90話 深まる絆
「魔力を具現化し纏う……か」
訓練を終え風呂で傷を癒した後、アクセルが使った魔装が話題になっていた。
「あぁ、俺が具現化したのは身体強化した自分とロア達。まだロア達の実体を一緒に出すことが出来ないから、今後の課題だな」
「最終的にはロア達も出てきて君と同じ力を持つのか!?とんでもないな……」
「まぁ、あくまで目標だな。出来るかどうかなんてわからないしな」
アクセルの使用した魔装。
それは身体強化した自分をさらに強化する技だ。
魔力によって身体強化を施した自分とロア達を具現化し、1つにして纏うことで身体強化を施した状態からさらに強化を可能にしたのだ。
2重に身体強化がかかった状態といえばわかりやすいだろうか。実際にはロア達の力も加わった分効果も上乗せされているのだ。
「うぅ、マスターがさらに遠くなっていく…」
「マスターだけの力、それが魔装か…」
「しかし、身体強化を2重にするとは、思いつきこそすれ、それを実現するとはな…」
「へへ、俺も頑張ったんだ!よし、じゃあそろそろ出るか。久しぶりの元の世界だ」
身支度を整え、扉の前に集まる。
「これだけ長い期間いたんだ。扉をくぐれば身体の感覚も違うだろうからそのつもりでな」
アクセルの言葉に全員が頷き、ステラ、ソニアが同時に扉をくぐる。
それにミラが続き、最後にアクセルが扉をくぐった。
「うわわ」「くっ」「………」
「うっわ、これはなんとも言えない感覚だな」
外に出ると目眩に似た感覚が襲う。
全員がその場に立ち止まり、身体を順応させていく。
そして空気を目一杯吸い込み、帰ってきたことを実感した。
「ただいま!!」
約3年ぶり拠点だ。
そして扉をくぐる前に設置した装置に向かう。
「3つと少し…約3日か……」
それは滴る水を1日かけて貯める装置だ。
それが3つ目の目盛りと少し貯まっている。
「あの3年が僅か3日とは……」
「だな!はは、ソニアのじいちゃんが今の俺たち見たら、急に仲良くなったように思うんだろうな」
そんな談笑も交えつつ、この日は拠点でゆっくりと過ごすことにした。
そして翌日。
「すこし時間が欲しい」
これからのことを話し合う際、アクセルが突然そう口にした。
「身体はだいぶ慣れたけど、まだ軽すぎる。旅はもう少し先延ばしにして、ちゃんと慣らそう。それにやりたいこともあるし」
そう、この世界では身体が軽すぎて、思わずつんのめってしまうことがあったのだ。
その提案を3人は快諾し、5日の期間をそれに充てることにした。
「そうだ!この機会にステラとソニアのパーティーカード作っとくか?」
北大陸では身分の証明が必要な場所はないが、早いうちに手に入れておいた方が良いだろうと思いついたのだ。
「あ、折角だし全員、冒険者になるのも良いかもな」
「私は遠慮しよう」
「私もパーティーカードというので良いです」
アクセルの提案をすでにパーティーカードを持っているミラは断り、ソニアもそれに続いた。
「ステラは?」
「ボクは…冒険者になりたい…かも」
「そっか!まぁ、どのみち冒険者ギルドにパーティーカード作りに行くんだ。その時ちゃんと決めたら良いさ」
こうして一行はアートランに赴くことになった。
冒険者ギルドに入ると、以前ポロの街で虐待を受けていた獣人の少女も、今ではアリーに付きっきりでの指導を受け立派に受付嬢として頑張っていた。
そしてアリーにこの街にきた理由を話し、ソニアのパーティーカードを作成、ステラは説明を受けた後、冒険者登録をすることになった。
そしてステラは身体を慣らすため、ソニアに人の営みを紹介するために早速依頼を受け、ソニアも共に行動することになった。
「では、早速やろうか…」
「おう!」
アクセルとミラ、2人はそういうと拠点に戻り何やら作業を始めるのだった。
そして作業を終えたミラは再びアクセルにアートランに送ってもらい、ステラ達と5日間をアートランで過ごすことになった。
アクセル5日間拠点に篭もり、作業に没頭していく。
▽▽▽
この僅か5日間という短い期間でステラは、☆7冒険者であるアクセルの紹介という形で冒険者になった為、すでに☆2になっていた。
ステラは難なく依頼をこなし、ミラ、ソニアもそれに楽しく付き添っていたようだ。
そして宿はモーラが営む明日への光に泊まり、魔力風呂を大いに楽しみ、出される料理にソニアも感動したようだ。
そしてしきりに欠伸を繰り返し迎えにきたアクセルに拠点に連れ帰ってきてもらった3人。
「俺から渡す物がある」
拠点に戻るなり、そう言うアクセルはとある物を2つ取り出した。
「こっちがステラ、こっちがソニアだ」
そういうとそれぞれに手渡していく。
それを両手で受け取ったステラとソニアはアクセルの顔と交互に見比べていたが、恐る恐る覆っていた布をとっていく。
「それはお前達の身を守る為だけの短剣だ。貰ってくれ」
ミラにも送った身を守る為だけの短剣。
その想いを説明していく。
それを説明を聞いた後、ステラ、ソニアが短剣を手に取る。
「綺麗……」「………」
ステラが手にした短剣の柄にはステラの髪と同じく白銀の石が埋め込まれていた。
そしてその石はガラスのように透き通っており、アクセルの加工により形を整えられ、さらにはミラの雷によって加工が加えられていた。
その内部はまるで雪が舞っているかのような模様が有り、ミラの雷によってキラキラと光る様子はダイヤモンドダストを彷彿とさせる。
一方のソニアの短剣にはドラゴンの目のような黄金色の石が埋め込まれ、同様に透き通っている内部には火山の噴火を思わせる模様が有り、そこにミラの雷での加工が加わり、噴火したマグマがまるで夜空に浮かぶ星々を彷彿とさせ、煌めいている。
この石達も旅の途中で見つけた、ステラっぽい、ソニアっぽい石だ。
勿論2人と出会う以前に見つけていた為、綺麗な模様のある石として採取したものだったが。
この石達を、ランタンの世界で空いた時間にとある物と一緒にコツコツ作り上げた短剣に装飾したのだ。
「その短剣以外身を守る術がないって時に使う短剣だから、本当は一流の物を使った方が良いんだろうけど…まぁ、仲間の証でもある」
「ありがとう…ございます!大事にします」
「いざというとは使えよ?」
そんなやり取りをしているソニアに反し、先程まで嬉しさのあまりピョンピョン跳ね回っていたステラは感極まったのか鼻をすすっている。
こうしてさらに絆を深め合う4人だった。
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