89話 対決!アクセル vs ミラ
怪我の治療の為、一時広場から上がった4人。
出血をしたアクセルが最初に入り、その後、ステラ、ソニアに加えて何故かミラも一緒に入ることになった。
備え付けられていたこの風呂。
以前来た時に魔力が回復する事が分かったのだが、なんと怪我も即座に治療することが分かったのだ。
この世界では肉体の変化が起こらない為、どんな小さな怪我であっても自然治癒をしないのだ。
その問題を解決したのが、この風呂である。
この風呂のお湯を持ち出すこともアクセルは試したのだが、元の世界に戻った瞬間消えてしまうため、使用は出来なかった。
そんな傷を癒す不思議な風呂に入っている女性陣だが、談笑に華を咲かせているようだ。
「うーー、マスター強すぎぃ!!」
「ははは、ステラにとって彼は最も相性の悪い相手だろうからな」
「というか、ほぼ全ての者がマスターと相性悪いのでは?」
どうやらアクセルの理不尽なまでの強さに愚痴をこぼしているようだ。
「…まぁ、魔法も効かない、矢などの遠距離も即座に見切る、加えてあの身体能力だ。彼に勝つにはその身体能力を上回るしかないだろうからな……」
「………まだまだ遠いなぁ」
天井を眺めながらステラはそう呟く。
「…では、次は私だな!」
「ええ!?ミラさんもやるの?」
ステラは旅に加わってから、アクセルとミラが手合わせをしているのを見たことがない。
それ故に驚きを隠せなかったのだ。
「当然だ!こんな機会は滅多にないし、私も努力をしてきた。私だけ置き去りにされるつもりはない」
そして風呂から上がり、再び一同に介する。
「マスター、次は私とだ!」
ミラがそう言うと、アクセルもやっぱりかといった雰囲気を出している。
「まぁ、そうなるよな…よし!折角だし、やるか。そういえば、お前と手合わせするのはガキの頃以来だな」
「あぁ、昔はそうやって鍛えていたな……だが、全力でいく」
「当然だ…それに、それは俺もだ」
そして広場へと降りていく2人。
それを妙な胸の高鳴りと共に見守るステラとソニア。
「な、なんかこっちが緊張しちゃうね…」
「あぁ、どれほどの戦いが繰り広げられるのか、興味が湧くが同時に不安でもあるな」
この2人が目標としているアクセルとミラの戦い。
それは2人にとって、言わば頂上決戦だ。
どれほどの戦いが繰り広げられるのか、そして無事に何事もなく終えることが出来るのか、そんな不安を抱くほど2人の力は別格として認識しているのだ。
広場で一定の距離をとり、対峙するアクセルとミラ。
お互い無言のままだっが、ミラが口を開く。
「ふふ、では私からいこう」
ミラはそういうと即座に魔族の姿に変わり、ふわりと宙に浮く。
そして手をかざし、魔剣を手にすると、それを軽く振ってみせる。
それに呼応するように、ミラの魔剣に結合していた他4本の魔剣が分離し、雷を帯びながらミラの背後に浮いている。
「一度に5本使うのか……」
「ふふ、全て意のままに操れるぞ」
「流石だな!じゃあ、俺も見せてやるよ……やるぞ、お前ら」
((はい!))(おう!)
アクセルの呼び掛けにロア達もやる気をみせる。
そしてアクセルが目を閉じ、剣を持つ両腕を交差させる。
「…魔装」
アクセル達はおよそ技と呼ばれる物の名を付けたり、叫んだりしない。
わざわざ次の行動を口に出し、相手に教える必要はない。
そして何より、名を付ける程の技と呼べる物がなかったのだ。
だが、今回それを口にした。それほどまでに己の力として確立され、自信があるのだろう。
アクセルが技名を呟きながら交差した腕を開く。
その瞬間、アクセルは黄金に輝く毛皮で出来た羽織を纏う。
そして背後の空中には、同じく黄金の光を放つ球が3つ宙を舞っている。
「……荘厳だな」
アクセルを見てミラが呟く。
「いくぞ!」
アクセルがそう告げ、疾駆する。同じくミラも翼を広げ、アクセルに向かっていく。
だがアクセルの速度は以前のアクセルとは比べ物にならず、一瞬動揺するミラ。
中央でお互いの剣を打ち合い、動きを止める2人。
「随分と速いな」
「まだまだこれからだ」
再び距離をとる2人。
ミラは即座に宙を舞う魔剣4本の内、2本をアクセルに向けて放つ。
アクセルもそれを同じく宙に舞う光の球で弾き、1つをミラに放った。
それを避けるミラだが、その軌道上にはアクセルの飛ぶ斬撃がすでに迫っていた。
それも読んでいたのか、難なく躱すミラだが、躱したはずの斬撃から、まるで爪痕のような斬撃がさらに放たれた。
「くっ」
カスリはしたが何とかそれも躱すミラ。
だが、すでに周囲には無数の衝撃弾に囲まれていた。
アクセルが引き金を引くと同時に衝撃弾は甲高い音と共に破裂するが、ミラはそれを自身の周囲に雷を球体状に作り出し、防ぎ切った。
「やるな!」
「マスターもな!以前より格段に速い」
「からくりは後で教えてやるよ」
会話を挟むことで戦況は一旦落ち着く。
そして再び距離を詰め、剣での応酬が始まった。
アクセルの速さを活かした怒涛の攻めを、ミラは5本の魔剣を自在に操り、時にアクセルを引っ張り、時に重力の増した空間を足元に設置するなどして、捌き切っていく。
しかし徐々に押されるミラは止む無く距離をとる。
そんなミラに追撃をかけないアクセルだったが、代わりに剣をミラに向けた。
その瞬間、今まで目に見えなかった衝撃弾がうっすらと姿を現す。
「目に見えないくらい薄くした魔力で作った衝撃弾だ」
その言葉と同時に引き金を引くアクセル。
ミラはそれを翼で全身を覆うように丸くなり、防ぐ。
それを見たアクセルは即座に距離を詰め追撃を仕掛けた。
しかし、翼を開いたミラの手には紅い雷で作られた槍が握られており、それを向かってくるアクセルに向かって高速で放つ。
ミラから放たれた槍は目にも止まらぬ速さでアクセルに迫る。まさに神速の槍だ。
その槍はアクセルの肩を貫くが、それでもアクセルは止まらず、光の球と同時にミラに切りかかる。
それを全て受けきるミラだが、腹部にアクセルの蹴撃が突き刺さった。
それもただの蹴撃ではなく、足に魔力を纏った蹴撃だ。
足に纏われた魔力はミラに当たると波打ち、ミラの内蔵を掻き乱したのだ。
内蔵に傷を負い吐血するミラと、肩に穴が開くアクセル。
それでも闘志を漲らせる2人の間に、大きく手を振りながら、慌ててステラとソニアが割って入った。
「それまで!それまでーーーー!!!」
「もう良いでしょう!これ以上は危険です」
こうして二人の訓練という名の頂上決戦は終わりを告げた。
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