79話 続・ランタンが持つ力
ランタンの力により出現した扉の先に入った三人。
アクセルの自身の体調が一向に良くならないとの言葉を聞き、しばらく考えたあとミラは階段の先に広がる真っ白な空間に向かう。
「お、おい!」
アクセルの言葉も聞かず真っ白な空間に降り立つミラ。
(これはさすがに辛いな……)
重力が増し、少し前屈みとなり、フラフラとしながらそんな感想を述べたあと、少しするとスっと背筋を正し、左手を天に掲げる。
そして暁を葬った時と同等の紅い雷を空間の中央に放った。
「どわぁ………」「うわわわわ」
突然のミラの行動に慌てるアクセルとステラ。
「ステラ……これからはミラを怒らせないようにしよう………」
「はい!!」
そんな冗談をいってる二人だったが、ミラが雷を放った場所に目をやる。
「無傷か………やっぱり俺の妄想が反映されてるのは間違いないな」
そこは雷が放たれる前と何ら変わらぬ状態だった。
アクセルの言葉の直後ミラも戻ってくる。
「何か分かったか?」
「あぁ、君の言っていた何にも影響されない場所とはさっきの雷を見ての通りだ。さらに……私の魔力が減っていない。かなり全力で放ったのだがな…」
「という事はさっきお前が言ってた、身体の時が止まってるってことは正しいか…」
石床の上に座り込み考え込んでいた二人。ステラは湯船の様なものが気になるのか、近くまでいき覗き込んでいる。
「あれも君の妄想が反映された何かか?」
「いや、違う。そこまで具体的に考えてなかったからな」
「となると、あれはこの場所に備え付けられている物ということか…」
二人もステラが覗き込んでいる湯船に向かう。
「うーん、どう見ても普通のお湯だな……」
そう言いながら指先で少しお湯を触ってみる。
何度か繰り返した後、今度は指先だけをお湯の中に入れみる。
「丁度いい温度だな…べつに変わったところは…なさ…そう?」
そう言いながらも身体の変化を感じ取った。
「なんか身体が楽になった気がする…」
そう言いながらも両手を入れてみる。
「うん!間違いない。魔力も少しずつだけど回復してる」
その後アクセルは服を脱ぎ全身浸かることにした。
そんなアクセルのもとにステラがツボを抱えやってくる。
「マスター、この中に木の実がいっぱい入ってる。凄くいい匂い」
蓋を外しツボを傾け中身を見せてくるステラ。
「お?確かにいい匂いだな…」
そう言って1粒取り出してみる。
それはリンゴのような形をしているがリンゴに比べかなり小さい。
それは現代でいうサクランボだ。
「うーーん……腐ってはいなさそうだけど、そもそもこの空間で食べ物食べたらどうなるんだ…」
「この風呂と同じく備え付けの物だろうから問題ないのではないか?」
「……………つまり人柱になれと?」
「さぁ?」
「…………ふぅ……よし!!」
息を整え口に放り込む。
「…………ウマい…」
「うん…で?」
「甘い」
「紅い雷は君にも効くはずだな……」
「まてまてまて!!……うーん、なんか凄く満腹になった気がする。あと少し眠気がくるな…冗談言ってるわけじゃないぞ?」
「ステラ、お前はまだ食べない方がいい…マスターのじっけ……オホン、少し様子をみようか」
その後、しばらく様子を見た後問題ないことを確認すると、実験などもしつつ色々と考察をしてみる。
そして暫定だが結論を出した。
「つまりここでは肉体的な変化が起こらない。身体の機能は動いている為、時が止まっているというわけではないようだ…そしてこの風呂と実。ここは景色が変わらないため時間の概念が分かりづらい。一日の基準とするために必要な物だと推察する」
「ふむふむ、それでもしもの時はこの風呂が癒してくれると…」
風呂から出たアクセルは魔力も回復し、疲労もスッカリ抜け、元気になっていた。
「あぁ、そしてそこの寝床で寝て、この鐘で目を覚ます。正に避難するには最適ではないか…それなのに君は……」
そう、これは世界を滅ぼした、超破壊魔法クロノスから逃れる為に存在した遺跡、そこに眠っていた道具なのだ。
それならばそのランタンにも、それに準ずる何かがあるのでは?とミラが考えついたのだ。
本来であればこのランタンで、住みやすい環境に変化させた空間に一時的に逃れるといった算段だったのだろう。
だが現在はアクセルにより魔改造を施され、過酷な訓練場となってしまっている。
「そう言うなよ…気兼ねなく力をつけれる場所が出来たんだ。損は無いだろ」
「過ぎたことだ、どうしようもない。では、そろそろ戻るか?恐らく夜明けが近いぞ」
「だな!砂時計はまだまだ余裕はあるけど、あの砂時計が今回の滞在時間とは限らないもんな」
こうして再び扉を開き、野営をしていた場所に戻ってきたのだが……
「ぐっ……予想はしてたけど、魔力切れか……それにまだ真っ暗だな」
戻ってきたアクセルは再び魔力切れに陥った。
風呂に入り、疲労と魔力切れは治ったのだが、肉体的な変化が起こらない空間にいたのだ。それは一時的なもので、元の世界に戻ると、扉をくぐる前の状態に戻るのでは?とミラが推察し、まさにその通りとなった。
辛そうなアクセルだったがすぐに何かに気付き、警戒を呼びかける
「気をつけろ!!まだ薪に熱が残ってる…」
「誰かいたというのか?」
扉に入る際に火は消しておいたはずだ。
すでに数時間は経っているにも関わらず暖かい、いや熱いといっていいほどの熱が残っている。
すぐにアクセルは身体に鞭を打ち、魔力を拡散させ周囲を警戒するが何も見つからない。
その後、再び火をおこし、野営を再開させるが、夜明けまではまだかかりそうだ。
そして翌朝。
「今日は夜明けがやけに長かったな…」
寝ずの番をしていたアクセルがそう呟く。
「いや、そうではない!」
ステラと二人就寝していたミラが偶然起きてきてアクセルの呟きを聞き、それを否定する。
「私も色々と考えたのだが、恐らくあの扉の先は時間の流れが違うのではないか?あちらの数時間はこちらの世界では数分、いや数秒にも満たないのだろう…」
「ってことは、俺らが火を消して、実際にはすぐに戻ってきたからまだ熱が残ってたってことか?」
「そう考えるのが妥当だろう」
ランタンの持つ力に驚きを隠せない二人だった。
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