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第2話 経験"値"って、なんですか?

とりあえず週一くらいのペースで

 あらかた説明が終わり、ほとんどの生徒はロビーを飛び出していった。夕飯まで、自由行動の時間となったのだ。


 仲のいい者同士で固まってダンジョンに挑むとか、魔法を試すとか、部屋の模様替えをするとか、散策の続きをするとか、各々やりたいことが定まっているようで何よりである。



 さて、一方の自分はというと。


 今から補講のお時間です。




 参加者は僕と、もう一人。図書委員で文芸部や美術部に所属している大滝鶴祢子(つねこ)だけだ。


 普段は特に話すことはないが、別に話そうと思えば話せるという、おとなしい女子クラスメイトにありがちな間柄である。


 ただ、眼鏡をしていない彼女は、なんというか、とても新鮮で…………。


「……なにか、顔についてる?」

「えっ。あぁあっ、いや、大丈夫。いつもと雰囲気が違うなーって、思ってただけ」

「……そう。なら、いいけど……」


 しまった、妙な反応をしてしまって空気が気まずい。

 そう思って、咳払いで誤魔化そうとしたら、なんだか余計に気まずくなった。


 心の中で助けを求めた、ちょうどそのとき。

 駆け足で音が近づいてきた。

 先生がいくつかの本と小さい黒板を抱えて戻ってきたのだ。


 ナイスタイミングです、先生。


「すまんすまん、待たせたね。ヤスラギ、ツネコ。なにから確認する?」

「えっと、自分は、その……ほぼ全部なので……申し訳ないのですが、最初からお願いします」

「おぅ……最初からか……。まぁいい、分かった。折角だし、もうちょっと細かいとこまで説明しよう。ツネコもそれでいいかい?」

「はい、構いません(こくり」

「よしっ、じゃあまずはこの世界、『魔界』についてのおさらいだ」


 先生は小さく息をつくと、本なんかを取りに行く前に用意してあった紅茶を口に運んだ。

 ぐいっと飲み干して、またひと息。

 準備が整った。


「未だに信じられないかもしれないが、魔界(ここ)はいわゆる、ファンタジーの世界だ。

 魔法はもちろん、精霊エレメント魔獣モンスター幽霊ゴーストなどと呼ばれる、科学的に説明できない現象や生物たちがこの世界には存在している。……まぁ、そこら中にいるから、そいつらがどんなものなのかは、すぐに分かるだろうから割愛するとして。

 重要なのは、この世界は君たちが暮らしていた現実世界のすぐ下に位置している、ということ。そして。それ以外のことは、私もあまり分かっていないということだ。

 まだまだ未解明な部分が多いから、今はとりあえず地底世界みたいに物理的に下にある世界ではない、ということだけ分かってくれていればいいだろう。空だって見えるしな。

 とにかく、この『魔界』という場所は、私達の世界からこぼれ落ちてしまったものたちの、言うなれば()()()になっている場所なんだ」


 上にあるのが、ボクらの世界。

 下にあるのが、コチラの世界。

 そこには重力のような力が存在し、上から下にモノは落ちる。

 下から上に行くには、その流れにさからわなければならない。それこそロケットで月に行くようなものだ。


 黒板を使って図示されたことで、僕はようやく先ほどの説明の意味を理解できた。


「なるほどー、これでようやく先生が仰っていたこれまでの経緯が分かりましたよ。

 向こうの世界の先生が、僕らを魂だけの状態にして、こちらの世界に()()()()()()

