第1話 どうすれば元の世界へ戻れるのですか?
前に書いた小説を読み返したところ、とても読みずらく感じました。いやー、お恥ずかしい。
アイデアを形にしたくてまた書き始めた訳ですが、読みやすい文章がかけるように頑張りますので、お付き合い頂けたら幸いです。
なんかいい感じに続くようになったら、途中で止まっている作品の続きも書きたいとは思っているのですが、今のところ、そんな余裕までありません、すいません。
とりあえず、あまり気負わずに、進めていこうと思います。(っ'ヮ'c)
初めての文化祭まであと1日。
部活動も今日は休止。どのクラスでも、いよいよ本格的な仕上げ作業が始まっている。
「よっしゃあー! 完成だ!」
「「おぉー!!」」
ダンボールの大剣を手にした男子生徒が、ほかの男子たちに見せびらかす。
そんな、小学生のようにはしゃぐ同級生を、呆れた目で見る女子たち。
「男子って本当にあぁいうの好きだよねー」
「それなー」
雑談する彼女たちの手元では、かわいらしいモンスターのイラストが、みるみるうちに描き上がっていく。ゆるいおしゃべりをしながらでも、作業はテキパキと進んでいるようだ。
私立快晴高校 英数科1年2組。
通称12HR。英数科というのは、普通科よりは成績の良い生徒が集められ、レベルの高い英語と数学を学習する、いわゆる特進クラスのことだ。
真面目な生徒が多いだけあって、手を抜く生徒は少ない。
だが、彼らの凄いところはそこではない。
普段、勉強の出来るクラスであればあるほど、その展示テーマは堅苦しいものになりそうなものだろう。
だけど、彼らはお祭りの楽しさを重要視して、しっかりと話し合いをし、展示テーマを「RPG」にした。
もちろん、「ロール・プレイング・ゲーム」のことである。
一言でRPGといっても、それが指すゲームの幅は想像以上に広かった。
……というより、デジタルゲームの大半がRPGに分類されるということを、僕はそのとき初めて知ったわけだが、色々なゲームのデザインを組み合わせることで、全く別の展示作品を作り出すことも出来る。
また、資料も豊富で作りやすい上に、文化祭に来る人の多くは同年代か、年下の子ども達。
悩むまでもなく、ウケるだろう。
そして、なによりも大事なことがひとつ。
僕以外のクラスメイトはわりと幼少期からこういったゲームが大好きだったというのが、一番の後押しになった。
自分たちの好きなものなら、モチベーションも上がる。
当たり前だが、そう簡単にいかないことの方が多いのが現実だ。
だから、そういう意味でも、彼らの団結力は凄まじいものだった。
このテーマに決まったとき、司会進行役だった僕、鈴木康頼義を除いたクラスメイト全員の票が集まったのは、流石に驚いたけどね……。
かわいらしい水色のスライムや、箱で出来た四角いゾンビ、圧倒的な存在感の悪魔のようなキャラクターのパネルなど、世界的にも有名なゲームに登場する敵キャラたち。
そいつらで、的当ての的を作成している生徒たちに、男性教師の声がかかった。
「あっ、先生。お疲れ様です」
「おう、ヤスラギ。おつかれさん。ちょっと手伝ってくれ」
そういって、担任の諏訪先生は、他にも運動部の男子2、3人にも声をかけた。どうやら大荷物のようだ。
「どこに行けばいいですか?」
「玄関前に車を停めてある。そこから荷物を運び出して欲しいんだ」
言われた通りに向かうと、そこにはトランクいっぱいに物が詰め込まれた軽自動車が停まっていた。
……運転席以外、ぎっちりと荷物で埋まってる。これでよく運転できるものだ。
重いものは運動部に任せ、僕はバケツリレーの要領で次々と荷物を降ろしていく。
すると、無駄に丁寧に詰め込まれた荷物の山の底から。
剣が土台に突き刺さったオブジェがあらわれた。
「……! これって……」
プラスチック製のおもちゃ……じゃない。
金属のような、それでいて石のような、見た目では分からない不思議な重厚感。
どうやら凄いものらしいと、ひと目で感じられた。
そういえば、僕はつい最近これと同じものを見たような気がしたのだが、いつだったかな………………。
……あっ、そうか、思い出した!
