91話 誕生!真紅の戦乙女
絆を深め合った4人だったが、アクセルの贈り物はまだ終わらない。
「ステラ、お前にはまだ贈り物があるんだ」
「ふぇ?」
未だに鼻をすすっているステラは間の抜けた返事を返す。
「右手出して」
「え?あ、えっと……」
戸惑いながらも、ステラは右腕を差し出す。
ステラが戸惑うのには理由があった。
それは手首にある大きな傷痕だ。
これをステラは人前に出る際良く隠していたのだ。
過去、奴隷として売られ、虐待を受けていたステラ。
拘束を解くためか、あるいは虐待に耐えきれず自ら死を望んでか、ステラは自ら手首を食いちぎろうとしていたのだ。
そしてアクセル達が出会った際にはすでに傷痕として残っていた。
それを一目見たアクセル達にはどのようにしてついた傷か即座に分かり、ステラの境遇を知ると、聞かずとも答えに辿り着いた。
そして、それは後者。ステラは自ら死を選んでいたのだ。
虐待する相手が死んでしまっては楽しめないと、ポロの街の元領主も雑ながら治療を施していたのだろう。
そんな過去を思い出させるその傷をステラは隠していたのだ。
アクセルはステラの手を取り、腕輪をはめていく。
「あ………これ………」
「キツかったり、邪魔になったりしないか?」
そう聞かれステラは腕を振り確かめた後、無言で頷く。
「そっか!これ、サクラみたいで綺麗だろ?ステラにはサクラが良く似合うからな。すぐ思い付いたけど、色々あって形にするのに時間がかかっちまった」
その腕輪にはサクラの花びらに似た薄桃色の輝きを放つ石が中央に装飾され、その周りには小さな同じ石が複数散りばめられていた。
それはまるで1本のサクラの木と舞い散る桜吹雪のようだ。
そしてこの腕輪はステラの手首にある大きな傷痕をすっぽりと覆い隠している。
過去をなかったことになど出来ない。
辛いこと、思い出したくないこと、様々あるがそれを塗り潰してやろう、とアクセルはそんな想いも込めてこの腕輪を作成し、ステラに贈ったのだ。
勿論、作成の1番の理由はステラに似合いそうだったからなのだが。
その腕輪をマジマジと眺めるステラ。
「……ふぇぇぇぇ、マスターーー」
そんな言葉と同時にアクセルに抱きつき大声で泣き出してしまう。
「はは、泣くほど嬉しいか?」
傷痕のことや、腕輪に込めた想いなど、特に口にすることなく、ただただステラの頭を撫でるアクセル。
そしてそれにミラも加わると、ステラはミラにも抱きつき
顔をグリグリ押し当てていた。
そんな様子をソニアもアクセルの隣にきて微笑ましく見つめていた。
▽▽▽
しばらくするとステラも落ち着いたのか、腕輪と短剣を交互に眺めニヤニヤしている。
そんな隣ではソニアのあることについての話し合いがされている。
「服装……ですか?」
そう、ソニアの服装についてだ。
ソニアの服は自身の鱗を変化させたものだ。
その鱗を変化させた服はどんな物でも再現可能なのだが、なぜか露出が多く、ほぼ裸同然なのだ。
ソニアが現在着用している服は、恥部だけを隠した物で、それは現代でいうビキニの水着のようなものだ。
訓練をしている間は問題にはしなかったが、人の多くいる街などに入る際は、ただでさえ目を引くほどの美人が裸同然なのだ。大いに問題となってしまう。
そして、それはアートランに出かけた際にもミラに指摘され、すぐに身体をすっぽりと覆う布を纏っていたのだ。
「そうそう!もう少し露出を減らすべきだな」
「ソニア、アートランではマスターの名が知れ渡っているから、関係が深い私達にちょっかいを出す者はいなかったが、他の街ではそうはいかない。街に出るたび声をかけられることになるぞ?」
これは価値観の違いからきた問題だろう。
人間が小さな虫に裸を見られても何も感じないように、ドラゴンであるソニアもまた、人間に裸を見られることに何の抵抗も感じていなかったのだ。
「たしかに不快な視線を度々向けられてはいましたが…」
「まぁ、そういうわけだ。結局はお前の鱗なんだし、見た目を少し変えるだけだ」
「そうは言われましても……」
服装など気にしていなかった為、どのような服装にすればいいのかソニアには判断出来なかったのだ。
「アートランにいた女性を参考にすればいい」
そんなミラの助言を受けしばし考え込むソニア。
「あ、あれが良い」
その時たまたまアートランに来ていた女性のみの冒険者パーティー。
その冒険者が着ていたドレスと鎧が合わさったかのような服装をソニアは再現してみせた。
「私と同じ紅色にしてみました。どうですか?」
「おぉ!良いな!」
「うむ!まさに戦乙女といった感じか」
肌の露出を抑え、かつ優雅さを漂わせるその姿はミラの言う通り、まさに戦乙女といった表現がしっくりくる。
「うわぁーー!ソニア、かっこいい!!」
ステラも駆け寄り、称賛の言葉を贈る。
こうして装いと気持ちを新たに再び旅を再開した。
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