 こちらの世界の先生がそれを拾って、魂だけだった僕らに、魔法で肉体を用意した。ってことですね?」

「あぁ、だいたいその認識であっている」

「……けっこう衝撃的なことのハズなのに、分かっていなかったのは僕くらいだったのは、やっぱり……」

「あぁ、それはアレだな。他の連中は、アニメとかゲームでこういう状況を見たことがあるからだろうな。

 それこそ、有名なゲームやアニメにもなった小説に、似たような場所があったしな。ツネコ、『アンダーワールド』や『幻想郷』って説明はピンと来たか?」

「あ、はい。その……、私はどっちも知っていたので、わりとすぐに理解できました」

「だとよ、委員長さん」

「 うーん……これは、予習していたかどうかの差ですね……。いったいその『アンダーワールド』と『幻想郷』というのは、どんな場所なんですか?」


 おそらく何らかのゲームの舞台だろうとは思うが、参考までに僕は質問をした。

 これには先生が返答した。


 片や、有名なライトノベルに登場する明るい雰囲気の死者の世界。


 片や、有名な同人ゲームの舞台そのもので、現実から隔離された大結界の中の領域。


 両者に微妙な違いはあるものの、この世界とはいくつか共通点があるという。


「そうだな……この世界とも共通しているのは、『世界から消えたはずの生命や物質、概念が残っている』、『行こうと思えば行ける』、『入ったら基本、二度と出られない』といった要素だな。

 ……あっ、"例外的"に『その世界からの移動が可能な人物がいる』っていうのも共通点だな。そいつらは敵だったり、中立だったり、味方だったりと色々だが、大抵の場合、ろくな奴じゃない」


 へぇー、空想上の世界に似た世界か。

 ゲームを開発する人たちは、よくもまぁ色々と考えつくものだ。

 そして、やっぱり、さっきの説明も人によっては分かりやすいものだったわけだ。


「さぁ、ここまでは分かったかな?」


 そう尋ねられたので僕が頷くと、先生は黒板に描いた絵をを消し始めたのだった。



 それにしても、入ったら二度と出られない世界、か。

 まるで蟻地獄のようだ。


 でも、たしかにアリジゴクにとっては、そこは巣穴に過ぎない。当然、出入りは自由だ。

 もしくは、そもそもスケールが違う人間にとっては、単なる虫が作った穴でしかない。

 指を突っ込んでアリを救うことだって、アリジゴクをつまみ出すことだって、両方まとめて埋めることだって出来るだろう。


 なるほど。

 そういう視点で探すのであれば、たしかに、脱出方法はこの世界のどこかにあるよな気がしてきた。


「それで、私たちはその"例外"を探すために、この世界に呼ばれたんですよね?」

「……あぁ、そうだ、その通りだ」


 ツネコさんの何気ない質問に対し、先生は思いつめたかのように、その顔を曇らせた。


「……何処にあるかも、そもそもあるかどうかも分からない方法を探すには、同じ志を持つ仲間が必要だったんだ。仕方がなかったとはいえ、勝手に巻き込んでしまって、本当にすまない……」

「いえ、いいんですよ。だって、その為に先生は色々と準備して下さっていたんですから。私たちが()()()()()()()準備を」

「……あぁ、そう言って貰えると助かるよ」


 その言葉に、先生はうっすらと涙を滲ませた。

 それはまるで、僕らが来たことで、彼の固まっていた感情がだんだんとほぐれてきているのを表すかのようだった。




 この人の壮絶な人生を聞けば、誰も、責めるようなことはしないだろう。


 未知の世界で10年、命懸けの日々を送りながら、たった1人で帰る方法を探し続けていたのだ。

 しかも、元の世界に未練を残すどころか、1つの命を共有したもう1人の自分が、元の世界では幸せに平和な日々を送っているのだと知ったとき、果たして僕にそんな酷い仕打ちを耐えられるだろうか……。