文化祭の資料だ!と言って、ヤマトが学校に持ち込んで没収されてたゲームで見たんだ。
うん、間違いない。あのパッケージのオブジェにそっくりだ。
もし、ここの背景が森とか、遺跡となら神秘的な感じがするんだろうけど、軽自動車のトランクに置いてあると……うん。
なんかこう、「よく分からないけど、なんだか凄そうな剣」という印象だな。
「……えーっと、なんて名前だっけな。『ナントカの伝説』の『ナントカソード』……?」
「『ゼルダの伝説』の『マスターソード』か? 確かに雰囲気は似てるけど、模様や柄の色が全然違うぞ?」
「うぇっ、あっ、そうなんですね」
荷物を置いて戻ってきた先生に衝撃的な事実を告げられた。
なーんだ、違うゲームのものなのか。
持ち込んだ先生が言うのだから、間違いないだろう。
やはり、ゲームに関するクイズは難易度が高い。
「すいません、僕、本当にこういうゲームのことは詳しくなくて……」
「それは仕方ないことさ。だいたい、ゲームに詳しいやつなんてろくな奴がいないぞ。俺を含めてな」
ハハハッと先生は笑った。
もちろんそんなことはない。生徒思いの素晴らしい先生だ。
けどまぁ、今のはそういう話ではないので、ひとまずスルーさせてもらった。
「まぁ、間違えるのも無理はないよ。先生もコイツを見つけた時は、マスターソードの置物だと思ったからな。
ちゃんと調べてみたら、全然違うニセモノだったわけだが、クラス展示にはちょうどいいだろうと思って、こうして学校まで持ってきたというわけさ」
なんでも、たまたま通りかかった雑貨屋に飾ってあったものを借りてきたらしい。一応、売り物ではあるが、店に置いてから何年も売れていないので店長は快く貸してくれたそうだ。
そんな裏話を聞いて、なんとなく興味が湧いたので、持っていく前に少しだけ、このオブジェを観察することにした。
台座と剣はほぼ一体化していて、差し込まれた隙間には髪の毛ほどの隙間も見当たらない。
本物(?)そっくりな金属製の剣の柄の部分には、ピンポン玉ほどの青い宝石のような硝子体がはめ込まれている。
大きさからして、本物の宝石では無いだろう。
なんのために造ったのか分からないところに浪漫を感じる逸品だ。この精巧さは遊び半分ではなく、本気で造られたことを伺わせる。
まるで、なにか明確な目的があって造られたのではないかと思わせるほどに。
それにしても、僕の観察力もまだまだのようだ。
くそぅ、まさか最後の最後にこんなに重いものが残っていたなんて……。
帰宅部1人ではどうしようもなかったので、クラスから再び運動部を援軍に呼んだ。
階段に苦労しながらも、僕たちは3人がかりで、何とか教室まで剣のオブジェを運びきったのだった。
下校時刻30分前。
ほとんどのクラスが延長の許可をもらいに行っている中、ひと足早く12HRはクラス展示が完成した。
他クラスを圧倒する作業速度とその完成度に、僕も思わず笑みがこぼれる。
敵を倒すことをイメージした的当てゲームに、映えを意識したフォトスポット、日本のRPGの歴史年表ブースに、好きなキャラを描き残して皆で完成させる落書きコーナー。
教室を四等分し、それぞれのスペースで特色のある展示を行っている。身内びいきかもしれないが、このクラスを上回る展示はいないだろうと確信できる、素晴らしい出来栄えだ!
中でも目を引くのは、やはり、あの剣のオブジェだった。
✟封印されし伝説の剣✟
剣のすぐ後ろにある黒板には、チョークでアーティスティックにそんな文言が刻まれている。
……どちらかというと、文字のせいでシュールな絵面になっている気がしなくもないが、正真正銘のRPG風フォトスポットだ。
片付けも終わり、担任が声をかける。
「よーし、みんなお疲れ様!! 毎日、本当に遅くまでよく頑張りました! 高校最初の快晴祭も、いよいよ明日から本番です。まずはみなさん、しっかりと楽しんできてください!」
「「「「はーい!」」」」
「では、最後に、せっかくの力作ですし、全員で記念写真を撮りましょうか」
「えー!?」
「やだー! 恥ずいー」
「もー、ちょっと女子〜?そんな寂しい事言わないで、ほらほら!(※アホな男子」
「おう、いいからホラ、写んぞ! なんなら、この剣をこう、構えるように持ってだな」
「おぉ! いいなそれ!! オレもやる!」
「おれも!」
なんだかんだと言いながらも、自然と、写真が取れるような形にクラスメイトたちは集合していった。
「はい、じゃあ1枚目。撮るよー! ハイ、チーズ!!」
パシャッ! (ピカッ)
……おや?
