94話 凍った世界
93話の最後を少し修正しました。
奥に続く道へと進むと、一面の景色はその姿を変え、蒼く大きな湖があり、煌めいていた。
「うわぁ!綺麗……」
アクセルとステラが湖に近付いていく後ろにミラとソニアも続く。
そして底を見ながらアクセルとステラが同時に声をあげる。
「魚がいっぱい…」「何もいない…」
「「ん?」」
「いや、魚いっぱいいるだろ」
「えー?いないよ?」
おかしな事を言っているとミラとソニアも湖を覗き込むが生き物は見つけられない。
「いない、な…」
「ですね」
「おいおい!そこら中にいるぞ?おかしいな……」
自分だけが見える魚なのか?と頭を捻るアクセルだったが、ある可能性を見つけ、指先を水面に入れてみる。
「これでなにか見えるか?」
「うわわ、いっぱいいる!!」
アクセルが指先を入れた瞬間、今まで見なかった魚達が姿を現し、元気に泳ぎ回っている。
「これは……」
「拠点と同じ認識阻害というやつでしょうか?」
泳ぐ魚達を四つん這いになって目で追いかけているステラの後ろに立ち、ミラとソニアは腕を組んで悩んでいる。
「いや、多分違うな…」
そうアクセルは否定すると、指先を水から上げる。
「あ、見えなくなった」
ガッカリといった様子のステラは耳もペロッと垂れ下がっている。
「………つまり何らかの力で見えなくなっていると?」
「多分な…ステラ、ちょっと顔だけ水に入れて中見てくれよ」
元気に返事をするステラは、アクセルに言われた通り顔だけを水に浸ける。
「見えたー!!」
「ふむ、となると水面に何らかの力が作用しているというわけか…」
「あぁ、まぁ十中八九、魔力だろうな。俺が触れた事でその魔力が一時的に消えて見るようになった。で、水面より下、つまり水の中だったら問題なく見えると」
「なるほどな……」
どういった理由で魚達が見えなかったのかは分かったが、肝心の原理が分からない。
しばし考え込むアクセル達。
「ふむ、1番有力なのは光の屈折だろうな…」
「おお!さすが歩く知恵袋!!」
スパーンと快音が響いた後、歩く知恵袋ことミラが口を開く。
「オホン……水面に手を入れ、近づけたり、遠ざけたりすると手が大きく見えたり、小さく見えたりするだろ?要はそれと似たことだ。だが、他にも魔力よる力が加わっているだろうがな」
「ははーん、砂漠で見えない森とかが遠くに見える、あれだな」
「蜃気楼とはまた違うと思うが、理屈は似たようなもののはずだ。私も詳しくは知らんぞ」
「うむ、いいかステラ……目に見える物だけが真実じゃないということだ!!」
「おぉ!!!!マスター、凄い!!」
「それっぽいことを言って誤魔化すな。まったく……」
なぜこのような現象が起きているかまでは分からないが、不思議現象ということで納得し、さらに奥には進んでみる。
「冷え込んできたな……ソニア、平気か?」
「問題ありません……が、まさか地下がこれほど冷えるとは……」
「いや、確かに地下は、地上に比べて温度の変化が少ないからひんやり感じるけど、これはちょっと異常だ。寒すぎる。用心して進もう」
地底湖から奥に進むにつれ、だんだんと寒くなり、周りにも氷で出来た氷柱などが目立ち始めている。
さらに進むと地面すら凍りつき、辺り一面氷の壁で覆われていた。
「これ……氷で出来た壁か…自然にある物でこんなに分厚くて大きの初めて見たぞ」
そんな氷の壁で覆われた周囲を各々が見て回る中、ステラとソニアはその氷の分厚さに驚き、ミラはとある物を発見する。
「マスター、あれ…」
ミラが指差す方に視線を向けるアクセル。
「ん?あれは…扉か!?」
地下深く、凍えるような寒さと氷の壁に囲まれた空間で、氷の壁に設置された扉を発見したのだ。
明らかに人工物だ。
警戒を強め、周囲を調べるアクセルとミラ。
そんな2人に気付かずステラとソニアは拳ほどの大きさの氷塊を見つけ話し込んでいる。
「ここの氷ってちょっと青いよね!ボクの氷とどっちが強いかな?」
「さすがに魔力を使った氷が強いだろ…」
「じゃあ、ちょっとだけ」
ステラはそう言うと小さめの杭を氷で作り出し、青い氷塊に突き刺すが、ステラの杭は砕けてしまった。
「あらら、ボクの氷負けちゃった。次ソニアね」
「私か!?このような洞窟では炎を使うなと言われているが……熱だけなら問題ないか」
ソニアはそう納得すると、右手に高温の熱を集めていく。
そして氷塊を握り、少しすると手を退けた。
「うそー!?全然溶けてないよ」
「ほほぉ!?」
そんな2人が実験をしている間もアクセル達は周囲を調べ終え、扉の前で少し距離をとり、突入の構えをみせていた。
だが、突然ゴォウという音と共に凄まじい熱気が風に乗って2人に届いた。
「な!?あのバカ」
すぐステラとソニアの方に駆け付けるアクセル達。
「おい!何やってる!」
すこし怒気を含んだアクセルの言葉が2人に届く。
「あ、マスター!この氷凄いよ!凄く硬くてソニアの熱でも溶けないの!」
「え?ホントか?それは凄いな」
途端に興味を惹かれアクセルの怒気は霧散していく。
「はぁ…一緒になってどうする……」
その後、軽い説教をミラがステラとソニアにした後、扉のことは一時おいておき、氷に注目が集まる。
そして改めて全員で氷を観察する。
「うーん、魔力を含んでる……のか?」
「ボクの氷も負けちゃったし、全然溶けないし、凄いね」
「確かに持ち出すことが出来ればかなり便利だな…」
「新たに凍らせたりは出来ないようですが、温度は一定まで保たれているようです。食料の保存などに適しているかもしれませんね」
「んじゃ、俺が試そうか」
アクセルはそう言うと右手に魔力を集め、ソニアがやった時同様に触れる。
「あれ?なんともないな…こうなったら、ふぅ………魔装!!」
「バカもの!そこまでやる必要は…」
魔装を施し両手で氷塊を握るアクセルだが、表情が歪むほど力を入れている。
それでも氷塊は砕けない。
「んぎぎぎ………うわっと」
渾身の力を込めてようやく拳ほどの氷塊は2つに割れた。
「全くホントに氷か、これ?」
両手にそれぞれ割れた氷塊を持ち、愚痴をこぼすアクセル。
「その氷欲しい!!」
「私も」
「ほれ!予想以上に不思議な氷だけど、次はあの扉だな。お前らも一緒に行こう」
丁度2つに割れた氷塊をそれぞれステラとソニアに手渡し、扉に全員で向かう。
「罠類はないのは調べたけど、とりあえず俺が最初に入る」
そう言ってアクセルが扉の前まで進み、全員に目で確認をとった後、静かに扉を開いた。
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