 日常を守るために、非日常で闘い続けた彼の心境は、僕らには到底、計り知れないものだったに違いない。




 先生は目を袖でグイッとぬぐい、少しだけ明るくなった顔で、僕らに問いかけた。


「さぁ、次は何を聞きたい? 今後の目的については大丈夫か?」

「はい、そっちは大丈夫です。『無事に帰る為の方法を見つける』こと。それが僕たちの目的です」

「よし。では、そのためにまず最初にすべきことは?」

「えーっと……『レベルを上げること』……?」

「その通り! なんだ、ちゃんとわかってるじゃないか!」

「いや、あの、言葉の意味は分かるんですが……」

「……鈴木くん。もしかして、そもそもレベルが何か分かってないの?」

「うっ(グサリ」


 ツネコさんからの鋭い指摘が刺さる。図星というやつだ。

 さっきの説明では、みんなが爆速で理解したせいで質問する時間すらなかったのだ。


「簡単よ。レベルっていうのは、自分自身の強さを表す数値のことで、レベルが低いと、体力も攻撃力も低いままで、雑魚モンスターにすら苦戦するの。

 だから、バトルしたり勉強したりしてレベルを上げろって言われてるのよ。低レベルのまま世界を探検するだなんて、まさしく自殺行為だわ」

「いや、そういうものだっていうのは、なんとなく分かったんだけど……その『上げ方』が、どうしても理解できなくて……」

「上げ、方……?」


 僕の疑問があまりにも変だったらしく、ツネコさんは首を90度に傾けた。


 僕らがこうして補習授業をしている間にも、何人かは先に施設内を散策したり、ダンジョンに潜ったりして、"経験値"や"ドロップアイテム"というものを稼いでいるらしい。


 ドロップアイテムは、まだ分かる。

 鹿を狩れば、その肉と角と毛皮が"ドロップアイテム"だ。


 でも、経験"値"ってなんだよ!!

 ……というのが、僕の本音だ。


 経験を数値化したり、それらを物理的に集めるという行為に僕は違和感しかない。


 次の質問は、これで決まりだ。


「先生、どうしてモンスターを倒したり、知識を得ることで、レベルが上がるんでしょうか。もっと、その原理そのものから教えて欲しいです」

「ふぅむ、原理ときたか……。その辺の内容は、今後じっくり座学の時間に教える予定だったが、まぁいい。予習として、簡単に解説してやろう」


 そういって先生は再び、黒板を持ち出した。


「まず、レベルには2種類ある。肉体レベルと魔術レベルだ。大抵の場合、それぞれを合計した値のことを"レベル"と呼んでいる。

 これらのレベルを上げるためには、魔力を含んだ肉や植物を食べるしかないし、魔法を使うための魔力器官類を訓練や実践で成長させるしかない。

 だがしかし、魂を元に純粋な魔力のみで再構成された君たちに関しては、方法はそれだけに限らないんだ。

 倒した敵から大気中に放出される魂や魔力を吸収したり、魔力の濃いダンジョンみたいな場所に入って魔力器官類を同調させることでも、同じようにレベルを上げることが可能なんだ」

「……先生、それは普通の人には出来ないことなんですか?」

「そうだ、ツネコ。いかにもゲームらしい方法だが、じつは普通の人間には出来ない行為なんだ。

 そもそも、普通の人間がレベルを1つ上げるためには、それこそ年単位の時間が必要になる。レベルが1違うと、学年が1つ違うようなものだといえば、イメージしやすいはずだ」

「ああ、たしかに魔術レベルを学力だと考えると納得です。学年が違えば、文字通り、レベルが違いますもんね」

「……えーっと先生、質問いいですか?」

「ん?なんだヤスラギ?」


「そもそも"魔力"って、何ですか?」


「「えっ」」


「えっ」


 ぽかんとした表情で3人は見つめ合い、しばし、静寂の空気が流れた。



 いや、2人が言いたいことは痛いほど分かっている。

 理解力のない僕が全面的に悪いのだ。

 融通の効かない、このカチカチの頭がすべて悪いのだ。


「鈴木くん……本当にゲームしたことないんだね。というか、漫画も読んだことないんじゃ……」

「いやぁ〜、その、恥ずかしい話ですが、その通りです、ハイ……」

「……仕方ない、魔力の説明からやり直しだな」


 黒板をパタンと伏せ、先生はおもむろに立ち上がる。


「とは言っても、大したことは説明できないんだがな。向こうの物理法則とは根本的に異なるエネルギー、それが魔力と称される4種類の力だ」


 そういって、先生はポケットから4本の鉛筆のようなものを取り出した。


 もちろん、普通の鉛筆ではない。

 芯の部分が赤、青、緑、白の半透な結晶で出来ているようだ。


「うわぁ……!綺麗ですね!」

「これは、……?」

「こいつは『火』、『風』、『水』、『土』の魔石、すなわち魔力の結晶から作った、魔法陣用の鉛筆だ」

「……えっ? ちょっと待ってください? 力なのに、結晶化するんですか!?」

「あぁ、そうだ。……ゲームとかだと、けっこう定番なんだがな。まぁでも、不思議だろう? だけど、これくらいで驚いてたらキリがないぞ」


 そういって先生はニヤリと笑いながら、緑の鉛筆を構えると……。


 スゥーーー……シャッ!

