84話 祖父と孫の願い
「なぁドラ、お前喋り方変わったな」
ドラの住処に向かう道中、突然アクセルがそんな事を口にする。
「母がこんな喋り方だったので…変えた方が良いですか?」
「それが良いなら別に良いんだけど、初めて会った時はさ、ふははは、人間共!!みたいな喋り方だったろ?」
「ちょっ!!あ、あれは…少しでも威厳が出ればいいと……」
「なはは、まぁ喋りやすいように喋れば良いからさ」
こんなやりとりをしつつ、徒歩で火山を目指している。
ドラから、私が乗せて飛べば速い。と提案はされたのだが、目的地までの道中も楽しまないと勿体ないだろ、とアクセルのみならず、皆に反対された為だ。
こうして最初の街から森を抜け、山を越え、さらに山を越え、などしているうちに目的の火山が目視できる距離まできた。
その火山はマグマで山が構成されているのではないかと思わせるほどマグマが全体から噴き出し、常に流れ落ちている。
山の麓には流れ落ちたマグマが溜まり、マグマの泉が何ヶ所も見受けられた。
そしてたまに地面から水柱が噴き上がり、噴き上がった傍から水は蒸発して消えていっている。
さらには辺りに凄まじい熱気が漂い、草木はおろか、生物の痕跡すら見当たらない。
まさに選ばれた者のみが入ることを許される。そう思わせる場所だ。
「うひゃーー、こりゃ凄いな!!!」
「うぅ、ボク、暑いのダメだぁ」
アクセルは相変わらずだが、普段そんなアクセルについて回ってるステラは、耳はヘニャッと垂れ下がり、相当参っている様子だ。
「ステラ、こういう時に魔力を使うんだ。こう、薄く膜を張るみたいな感じで―――」
アクセルが色々と説明するとステラもコツを掴んだのか、先程より幾分か楽になったようだ。
「いい感じだな!でも、奥はもっと凄いぞ?拠点で待ってるか?」
「ううん!ボクも行く!」
何か思うところがあるのだろう。ステラはハッキリと自分と意思を口にする。
「……分かった。さっきも言ったけど奥はもっと熱いぞ!俺が無理だと判断したら拠点に送るからな」
「うん」
そんなやりとりをしているとドラが会話に混ざってくる。
「今更ですが、ホントに行くのですか?おじい様は他のドラゴン達と比べても圧倒的な程の力を持っている。やはりやめておいた方が……」
「……まぁ、確かに物凄いな!ここからでも分かるよ…何も知らなければ、絶対に近付かない。でも、今から行くのはドラゴン達の長としてじゃなく、お前のじいちゃんのいる所で、挨拶をしに行くだけだ。別に戦うわけじゃない。そう心配するな」
「そういう事だ。危なくなればすぐ逃げれば良いさ」
「そうそう!!」
「…………」
確かにドラの言う通り、凄まじい力を持った者達があの山に集まっている。
中でも頭1つどころか、2つ、3つ飛び抜けた存在も確認できた。
間違いなくドラのいう、おじい様だろう。
あれほどの力を持った存在だ。すでに俺達が来ていることは承知のはずだ、とアクセルに言われたことでドラも覚悟を決めたようだ。
そして山を目指し進んでいく。
山に近づくにつれ、熱気も強くなっていくが、ステラもしっかり適応し、問題なく入口まで辿り着いた。
「入るぞー」
まるで友達の家に遊びに来たかのように、そう告げるとアクセルは臆することなく進んでいく。
そしてねぐらと思われる場所に着くと、ドラのように元は真紅だったのだろう。長い年月を経て鱗も黒味を帯び、年季を感じさせる一体の巨大なドラゴンが身体を丸め、中央に鎮座している。
そして周りにはざっと20は居るだろうか。さらには上空をグルグル旋回しているドラゴンも複数確認できた。
そんな中、アクセルは中央にいる老ドラゴンに近寄っていく。
「来たか………人の子よ…」
老ドラゴンはそういうと顔をアクセルに向ける。
「敵対する気はない。ただ挨拶に来たんだ」
アクセルもまた老ドラゴンの顔の正面に立ち、そう告げる。