今、なにか光ったような気がする。
「はい、じゃあ2枚目は各自、好きなポーズで〜〜……」
パシャッ! (ピカッ)
……おやおや?
フラッシュに反応して、剣が光ってるぞ!!?
「せ、先生ー!! 今、この伝説の剣、めっちゃイイ感じにが光ったっすよね?!」
伝説の剣を力ずくで抜くようなポーズをとっていた森柊綺も自分と同じく異変に気づき、先生に撮った写真を確認させてもらった。
間違いなく、剣が光っている。
それも、単なる光の反射では無い。
「こ、これはっ!!!」
「えっ、なになに!?」
あっという間に、先生のデジカメは奪われ、教室内でたらい回しにされていく。
「……本当だ! なんか凄くイイ感じに光ってる!」
「えっ!? 見たい見たい!!」
「っ!! ホントだー!! スゲーッ!!」
驚きと興奮の声はどんどん広がった。
正面から撮られたその写真は中心から放たれた青い光に包まれて、なんとも神秘的だ。
剣の刃をよく見ると、文字のような模様が刃先に向かって青白く浮かび上がっている。
それはまるで本物の魔法の剣のようだった。
江戸時代、隠れキリシタンが持っていた銅鏡は、裏側に細工を施すことで、反射した光にイエス・キリストの十字架や聖母マリアが浮かび上がるという代物だった。
多分、この剣もそれと同じで、特殊な構造をしているのだろう。 フラッシュのような強い光に反応して、ほんの一瞬だけ、この模様が浮かび上がる仕組みに違いない。
……こんなにも凝った剣をつくった人の目的は、いったいなんだったのだろう。
僕にはどうしてもこの剣が、只の飾りでは無いような気がしてならなかった。
……奇しくも、僕の予想は的中することとなる。
僕自身、まったく予想していなかった方向に……。
「はいそれでは、ここで皆様、ご注目!! 本日の締めに、この剣の抜き方! 言うなれば、封印の解き方についてご紹介いたしまーす!!」
唐突に、先程まで伝説の剣を握りしめていたトウキが、普段、たまーにやっている実演販売のマネをやり始めた。
「こちらにございます、美しい青色の宝石。こちらはな、な、なんと!! 持ち手にあるロックを解除することで、指でクルクルと回ってしまうんですねぇー!!
そう言って、トウキは子どもがよく地球儀を回して遊ぶときのように、青い宝石を回転させ始めた。
「さぁ、ご覧下さい、この回転!! まるで自転する地球を体現しているかのよう!」
おっと、イメージが被った。
てことは、あれは本当に地球を模していたり?
……そんなわけないか。
隠されていたギミックを発見したのが、余程嬉しかったか、普段の数倍も騒がしいトウキだったが、そのハイテンションもお祭り前夜ならば、ちょうどよいというもの。
「おぉ!? そんなところが動かせたのか!! 全然気づかなかった!」
「よっ、我らが勇者!」
「さっさと抜いちまえー!」
男子たちが囃し立て、ボルテージは最高潮に達する。
「はぁい! 存分に回しましたなら、いよいよこちらの剣を解き放たせていただきまーす。このように両手でグッと握りまして〜」
観衆の期待に応えるかのように、ゆったりと動きで剣の柄をしっかり握りしめる。
そのまま腰を落とし、力を込めると……
「そぉい!!!」
一気に抜いて、剣を掲げた!!
「「「おおおおぉ!!」」」
先程まで全く抜ける気配のなかったその剣は、その鋭い切っ先から強烈な青白い光を発しながら、台座から解き放たれた。
「うぉっ!?」
「うわぁっ!!」
「キャッ!!」
「へ?」
「ヒョエッ!」
その瞬間、僕らは光に全てを奪われた。
比喩ではない。
光に目を奪われた、だけでは済まなかったのである。
耳も、口も、鼻も、舌も、心も、魂も。
まるごと全て、奪い去られて…………。
「……え」
気づいたときには、もう、全て変わってしまっていた後だった。
教室は消え去り、自分も周りは、正体不明の透明な液体で満たされている。
ッ!!?? マズい、溺れる!