 スッ、スッスッーー……シュッ!


 何も無いはずの空中に、翡翠やエメラルドのように輝く立体的な模様を描き始めた!


「うわわっ!? 何これ、スゴイ!」

「これは魔法を使う手段のひとつ、俗に言う『魔法陣』ってヤツだ。早い話が、魔法の設計図だな」


 ある程度まで描いたところで、今後は白い鉛筆に持ち替えた。そして、また模様に重ねるように描いてゆく。

 白色の次は青い鉛筆で。こうして、直径30センチほどの筒状に何層も重なる光の筋が形作られた。


 最後に赤い鉛筆で、先端部分を塗り潰すように描かれたとき、僕は直感的にこう感じた。


「…………これって、銃……ですか?」

「おぉ、よく分かったな! 大正解だ、ヤスラギ。いったいどうしてそう思ったんだ?」

「えっ、えっと、なんというか、全体的に砲身のように見えたのと、緑と白が螺旋状に絡まることで、なんとなく先端の赤いのところを弾き飛ばすようになってるような気がして……」

「ほほぅ……。ほぼ正解だ、相変わらず素晴らしい分析力だな。では、最後にこうなることまで読めたかな?」


 さぁ、仕上げだ。

 そういって、先生はまるでアコーディオン奏者のように、積み重なった魔法の光を両手で挟みこむと……


 スっ……パチン


 と、手のひらの中へと押し込めた。


 先生が手を開くとそこには、一つの小さな円に圧縮された魔法陣が浮かび上がっていたのだった。


「そ、それは、予想できませんよ……」

「ハハッ、そりゃそうだ。とまぁこんな風に、魔力はその効果を組み合わせることで魔法になるんだ。もちろん、できることには限界があるけどな」


 先生は、魔法陣が刻まれた手の平を壁に向ける。


「いま作ったコレは『魔砲』。そこら辺にある空気なんかを固めて飛ばす、空気砲の強化版といったところだ」


 ポッ……!   ……コッ


 小さな破裂音と壁に何かがぶつかる音。

 どうやら、先生は魔法でなにかを打ち放ったようだ。


「へぇー! 何か力を溜めたり、魔法陣が光ったりしないんですね」

「あぁ、そうだ……と言いたいところだが、それについては多少、個人差がある。

 私にとって、この程度のことならボールを軽く投げるくらいの力しか使わないから、叫んだり、光ったりしないだけだ。だから、そう……ちょっとした魔法でも、叫ぶように唱える人も、まぁ、いるわけだな」


 先生は涼しい顔のまま、もう一度、今度は廊下に向かって手を向ける。


「魔法を使うときに大事なことは2つ。『正確な術式の構築』と『4種の魔力の調整』だ。ただ、術式の構成力は魔法の知識に依存するから、今はひとまず置いておこう。

 今からまた2回撃つから、よく見ていてくれ。面白いことに、全く同じ術式でも魔力を調節すれば全然違う魔法に変化するんだ」


 シュボッ!  ……ポスン


 ボッ……!  ……ゴッ!!


