88話 ステラの成果
ソニアに続き、今度はステラがアクセルと対峙する。
この3年間、1番変化が多かったのはステラだ。
特に戦闘面では目を見張るほどの変化をしてみせた。
3年前のステラは旅をすることが楽しく、日課の訓練は行なっていたものの、まだ戦い方を学んだだけという状況だった。
そして本格的に強さを求めるようになったステラは、魔法に関しての才能を開花させていく。
全5つの属性の内、4つを持っているステラはそれらを活かした魔法を主な戦闘手段とし、日々努力を積み重ねていった。
そして現在では様々な用途を想定し、水属性の氷魔法を主力としている。
さらにステラは複数の魔法を組み合わせるという才能も持っていた。
熱湯で出来た槍を作り出したり、熱風を巻き起こしたりといった具合だ。
そして当然、近接戦闘方法も疎かになどするはずもなく、アクセルの剣を真似ることから始まり、自分に合った剣の使い方も覚えていった。
未知の脅威に備える為に力を付けている為、どうしても遠、中、近に対応する万能型になってしまうのだが、その中でもステラは遠距離に傾いた万能型だ。
ちなみにソニアは近接距離に傾き、ミラは全てを高水準でこなす正に万能型といった感じだ。
そしてステラにもたらされた変化は戦闘に関してだけでなく、精神面でも大きな変化があった。
それは少し時を遡り、ステラがここで初めて実践訓練をした時のことだ。
「殺す気で全力でこい!」
そうアクセルに言われ始まった初の実践訓練だったが、アクセルが見せる決定的なスキにステラは踏み込めなかった。
それは何か策がある訳でも、決まりを作っていた訳でもない。
単純にステラは戸惑っていたのだ。
殺す気でこいと言われたが、これは訓練であり、相手は慕って止まないアクセルだ。実際に斬ることなど出来なかった。
だが、それがいけなかった。
それを理解したアクセルは、それまで攻撃を避けたり捌いたりしていたが、一転、本気の殺気を放ち、ステラの腹部に拳撃を叩き込み、蹲るステラの顔面を蹴り飛ばすまでしたのだ。
「ステラ…俺は殺す気でこいと言ったはずだ。次までに出来ないようならお前はこれから先、戦いの場には出さない」
いつも優しいアクセルが自分に本気の殺気を放ち、容赦なく攻撃を叩き込んできた。
ソニアと出会った時にアクセルに抱いた恐怖より、より一層の恐怖を感じたのだ。
殺されてしまう。そう思ってしまうほどの恐怖を…
しかし、なぜアクセルがそんなことをしたのか、ステラにはすぐに理解出来た。
止む無く戦わないといけない場面というのは必ずある。
分かりやすい例が魔獣の呪いによって、呪いを受けた者が魔獣へと変化した者たちとの戦いだ。
先程まで笑い合っていた相手と戦わなくてはならない。
しかし、変化した相手は本気で殺しにきている。
そんな相手に戸惑いなど見せていると、必ず痛い目をみるのだ。
そうした望まぬ戦いを避けられない場合、勝たなければ死んでしまう。
ステラは戦うということへの覚悟が足りなかったのだ。
ソニアに出会うまでの旅路では、襲ってくるのは理性を失った魔物であり、傍にはアクセルとミラという強者がいたからこそステラは戦うことが出来ていた。
しかし強さを求め、戦うことを決断した以上、避けられない戦いは何れ訪れる。
その時、生き残るためには気持ちの切り替えが出来るようにならなければいけない。
訪れないにしても備えはしておくべきなのだ。
そしてステラはそれを見事に克服してみせた。
本気でアクセルと対峙するのはこれが2度目。
覚悟を決め、アクセルと対峙する。
アクセル相手に魔法は通用しない。
それを理解してステラは腰を落とし、カタナに手をかける形で構えをとる。
ステラは魔法を主体として戦う為、自ら接近することはほとんどない。カタナを使う場合は敵が迫ってくる時の方が圧倒的に多いため、それを迎え撃つ方法を考えた。
相手が向かって来るのだから、それをただ斬ればいい。
そう思い、受けから攻めに転じる方法、居合を独自に考え出したのだ。
そして、それを初めてアクセル相手に使用した際、居合という名の剣術で、ポロの街で行われた武闘大会の決勝で闘った相手が使っていたと教えてもらったのだ。
「居合か……受けて立つ!」
アクセルはそう言うと、正面から向かっていく。
対するステラも、すでに居合はアクセルに何度も破られている。
だがその度に改良も加えてきたのだ。
ステラはすぐにカタナに4つの属性を同時に纏めあげ、その力をカタナに込めていく。
これこそがステラだけの居合。
4つの属性を纏った剣は全てを切り裂く力を得る。
しかしそれだけではアクセルに当てることなど出来ない。
さらにステラは自分に身体強化を施し、カタナを素早く振り切ることだけに集中した。
そしてアクセルが間合いに入ると、ステラの神速の居合が放たれる。
すれ違う2人はまるで時が止まったかのように少し間動かなったが、アクセルの腕から血が噴き出した。
それと同時にステラが膝をつく。
紙一重で躱したアクセルの剣の背がステラの脇腹を叩いていたのだ。
「うぅぅ……」
「ふぅぅぅ……ステラ、強くなったな!!」
「えへへ、いててて」
剣を仕舞い、ステラの頭をポンポンと撫でながらそう口にするアクセル。
ステラも脇腹を抑え、表情を歪ませているが、どこか満足気だ。
「二人共、大丈夫か?」
ミラとソニアが駆けつける。
「俺は問題ない。一旦広場から上がろう。風呂入ったらすぐ傷も塞がるしな」
アクセルの言葉を受け、ソニアはステラに肩を貸し広場を後にする。
アクセル、ミラもそれに続いて歩いていく。
「ふふ、中々危なかったな……私達もウカウカしてたら置き去りにされてしまうな」
「全くだ。アイツらの成長度合いには驚かされるよ」
ステラとソニア、二人の成長に驚くと同時に嬉しくも思う2人だった。
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