くそっ、落ち着け、落ち着いて、とにかく浮上しろ!
大丈夫、息ができなくなるまで、少なくともまだ数十秒はある。
その間にらできることを…………?
できること……
息が、でき……る?
なるほど。
どうやら、ここは水槽の中ではないようだ。
簡単な話である。
この液体は、そもそも水じゃないのだ。
原理は全く分からないが、ひとまず呼吸ができるならそれでいい。
少しだけ落ち着きを取り戻した僕は、次に上下左右といった方向感覚を取り戻した。
立っていたはずなのに、僕はいつの間にか横になっていた。
まるで、浴槽の中で眠ってしまっていたかのようだ。
身体を起こし、謎の液体からザバッ!っと顔を出し、辺りを見回した。
「……どこだ、ここ?」
知らない部屋だ。
ホテルではない。
マンションやアパートの一室……ではないだろうか。
どちらかといえば、学生寮のような印象の部屋。
家具はベッドと机と椅子のみ。壁の白色を基調とした淡い色の木製のものがそれぞれあるだけだ。
一つだけある窓の外には、林……いや、森か?
なんにしても、雑木林が外には広がっている。視点からして、ここは2階か、もしくは3階といったところだろう。
ランプや小物などもない。家具の他にあるのは、自分が今、どっぷりと浸かっている謎の液体 in 浴槽。
それと、周到に用意された衣服らしき布くらいしか、物は置かれていなかった。
置いてあった下着と黒いローブを身につける。何となく、魔法使いを彷彿とさせる、西洋風の衣服だった。
着替えた僕は、なにか手がかりは無いかと部屋を漁ることにした。
不思議なことに身体はまったく濡れていなかった。
だが、中で息ができることを踏まえれば、それはとても些細なことだった。
机の上にはメモがあるのを見つける。
丁寧な字で、こう書かれていた。
『勇者様 魔界へようこそ 詳しい話は1階ロビーにて』
勇者……とは、どういう意味だろう。
もしや、今から何かさせられるのだろうか。
魔界……一体どのような場所だろう。
そもそも、先程、教室で何が起こったのだろうか。
尽きない疑問の中、僕は唯一これだけは理解できた。
やっぱりあの剣は、ただの飾りなんかじゃなかったのだ。
案の定、12HRの生徒たちがこの謎の施設に連れて来られているようだった。
彼らとの再開は、廊下に出ればすぐに叶った。
聞けば、他の部屋の造りも全く同じものだったようで、とりあえずはメモに従って1階へ向かおうという話になった。
ひとまず、ここにいる一部の男子は無事のようだ。
ほかの男子や、女子たちは……少なくとも、この場にはいない。
だが、あの剣がこの事態のきっかけだとすれば、必ず近くにいるはずだ。急いで合流しよう。
「あれ? お前、本体はどうしたんだ?」
「さぁ?こっちが知りたいよ。とりあえず、何故か視力は戻ってるし、無くても大丈夫そう……いや、やっぱなんか、落ち着かないかも……」
「……そういえば、俺も、いつのまにか付けてたはずのコンタクトが消えてるな。てことは、眼鏡みたいに身につけたものはキレイさっぱり消えて、代わりに身体機能は元通りって寸法か。転移……いや、生まれ変わったとしたら転生のほうか」
「お前、アツシ?! どうしたんだよ、お前!!そんなに痩せちまって!! えっ、てか、おま、実は痩せるとイケメン属性なのかよ!? ズルじゃん!!」
「あはは、褒めたって何も出ないよ。でも、凄いよねこれ。そういう魔法なのかな」
「あー、多分そうなんだろうな。でなきゃ、説明できねぇもん、こんな状況」
眼鏡というアイデンティティを失った渡邉閒宙と、実はコンタクトだった木下織人。
サッカー大好き丸山鷹と100キロ近い巨漢から爽やかイケメンへと変貌した南原敦熾。
いやいや、いくら何でも変わりすぎでしょうに……。
どうやら、細かいところでも肉体が変化した者もいるようだ。そういう僕も、小さい頃に転んでできた腕の傷や、ここ数日の準備による筋肉痛が消えている。
「アツシがこうなってる時点で、ドッキリとかの線は無ぇな。となると、考えられるのは……」
「やっぱり、アレだろ。異世界への召喚!」
「だよな!? やっぱ、この状況、そうだよな!?」
なんだか盛り上っているようだ。いったい何の話してるのやら。