「今、撃った二発のうち、一発目は『火』と『風』を多く、二発目は『土』を多くして撃った。違いは分かったか?」

「ハイ! えっと、一発目の方は、さっきよりも勢いよく発射されてました。二発目の方は、勢いは普通でしたが、なんだか弾が重くなっていたように感じました」

「その通りだ。魔力は象徴される属性ごとに、いくつかの特性をもっているんだ」



 『火』は白色。熱や光など全ての魔力エネルギーの源で、火力や出力そのものに関わっている。


 『風』は緑色。運動をつかさどるエネルギーで、対称の形を保ったまま移動させることができる。


 『水』は青色。流動するエネルギー、物質の内部を流れるエネルギーなので、色々と応用が効くらしい。


 『土』は赤色。位置エネルギー、魔力を物質化したり、空間に固定したり、物質の硬度や重量に干渉したりできる。


 また、人にはそれぞれ得意、不得意な属性がある。


 得意な属性は顕属性。不得意な属性は潜属性と呼ぶそうだ。ただ、これもやっぱり個人差があるらしく、全く使えない人も、不得意なく使える人もいるそうだ。



 既存のエネルギーに置き換えながら説明されたおかげで、僕はなんとかそのように理解することができたのだった。


「さて、4種の魔力の詳しい使い道については、明日以降の講義でじっくりと扱う予定だから、ひとまずこれくらいにして本題に戻るとしよう」



 説明を終えた先生が、緑色の鉛筆……すなわち、風属性の鉛筆を杖のように振ると、伏せてあった黒板がひとりでに起き上がった!


 それだけではない。


 同時に、先生の紅茶のポットもひとりでに持ち上がり、カップに紅茶が注がれていく。


「おっと、少し冷めてしまったな」


 まるで先生の言葉の意図を組むように、ポットは注ぐの中断し、先生の手元へと飛んできた。


 そして、待ち構えていた白色の鉛筆で、ポットの側面をなぞる。

 今度の白色の光は、ポットに染み込むようにすぐに消えた。


 再び注がれた紅茶からは、湯気が立ち上っていた。


 平然と行われた魔力の行使に、僕もツネコさんも呆然とする。

 しかし、その心の中は決して穏やかではなかった。



 凄い!! まるで超能力のようだ……!


 ん?……超能力、……あっ、そうか。そうだよ!

 魔法は超能力だ、って考えればこんなに悩まずに済んだんだ!!


 なんだよ、もう。

 なんで今まで、その発想に至らなかったんだろう!!

 これらは全部、超能力の一種だ。見て、聴いて、考えたって、科学的に解明されてないものだ、そんなの僕に分かるわけがない!

 『考えるな、感じろ』、『案ずるより産むが易し』っていう格言や諺は、こんな時のためにあるんだ。

 実際に使えるようになった方が、よっぽどその本質が理解できるに違いない。


 それに、僕も魔法が使えるようになれば、あんな風に物を動かしたり、調理したりすることも出来るんだ。


 


 難しい魔力うんぬんの理屈より、何気ない先生の便利な仕草が、結果的に僕を魔法の沼に引きずり込むきっかけとなったのだった。



 先生が用意してくれた紅茶を飲んで一息ついた3人は改めて、レベル上げについての補習を再開する。


「さぁ、ヤスラギ。普通の人間には不可能なレベル上げが、お前たちには可能だ。それはつまり、どういうことだ?」

「それは、もう察しています。普通の人よりも成長が早いわけですね?」

「あぁ、そうだ。さっきも言ったが、普通の人間なら1年で2レベルも上がれば優秀な方だ。

 もちろん、例外的に4つ、5つと上がるヤツだっているが、それは並大抵の人間には不可能な努力と優れた才能によるものだ。気にしなくていい。

 だが、残念なことに、いくら頑張ってレベルを上げても、人間の成長には限界がある。肉体レベルの限界はおよそ30、魔術のレベルは最高でも70と言われている。

 つまり、どんなに頑張ったとしても()()()()()()レベル100が限度なんだ」


「……なるほど、私たちには、それが無いんですね?」

「えっ、なにが???………………あっ!」

「フッフッフッ、そういうことだ。さっきも言っただろう? 特別製だってな」

「そうか……!僕らは今、普通の人間じゃないんだ! つまり、その法則ルールは通用しない!! そうですね、先生?」

「あぁ、そうだとも。そのことが分かったのなら、多少はワクワクしてきたことだろう。

 さぁ、勇者たちよ! 細かいことをいつまでもグダグダと気にしてないで、経験値を、すなわち魔力を! その身に収集し、レベルを上げるのだ!! さすれば、道は開かれん!!」


「ハイッ!」「えっ、と、……急にどうしたんですか?」

「ちょっと、鈴木くん……今のは、そういうノリなのよ。ゲームのお約束みたいなセリフを言っただけなの……。

 ハァ…………いい、鈴木くん? 今後、もし、また何か分かんないことがあったら、一度スルーしたほうがいいわ! そして、あとでこっそりと周りの人に聞くといいわ。これはきっと、あなたの為になるアドバイスよ」