「ふざけるな!!小賢しい人間風情が!」
「ここに踏み込んだことだけでも許し難い!八つ裂きにしてくれる!!」
落ち着いた老ドラゴンに反し、周りのドラゴン達はかなり気が立っている様子で、今にも襲いかかってきそうな雰囲気だ。
アクセルの少し後ろにいたミラ達もこれには肝を冷やすが、それを老ドラゴンが諌めた。
「止めるのだ…我が子達よ!」
ただそれだけ告げると辺りは静まり返る。
そしてドラがアクセルの隣に並ぶように立つ。
「おじい様……」
「我が孫よ……世界を見て回れと言い渡した筈が、なぜ人間をここに招き入れた」
「それは……」
言い淀むドラに変わり、アクセルが割って入る。
「俺が言い出したことだ。俺達が入ったらダメだったか?」
「ふむ…ここに足を踏み入れる事ができる力はあるようだ…要件を聞こう」
「さっきも言ったが、挨拶に来たんだ。こいつ…アンタの孫と一緒に旅をすることにしたんだ。だから……」
アクセルの言葉を遮るように老ドラゴンが吠える。
「小賢しいぞ!!」
途端に辺りの空気が変わる。
ビリビリと大気が震えるような威圧は、その場にいた全ての者を恐怖で支配した。
「旅を共にするだと!?何も知らぬ小娘を手篭めにし、操る心積りであろう!!」
牙を剥き、さらに威圧する老ドラゴン。
ステラなどは足が震え、そんなステラを庇うようにミラが前に立っている。
「…お前がどう言おうと、俺達がこいつにどんな事を吹き込んだとしても、旅を共にすると決意をしたのはお前の孫だ!」
アクセルも負けじとそう返すが、今度は周りのドラゴン達が口を挟んでくる。
「生意気な」「灰にしてくれる!!」
「うるせぇな!お前らと話してんじゃねぇんだ!黙ってろよ」
一斉に唸りを上げるドラゴン達にアクセルは冷たい視線を向け、そう言い放つ。
「お前もそんなに孫が大事なら1人で外に放り出すんじゃねぇよ!!」
さらに老ドラゴンにもそう言うと、正面から見据えた。
しばし睨み合う両者。
だが…
「……んっがっはっはっはっ!!愉快、愉快。なんと豪胆な人の子か!!」
いつ戦いが始まってもおかしくない雰囲気の中、老ドラゴンが豪快に笑いだしたことで雰囲気が和らいでいく。
「人の子よ、試すようなことをして済まなかった。我が孫が気になったお主を、ワシも気になってな。年甲斐もなくついつい、はしゃいでしもうたわ」
「だろうな…お前がその気になれば、俺なんか手も足も出ない内に灰すら残ってねぇよ」
「がっはっはっは!!!面白い子よ。して、我が孫よ。そなたの言葉を聞かせてもらえぬか?」
アクセルの隣でステラ同様震え上がっていたドラが、恐る恐る前に出て口を開く。
「わ、私は!アグレクトルドラゴンとして、人の子として、世界を知りたい!そして、その為には、この方と、その仲間達と共に在りたい。それが私の願い」
端的だが、強い意志の宿った言葉だ。
「………それがそなたの願いであるならば、成し遂げてみせよ。……時に人の子よ」
「ん?俺か?」
「そうだ、人の子よ。……名を聞かせて貰えないか」
「アクセルだ」
「………アクセル。そうか、ではアクセル。我が孫に名を授けてやってはもらえぬか?」
突然の申し出に一同が驚愕の表情を見せる。
「我が孫が共に歩みたいと願う人間。そなたが名を授けてやって欲しい」
目を閉じながら静かに、願うように老ドラゴンはそう告げる。
そんな老ドラゴンを見たアクセルはドラに尋ねる。
「お前はそれで良いのか?」
「私も…そう願います」
その言葉を聞き、アクセルは目を閉じると少しの沈黙が流れる。
そして…
「………決めた…ソニアだ!」
「……ソニア…私の名……」
「あぁ、改めてよろしく頼むぜ、ソニア!」
「はい!!!」
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