聞き耳を立ててはみたものの、僕の知らない単語が飛び交っていることから察するに、こんな状況に似た始まり方をするゲームの話でもしてるのだろう。
だとしたら、僕はその話には加われない。
話の腰を折るのも悪いし、興奮が治まったらあとで聞いてみるとしよう。
人によっては急激な変化が起きたわけだが、ここにいる皆は思ったより困惑していない。
むしろ、手放しに喜んでさえいる。
見たこともなく、馴染みもない、全く知らない場所。
だけど、どう考えても歓迎されているであろうこの状況に、警戒心を抱くのは野暮というものだ。
明るい廊下を突き当たりまで進み、そのまま下り階段に迷うことなく歩みを進めたのだった。
階段を降り、建物の1階を散策すること数分。
自分たちと同じ格好をした人が集まっている場所へとたどり着いた。
どうやら、ここが1階のロビーのようだ。
先に来ていた人混みの中の一人の人物と目が合った。
「おー! 遅いから心配したぞ、らぎ長! そして愉快な仲間たち!」
「あン? 誰が愉快な仲間たちだ。それよりも、トウキ!! いったい何がどうなってんだよ!?」
「まぁまぁヤマト、落ち着いて」
剣を引っこ抜いた張本人であるトウキが飄々とした様子で僕達を出迎える。
その無責任な態度に怒った桜庭大和が彼を睨みつけるが、トウキは平然とした顔でこう言った。
「いやー、それがさ。俺にも何が起きてんのか、サーーーッパリ分かんなくってさ……」
「……なんだ、おめェがこの世界に引きずり込んだ黒幕って訳じゃねぇのかよ。つまんねぇな。ここで何かしらの説明があるんじゃねぇのか?」
「うーん、そのはずなんだけどね……」
あたりを見渡しても、黒いローブを纏ったクラスメイトしかこの部屋にはいない。
パッと見た感じだと、体調の悪そうな人はいなさそうだ。
いや、むしろ以前より健康的な人が増えている気さえする。
12HRは32名。
流石にこれは、パッと見ただけでは全員揃っているのか分からないので。
「とりあえず、点呼をとろうと思う」
「そうだな、そうしてくれ。委員長」
「オーケー。それじゃ、番号!」
いーち、にぃー、と緊張感のない声で、男子が出席番号順に返事をする。
「16」
よし、どうやら男子は全員いるようだ。
続けて、番号後半の女子も返事をした。
「32!」
こちらも問題なく32人目まで繋がった。
「よし、全員いるな」
ぐるりと顔を見渡し、ホッと胸を撫で下ろす。
だが、安心したのも、つかの間。
あと1人、この場に足りないことに気がついた。
「ちょっと待った。……諏訪先生は!?」
剣の光を目撃したこと。
それがこの事態のが原因だとすれば、担任の諏訪先生だって、ここに来ているはずだ。
皆、部屋を見渡したが当然、そこに担任の姿は無かった。
ここに来られる人間には、なにか条件があったのか。
それとも、まだこの施設のどこかにいるのか……。
みんな口々に、憶測を語る。
「待った。先生がここにいない理由を考えていたって意味ない! とにかく、すぐに探そう!」
「いいや、その必要はない。よく集まってくれた、勇者たち!」
ざわめいた僕らを鎮める、威勢の良い声がロビーに響いた。
それは、とてもよく聞き慣れた男性の声だった。
「初めまして、ではないな。快晴高校12HRの生徒たち。もちろん、私のことは知っているな?」
声の方向へ振り返れば、そこに立っていたのはまさに今、探していた人物だった。
「「「「「諏訪先生!!?」」」」」
「あぁ、そうだ。……いや、そうではないともいえる。私は、こちらの世界に分かれた、もう1人の私だ」
「……ええっ? いったいどうしちゃったんですか、先生。変な世界に来たせいで、頭がおかしくなっちゃったんですか……?」
普段から先生と仲が良かった女子テニス部の山本成美が、辛辣な、痛い人を見る目で問いかける。
しかし、返事はなかった。
無言、真顔、それで返答は事足りた。
……たしかに、違う。
この人はいつもの先生じゃない。
スーツに似た装い、体型、顔、声、これらの要素は瓜二つだ。
なのに、僕の感覚は全くの『別人』だと叫んでいる。いつもの親しみやすい雰囲気は薄れ、冷徹な人相になっている。
自分と同じく困惑する生徒、それでも先生がいるならと安心する生徒、イメチェンを面白がって質問攻めにする生徒などなど皆、反応はそれぞれだが、突然現れた担任の先生という存在を受け入れているようだった。
