は1度だけ質問して俺が考えている物を当てるんだ」
兄が最後まで説明したのを聞いて僕は頷いた。
「分かった」
兄は僕から見えないようにしてスマホに素早く何かを打ち込み、僕と兄の間にスマホを伏せて置いた。
「俺の方は決まったぞ」
さぁ、質問はなんだ?と目が輝いている。僕はそんな兄に「ちょっと待って」と言って考える時間を稼ぐ。
溶けますか?だと絞れない。……夏祭りで食べますか?って聞いたら……ダメだ、アイスもかき氷も売ってる。うーん、難しいぞ。
悩みながらそっと兄の顔を伺うと、僕を悩ませるのが楽しいといった表情でニヤニヤしていた。間違ったら、鬼の首を取ったように馬鹿にしてくるにちがいない。……絶対に正解してやる。冷凍庫に入って売っているか?ダメだ、アイスとかき氷の区別がつかない。……そうだ。僕は思いついたことをゆっくりと兄に聞かせた。
「兄ちゃんが考えているのは……主成分が水と砂糖と色粉ではない、かつ、売られている時は冷凍庫に入っているものだね?はい、前半間違っている、後半間違っているで答えて」
兄が目を真ん丸にして固まった。僕が最初から上手く質問できるとは思っていなかったらしい。
「……はい」
渋々といった様子で答える兄、正解を確信する僕。
「アイスクリームだね?」僕は正解を突きつけながら伏せられたスマホの画面を見た。スマホの画面に”アイスクリーム”の文字が踊っている。僕の勝ちだ。
「むぅ。それ実質質問2つじゃんか。次の問題はその論法以外で導き出してみて?」
この理屈が万能であることを見抜いた兄が悔しそうに言う。
「どうしても思いつかなかったら、その論法使ってもいいけど」
小声で付け足した兄は、その言葉によって僕が意地になるのを知っている。策士め。
「次は鉛筆、シャーペン、ボールペン」
兄は指を折って、言い、1度目と同じ要領で準備をした。
これまた難しい。3つとも書く物だ。消しゴムで消せるか? だとシャーペンと鉛筆の区別がつかない。
削って使うものか? だとシャーペンとボールペンの区別がつかない。僕は使う時の違いを必死で考えた。
兄に言われた禁じ手に手を伸ばしたくなる。しかし、それで答は得られても兄には負けたことになる。
書き心地を聞くなんて抽象的だし、色の濃淡も筆圧によって変わってくるからシャーペンと鉛筆の区別がつかない。
「兄ちゃん、ここに思い浮かべている書く道具があります」
僕はそう言って右手を上向け、兄に差し出した。
「この道具を使って左手に”おやつ”と書いて」
兄は空想のそれを受け取り、利き手の親指を1度曲げ、左手にお・や・つと書いた。
「ボールペンだね?」
兄が悔しそうにおもいっきり顔をしかめた。
「どこで分かったんだ?」
「受けとった後の指の動きだよ。鉛筆なら親指曲げないし、シャーペンなら細かく動かすでしょ?」
僕はそう胸を張って種を明かしてやった。