78話 ランタンが持つ力
次の目的地は北大陸だ。
だが北大陸に渡る前に、フォルジュのさらに北にある街に向わないとならない。
海を歩いて渡れるのはその街からだけだそうだ。
幸いまだ時間には余裕がある。
一、二ヶ月旅をして間に合わないようであればフォルジュに飛んで、そこから向かえば問題ない。
そう三人で話し合い、ポロから海沿いに北を目指すことにした。
「いいか?ステラ。旅の最中は野営が基本だ。いちいち拠点に帰ったりしないから、しっかり覚えろよ?」
「はい!覚悟は出来ています」
「よし!でも楽しむ為に旅をするんだ。気負いすぎたら疲れるぞ」
こうしてポロの街を旅立った三人。
ステラにとっては全てが初めてのことだらけだ。
食料調達、野営、戦闘その他、色々な事を旅をしながら教えていく。
それは、これまでアクセルとミラ、二人が過去に経験し培った大きな財産だ。
ステラも最初は戸惑いを見せていたが、しばらく旅を続けると次第に慣れてきたようだ。
相変わらず道無き道をいく一行だが、現在も森の中で野営中だ。
ステラも少し余裕が出てきたのか、ミラと二人で火を囲み談笑している。
余裕が出てきたのはアクセルやミラも同じで、アクセルは二人の近くでしばらく手付かずであった、遺跡で見つけたランタンを調べている。
そして数日後、いつもと同じように野営をしている時だ。
この日もアクセルはランタンを調べていたのだが、突然…
「ぐっ……」
顔に手を当て、もう片方の手を地面に付き、何やら苦しんでいる。
「なんだ!!どうした?」
「あぁ、大丈夫。ただの魔力切れだ……」
その言葉の異常性をミラはすぐ理解したが、まずはアクセルの介抱だ。と近付こうとした直後、三人のそばにズズズっと重々しい音をたてながら巨大な両開きの扉が出現した。
「なんだ!?扉?」
そう驚くのはアクセルだ。
「さっき魔力切れだと言ったな?この扉は君が何かしたのか?」
「あぁ、ランタンを色々調べてたら、ここに目盛みたいなやつあるだろ?あと少しでいっぱいになりそうだったから、試しに魔力注いでみたらゴッソリ吸われて、こうなった…」
「……つまりその目盛がいっぱいになったことでこの扉が現れ、出現されるにはとてつもない程の魔力が必要というわけか」
その目盛は10に区切られ、ほぼいっぱいまで溜まった状態だった。
残り少しの目盛を溜めるだけでもアクセルが魔力切れを起こすほどの魔力が必要というわけだ。
「正直、この扉を開くのは反対だな……それほどの魔力が使われたのだ。何が起きても不思議ではない…と言ったら君は一人で様子を見てくると言い出すんだろ?」
「………確認は大事だろ?」
「なら、私も行こう。ステラは…」
「行きます!!」
ミラの言葉に食い気味に答えるステラ。
今度はアクセルが…
「待て待て、危険が…」
「行きます!!!!」
譲らないステラにアクセルとミラは顔を見合わせる。
「ふぅ…分かった。一緒にいこう」
結局アクセル達が折れ、三人で扉の向こうに何があるのか確認することにした。
そしてアクセルが扉を開いたのだが、その向こうは光っているのみで、何も見えない。
「俺が先に行くとは言うまいな?行くなら全員で、だ」
「…………お前、心が読めるのか?まぁ良いか!じゃあ用心していくぞ?何があっても良いように、お前ら俺に触れとけ」
いつでも時空間で移動出来るようにしつつ、意を決し、扉の先に広がる眩い光をくぐる。
「…………っと」
「「…………」」
光をくぐり、踏み入れた場所は滑らかな石で作られた床が少し広がり、脇には湯気を立ち登らせる湯船のような物が並んでいる。まるでちょっとした生活空間のようだ。
そして石床のさらに奥には緩やかな短い数段の階段があり、その先に広がるのは、ただ真っ白で上下の判別も出ないような空間だ。
目の前の光景に言葉を失う三人であったが、ズズズと再び重々しい音をたて、扉が閉まる。
その音に我に返り、振り返ってみると閉まった扉の上部には砂時計のような物があり、砂が落ち始めていた。
「あれが落ちきると何かあるのだろうな…」
「普通に考えて、この場所に居られる時間か………っ!!」
そんな事を話し合っていると、何か思いついたかの表情をしたアクセル。同時に奥に進もうとしていたステラに突然声を荒らげる。
「待て!!!ダメだ!そっちに行くな」
「え!!?」
「どうしたんだ?突然…」
「……ちょっと確かめてくる…お前らは来るな」
有無を言わさずアクセルはそう告げると、階段を降り、境目で止まると、腕を伸ばし、何かを確かめた後、自身が真っ白な空間に降り立った。
そしてすぐに戻ってきたアクセル。
「やっぱり思った通りだった」
「詳しく聞こうか?」
アクセルはランタンを調べている最中、遺跡でのことを思い出していた。
あの遺跡を作った人物は海に繋がる地下深くであっても、人が避難し、生活出来るように色々と仮定と想像をしていた。
アクセルも、もしそんな場所、もしくは全く新しい、好きなようにそんな場所を作れるとしたら、などという妄想をしていたのだ。
「で、その馬鹿げた俺の妄想がこの先の空間に反映されてる」
頭を抱えるミラに反し、ステラはすごいと目を輝かせ、何故か喜んでいる。
「それで、具体的にどんなものがあの空間にはあるのだ?」
「あぁ、えっと何にも影響されない場所で、空気が薄くて、常に身体に重さがのしかかって、四方八方からひっぱれたり、押されたりして方向感覚がおかしくなる」
空気が薄く、重力が増し、引力、斥力が常に襲ってくるというわけだ。
「………君は馬鹿なのか?なぜそんな空間を欲したのだ」
「いやぁー、訓練するのにいいかなって…だいたいはミラの魔剣の力を参考にしてみた!!」
「限度があるだろう!!訓練の前に死んでしまうぞ」
「いやー、まさか妄想が現実になるなんて思わないだろ。………それとさ、もう一つおかしい事に気付いた」
「今度はなんだ!!」
先程までおどけていたアクセルが急に真剣な表情になる。
「ここにきて魔力が一向に回復してない。俺は一定の量まで魔力を使うとしばらく回復しないのは知ってるよな?今回はまだ自然に回復するくらいの魔力は残ってたんだ。それだけじゃない……身体の疲労も一切抜けてない」
それは言わば人が全力で長距離を走ったあと、息や心拍数が落ち着かないといった状態が、ここにきてずっと続いているのだ。
「つまり………肉体の時が止まってる?」
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