僕は、そんな彼らを見て、ひとつの懸念を抱いていた。
……もしもこの人物が、先生のフリをした別人だったとしたら……。
僕は、唾を飲み込む。
身体は、無意識のうちに身構えていた。
そんなハズは無い、とは決して言いきれない状況だということを、今になって思い出したのだ。
まとまりの無い生徒たちを、先生は手をかざして静止する。
「まぁ、そう焦るな。順を追って話すとしよう。分からないことがあれば、あとで個人的に質問にくればいい」
まるで授業をするかのように話すその姿は、たしかに僕らの知っている先生だった。その事実は、さらに僕を困惑させる。
「やすらぎ」
「ぅえっ!? は、はいっ!!」
「お前は、このクラスの代表だろう? まず、なんでもいいから質問してみろ」
唐突な指名に、声が裏返る。不意打ちを食らって、一瞬、頭が真っ白になった。
僕が変な声を出したのに、誰一人として笑っていなかった。
どうやらほとんどの生徒が、先生の様子がおかしいことに気がついたようだ。
「なに、どこから話せばいいか、全然決まらなくってな……。お前ならば、ある程度、気の利いた質問ができるだろう?」
場の空気が張りつめる。
それもそのはず。遠回しに、馬鹿な質問は時間の無駄だと言っているようなものなのだから。
空気が重い、コレはちょっと耐えられない。
まずは空気を変えてやる。
「……そう、ですね。もし、トウキが質問役だったりしたら、ふざけた質問ばっかりで、なかなか本題に進めないですもんね! だよな、トウキ?」
「おいおい、らぎ長。見くびってもらっちゃ困るぜ!」
「ほほう。じゃあ、トウキならなんて質問するのさ?」
「そんなの決まってるぜ。あの剣は先生の自作ですか?!」
「そうだとも。君たちをここに連れてくるために、私が向こうで創り上げたものだ」
「なるほど、それって、いくらぐらいかかりました? 給料の何割くらいです?」
「さて、いくらだったかな。むこうの給料2ヶ月分、といったとこか」
「ひぇー、70万もするんスね、アレ」
「おぅ、ちょっと待て。なんでお前が、私の給料の額を知ってるんだ……」
「それは内緒です」
アハハとみなの笑い声が響き、場の空気はだいぶ明る差を取り戻した。
これなら、多少シリアスな質問をしても、持ちこたえられるだろう。流石はトウキ、生粋のエンターテイナーだ。
「先生、話が逸れましたが、質問いいですか?」
「あぁ、そうしてくれ」
聞きたいことは山ほどある。
なので、僕は核心に迫るものから聞くことにした。
考えれば分かることは一度飛ばして、一番分からないことを真っ先に確認する。
魔法のような液体に、この世界へ強制的に連行した剣の力、『魔界』とは文字通り『魔法』や『魔術』、もしくは『魔物』の世界なのだろう。
先生は、僕らを意図的にこちらの世界へ連れてこなければならなかった。
その目的が一番、気になることだ。
勇者といえば、相手は魔王だ。それくらいは僕でも知っている。(つい最近知った)
もしも、そんな存在がいるとすれば、そいつを倒すのが目的だろう。
状況的に、僕らに拒否権や選択肢はない。
この大規模な宿泊施設が用意されているのが、その証拠だ。ご丁寧に、男子寮と女子寮に分けられた生活スペースは、長期滞在どころの話ではない。
嫌だと断って帰れるなら、いきなり全員連れてくる必要は無いはずだからな。
ということは、逆に言えば、僕らに目的を教えないなんてことは有り得ない。
放っておいても、向こうの方から信頼や協力を得るために話し始めるだろう。
つまり今、僕が聞くべきなのはその先だ。
全ての目的が達成されたあと、僕らはどうなってしまうのか。
これからの出来事がひとつの物語になるのだとしたら、物語が完結するときが必ず来る。
とすれば、それはいったい、いつなのか。
それは、無事に元の世界へと帰還したときだ。
ゆえに、僕の質問はこれだ。
「どうすれば元の世界へ戻れるのですか?」
一瞬の沈黙のあと、先生は感心した様子で応えた。
「……なるほど。まさか、いきなりそれを聞いてくるとは思わなかったよ。帰れる、という確信でもあるのかい?」
「いえ、シンプルに考えて、今、一番気になったことを聞いたまでです」
「……そうか。非常にいい質問だ。ではまずは、その質問に答えるとしよう」
ん? あれ?