「えっ、あっ、ハイ、ワカリマシタ……」


 途中から2人のテンションが上がって置いてけぼりになってしまった僕は、とりあえずツネコさんのアドバイスに従うことを腹に決めた。

 少し苛立った彼女の表情から『いいから空気を読め』と言われたような気がした。


「先生、ありがとうございました。魔法の授業、楽しみにしていますね」

「おっ、もういいのかい?」

「はい、大丈夫です。私が知りたかったのは、"この世界に住む人との違い"でしたから」

「ふむ……?なら確かに。お望みの話は聞けているな。でも、なんでそんなことを? まだ、この世界の住人にあったわけでもないのに」

「何言ってるんですか、いるじゃないですか。目の前に」

「……おぉっと、たしかにそうだったな。何を考えてるかは知らないが、参考になったかい?」

「えぇ、とても参考になりました。それじゃ、私は先に失礼します」


 そう言い残して、ツネコさんは颯爽と立ち去ってしまった。


「ヤスラギ、お前さんはどうする? もうちょっとだけ続けるかい?」

「いえ、僕も最低限のことは理解できたと思うので、当初の予定通り、レベルを上げてこようかと。

 ……本当は、急いでレベルを上げて、僕も魔法を使ってみたくなっただけなんですが……」


 先生は一瞬だけキョトンとして、それから大いに笑ってくれた。


「ハッハッハ! そうかそうか、そいつは良かった! 思う存分、上げてくるといい!」

「ハイ、頑張ります!! ちなみに先生は、一番効率よくレベルを上げる方法って、ご存じだったりしますか?」

「なんだ、本当に急に、やる気を出してきたな。そんな今のお前さんにオススメなのは、やっぱりダンジョンだな。

 初級ダンジョンの底まで潜って、出る。これを繰り返すだけでも、そこそこ経験値が稼げる筈だ。あとは、その道中にどれだけ"モンスター"を倒せるかが、ポイントになるだろう」

「なるほど、やってみます。たしか、必要な道具とかは、全部ダンジョンの入り口に置いてあるんでしたよね?」

「あぁ、そうだ。だから、ひとまず手ぶらで行って、ザァーっと一回、潜ってこい」

「ハイ! 行ってきます!!」


 僕は深くお辞儀をして、その場を立ち去った。

 今から行けば、まだ誰かと一緒に探検できるかもしれない。

 そんな気持ちが、僕を急かしたのだった。


「ご飯までには戻ってこいよー……なんてな」


 彼はヤスラギを見送ると、先ほどまで使っていた場所を一瞥だけして、建物の奥にある自室へと歩きだした。


 そんな彼のあとを追うように、本や黒板、茶器を乗せたトレーが浮かんで動き出す。

 その様子は、この世界では、ごく一般的なものであった。

氏名 大滝 鶴袮子つねこ

番号 19

出身 永里中学校

誕生日 10月28日

身長 154cm

体重 48㎏

成績 260人中80位(クラス13位)

特技 ちょっとしたイラスト

趣味 読書(実はなんでも読む)

自慢 花の種類を匂いで当てられる


好きなゲーム

TRPG、ポケモン、アトリエシリーズ、フリーのホラーゲーム


Lv.12(体12+魔0)

筋力 E

体力 D

走力 E

知力 C

魔力 G

職業 なし

顕属性 土・水

潜属性 火

専技スキル なし


ヤスラギのクラスメイト。普段は大人しいが、文学部や美術部など、仲の良い友人とはよく喋る。ただ、このクラスにはそれぞれの部員が一人ずつしかいないので、教室では大人しい印象が強い。

仲の良い友達からの愛称はネコ、コンコンなど(ハンドルネームの「きつねこ」が由来)

中学生のときにTRPGにもハマり、それ以来、様々なジャンルに手を伸ばし、沼に沈めたり、沈められたりして日々を過ごしている。


(参考にしたキャラクター)

マシュ・キリエライト……Fate/GrandOrder

雨宮桜子…… PSYREN -サイレン-

佐々木姫子……ベイビーステップ


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