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81話 北大陸の幕開け

砂だった地面が石に変わっていく。


とうとう街に、そして北大陸に到着したのだ。


街に続く階段を登っていき、登りきり、振り返ってみると遥か先まで砂の道が続いている。


「とうとう新しい大陸にまで来たな……」


仇討ちから始まった旅はやがて楽しみに変わり、遂には新しい大陸にまで来てしまった。


なんとも言えない感情だが、心地悪いわけでは無い。


「随分と遠くまで来たものだ……」


遠くを見つめるアクセルの隣に立つミラもまた、同じような心境だろう。


「あぁ……ずっと変わり映えしない景色で色々考えさせられた…けど、やっぱり楽しまないとな!!よーし!早速街に行ってみよう」


勢いよく走り出すアクセルに続くミラとステラ。


しかしすぐにアクセルの足が止まる。


「どうした?」


「多分、厄介事だな…」


警戒しつつ街に入ると中央の広場に人だかりが出来ている。


大体の察しはついたが、アクセルは1人の男に訊ねる。


「何かあったのか?」


「あぁ、あそこにいる女が突然やって来て暴れ回ってる。警備のヤツらが取り抑えようとしてるんだが、やたらめったら強くて歯が立たない」


男の指差す先には、身体をすっぽりと覆うような大きな布1枚だけ身に付けた赤髪の女がいる。


そして女の足元には男達が数人横たわっていた。


「どうした!人間とはこんなものか!!ならばアグレクトルドラゴンであるこの私に跪け!頭を垂れろ!」


女は足元に横たわる男に片足を乗せ、大声でそう言い放つ。


アグレクトルドラゴン、それは神話に登場する炎を司るドラゴン達の頂点に立つ種族だ。


そしてそれを口にしているのはステラと同じくらいの年齢の女。


強さは本物だが、ドラゴンであるなど、ましてやアグレクトルドラゴンなどという眉唾物の存在を人々は信じることが出来ず、かといって力ずくで制圧出来る訳でもないため頭を抱えていた。


そんな中、アクセルは静かに女に歩み寄る。


「ふん!貴様はまだ逆らうか!」


「落ち着けよ…話をしよう」


そう宥めようとするアクセルだったが…


「ならば己で力を示せ!私に勝てば話などいくらでも聞いてやろう」


そう女が言い、拳を構えた瞬間アクセルの掌打が女の顎を打ち抜いた。


そのまま崩れるように倒れる女をアクセルが抱える。


一瞬の出来事だったが、理解が追い付いた街の人達歓声を上げる。


「助かった!その女は私達が預かろう」


一人の男がアクセルにそう言い寄ってくる。


「断る…コイツは俺が預かる」


唖然とする男をよそに、アクセルは女を抱えたままミラ達と街を出ていった。



▽▽▽




「うまぁ!!!」


「だろ?こっちもいい感じだと思うぞ?ほれ」


ドラゴンの女を寝かせ、アクセル達は海からとってきた魚を食べている。


初めて見る魚だったがアクセルが串焼きにし、ステラも大喜びだ。


賑やかに食事を楽しいんでいると女も目を覚ます。


「……ここは…っ!!」


「ん?起きたか?」


アクセルの言葉と同時に女は即座に距離をとり、拳を握る。


「まぁ落ち着けよ…お前も食うか?」


そんな女の元にアクセルは串焼きを持って近付いていく。


「調子に乗るな人間!!さっきは油断しただけだ!今度はそうはいかない…」


女はそう言いながら手渡された串焼きを打ち払う。


(まずい………)


それを見たミラは即座にステラを連れ距離をとる。


地面に落ちた串焼きを拾い上げたアクセルは、それを無言でミラに手渡す。


「貴様が強いことは認めよう…私の真の姿をもって貴様を焼き払ってくれよう」


女がそう言うと同時に、身体は光に包まれ、みるみる巨大化していく。


やがて光が払われると、そこには全身真紅の鱗に包まれた、まさにドラゴンというべき者が姿を見せた。


そして空を引き裂くほどの咆哮を……上げることは無かった。


巨大なドラゴンの姿になった瞬間、アクセルの回転を加えたカカトがその頭に直撃し、地面にめり込む程の衝撃を受けたのだ。


それをかなり距離を開け見守るミラとステラ。

ステラは心無しか震えているようにも見える。


「いいか?ステラ、あれがマスターのもう1つの顔とでも言うべきものだ…覚えておけ」


「………はい」


アクセルは戦いを好まない。

故に戦いになった際には、いつもの穏やかな表情は消え相手を殺すまで徹底して手を抜かない。


それは短い付き合いのステラでさえ理解していた。


しかし今、目の前にいるアクセルは纏う雰囲気が違う。


それは魔獣や、アクセルがゴミだと言い切るような下衆な人間に見せる、残虐性とでもいうべきものだ。


それを初めて目にしたステラは、初めてアクセルに対する恐怖という感情を抱いた。


アクセルはまた人間の姿に戻っていく女に歩み寄る。


「くっ……」


近付いてくるアクセルがユラユラと揺れる中、なんとか立ち上がる女。


「座れ……」


そんな女にアクセルは静かな声でそう告げる。


「ふざけ……」


「座れ!!!!」


「は、はい!」


アクセルの大声に身体を震わせその場に両膝をつく女。


アクセルも女の前に片膝を立てて座り、語り始める。


「お前が食い物を食べたくないなら、それでも構わない…だが、命を粗末に扱うことを俺が許さない!…ドラゴンだから、強いから何でも奪っていいのか?なら、お前は俺に2回も負けたんだ。お前の命は俺のもの…違うか?」


バツが悪そうに女は俯き黙っている。


「どんなやつだって望んで命を差し出すなんてこと…したくないんだ…地面に落ちたくらいで食べない、なんてことはないが、命を雑に扱うお前の行動に腹が立つ。お前に考えがあってのことなら好きにするといい…考えを変える必要はない。だが、俺の目の前でやるなら…次はその首を容赦なく落とす」


その後もアクセルの説教は続く。


それを聞いていたミラにとっては至って普通のこと。


アクセルと共に過ごしてきたのだ。考え方も近いものになるし、客観的にみても間違っているとは思えない。


同じくステラも同様の内容を教えられている。


勿論、いつもの穏やかな表情で、だが。


しかし改めて聞くと、分かっていたつもりだったのだと、話を聞く姿勢を正さずにはいられなかった。


読んで頂きありがとうございます

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