今、なんて言った?
帰れるという確信でもあるのか、だって?!
ちょっと待ってくれ。
それって、つまり……。
言葉の裏を読み取り、困惑する僕をおいて、先生が答えた。
「君たちが元の世界に帰る方法……それこそが、私が最も知りたい情報なのだ。だから、すまない、ヤスラギ。その質問にだけは、私は答えることが出来ないのだ」
僕は、やっぱりそうかと落胆した。
嫌な予感というものはいつだって的中する。
彼のように優秀な頭脳を持つ人間にとって、予感とはすなわち、現実に起きる出来事を少しだけ先に見てしまうようなもの。
そして、大抵の場合、それは受け入れるしかないものである。
「……私1人では、この世界を調べきれなかった。だから、君たちに協力を願いたい。
来れたのだから、きっと帰れるハズだと、探し続けているうちに、あっという間に10年が経ってしまった。だから、恥を忍んで、君たちに頼みたい!! この世界のどこかにあるはずの帰還する方法を、君たちの手で見つけ出してくれ!!」
大の大人である先生が。頼りになる担任の先生が。
深く……それは深く頭を下げて、嗚咽混じりに必死に懇願する。
そんな先生の様子など、胸の奥が苦しくなって、わずかな時間であっても、見てはいられなかった……!
「えぇ、ええ!! もちろんです、先生!!」
「手伝います! いや、むしろ、手伝わせてください!」
「顔を上げて、先生。先生には、散々お世話になってるんです。当然、探し出して見せますよ!」
みなが駆け寄り、口々にそう言った。
この人は、ずっと1人で、この未知の世界で孤独に闘っていたのだ。それも、10年もの間、誰にも相手にされず、ただひたすら、元の世界に戻ることを目指して。
そんなの、手伝わないワケにはいかないじゃないか!!
こうして、僕ら12HRの異世界冒険譚は幕を開けた。
こんなことに巻き込まれるのなら、僕も少しくらいデジタルゲームをやっておけばよかったなと、僕は少しだけ後悔した。
落ち着いたところで、改めて先生による説明が始まった。
様々なゲーム用語が駆使されたことで、説明は思いのほかサクサクと進んでいった。
……説明にかかったは、僕が生まれて初めて、ゲームをしてこなかったことを本気で後悔していた時間と同じ長さだった。
「──というわけだ。なにか質問はあるか、やすらぎ?」
「はい。めちゃくちゃあります。ていうか、ほとんど何て言ってたのか、理解できませんでした……」
「お、おぅ……そうか。……とりあえず、あとで確認するとしよう」
「ハイ、お願いします……」
こんなにも同情の目を向けられるのは、いつ以来だろうか。
どうやらこれは、久しぶりに補習の予感だ。
氏名 鈴木 康頼義
番号 8
出身 天満宮中学
誕生日 7月7日
身長 169cm
体重 57㎏
成績 260人中4位(クラス2位)
特技 速読・読心
趣味 作業用BGM探し
自慢 視力が両目とも1.8
好きなゲーム
ボードゲーム(オセロなど)
デジタルゲーム未経験
Lv.14(体14+魔0)
筋力 D
体力 D
走力 D
知力 A
魔力 G
職業 なし
顕属性 風
潜属性 火
専技なし
本作の主人公。ドラクエやFFのようなゲームはおろか、ポケモンやソシャゲのような育成ゲームすら、遊んだことがない非現代っ子。絵に書いたような優等生で、間違いなく激レアさん。ある意味、一番フィクションなキャラ。
容姿は人畜無害な感じで、お母様方には大人気。
(参考にしたキャラクター)
三雲修……ワールドトリガー
丸尾栄一郎……ベイビーステップ
織田照朝……ACMA:GAME