77話 優秀な理由
気合い十分のステラはここでもやはり凄まじい上達の速さをみせ、すでに一瞬ではあるが魔法が発動してきている。
(やっぱり早すぎだよな…それに……)
「気付いたか?」
考え込んでいるアクセルにミラが声をかける。
「うん?お前も?」
「あぁ、ステラの魔法は私とはどこか質が違うというか…上手く言葉に出来ないが、根本から違うような気がする」
「確かにな…アイツのは自分の魔力だけじゃなくて、別の何かが混ざってる気がするんだ」
例えるならミラが使う魔法を単色の赤だとすると、ステラの魔法は赤色にもう一つ色が積み重なったかのような印象だ。
「そういえばさ、昔森で勘違いした精霊に追い回されたことあっただろ?あの時精霊が使ってた魔法に似てる気がするな…」
「…………っ!!」
ミラはアクセルの言葉を聞いた後、自分のチュチュ袋からとある本を取り出し読み始めた。
そしてしばらくペラペラとページをめくっていく。
「あった!これだ」
「うん?」
「私は魔法がどのように生まれたか気になって調べたんだ。結局、具体的にはわからなかったのだが、人族が魔法を使うことになったきっかけを見つけたのだ」
ミラの話によると、魔法を最初に使っていたのは獣人だそうだ。
その獣人達は森と共に生き、人に近い容姿をしながらも身体能力、魔力共に極めて高く、数こそ少なかったが、森の支配者、絶対者などと様々な呼び方をされ、時に人族と協力し、その力を使い様々な困難を打ち破ったと言われている。
そんな獣人達が使う魔法を人族が真似したのが現在の魔法だ。
しかし一方で当の獣人達は時を経るにつれ、元々抑えていた森での生活における魔法は、身体能力で事足りることも相まってどんどんと使う機会を失っていき、現在に至る。
「そして初の魔物使いとなった古の英雄。その仲間の獣人が森の支配者と呼ばれる、かつての獣人だったそうだ」
「あぁ、あのおとぎ話の…ってことはつまり、ステラはその森の支配者と呼ばれる昔の獣人で、使う魔法もその当時の魔法ってことか?」
「もちろん憶測でしかないがな…だが、余りにも似通っている部分が多過ぎないか?」
「まぁ、たしかに……ん?でもさ、ステラは生まれてすぐ捨てられたって言ってたよな?そんな長生きしてるようには見えないし、嘘ついてる様子もないよな…」
「これも恐らくだが、先祖返りというやつだろう…一応簡単に説明するが、普通、血は世代を跨ぐことで薄くなっていくだろ?。それが突発的に薄くなる前の状態で生まれてくる者がいるそうだ。それが先祖返り」
「ふむふむ、なるほど。ありがとな!まぁ、結局ステラにとって大きな力にはなってくれそうだ。だから俺達がちゃんと導いてやろうぜ」
「ふふ、その通りだな」
真剣に訓練に取り組むステラを、二人は少し離れた場所から眺めながら頷き合った。
その後、一向に訓練を止める気配のないステラに根を詰め過ぎても上達は早くならないと諭し、夕方訓練を切り上げた三人は用事もある為、ポロの街にきていた。
「ミラが言ってくれなかったらスッカリ忘れてたぜ」
それは遺跡探索に関することだ。
報告を終え、レガリアを納めたのだが、その後のことは一切をコリン達に任せていた。
といっても報酬の受け取りと、何か目に見える異変があった場合に連絡がくる程度のものだ。
というのもあの遺跡には高密度の魔力が集まっていた。それが遺跡水没と共に消えたことで変化があるかもしれないと、アクセルは気にかかり、様子を見ておいてくれとコリン達に頼んでいたのだ。
そして約束していた場所に向かうとすでにコリン達と、さらに二人の人物が待っていた。
「あれ?シンにアヤメ?なんで?」
「たまたまこの二人の隣で飯食ってたらお前の話をしてたんでな!ちょいと邪魔させてもらった。外した方が良いか?」
「いや、全然問題ないよ」
こうして7人と大人数で食事となった。
「ねぇねぇ、アクセル君、ホントに報酬貰っていいの?1億だよ?半分にしても遊んで暮らせる額だよ?」
それはレガリアを発見し納めたことによる報酬だ。
「要らないって!あっても使い道が無いし、俺が遊ぶのに金は要らないし。な?」
アクセルはそういうとミラとステラを交互に見やる。
「あぁ、問題ない。必要ならその時、彼が稼ぐさ」
そう言うミラに対し、ステラは俯いてしまっている。
それはステラの防具を買った時のことだ。
3億というとてつもない金額の防具だったのだが、ステラはその3億という金額の価値が分からなかった。というのも金を使ったことがなく、また億という単位がどれ程か分からなかったのだ。
だが、金貨の量がとてつもないことだけは分かり、罪悪感に襲われ、お金に対して少しだけ引け目を感じていたのだ。
そんな様子のステラにアクセルが声をかける。
「ステラ、何回も言ったろ?金なんて生活を少し豊かにするだけだ。その金で命を守れるようになるなら安いもんだ。お前が気にすることなんて何一つないんだよ」
「………いつかその分の働きはしてみせます!」
「はぁ……お前なぁ……」
何も理解してもらえていないとアクセルはため息を漏らす。
そんなアクセルに気持ちを察してかシンが話を振ってくる。
「そういえば、お前らは旅してるんだよな?目的地とかあるのか?」
「いや、元々は東大陸に行こうと思ってたんだけど、船が出ないみたいだからな。のんびり三人で北大陸か、西大陸目指そうかと思ってる」
「なるほどな!丁度良かった。東大陸はしばらくやめときな!あそこはじきに戦いが起こる」
「ん?何か知ってるのか?」
「まぁちょっとばかり縁があるくらいだ。訳ありだがな…じゃあそういうわけで俺らは行くわ!お前に会えて良かったぜ」
「ん?あぁ、分かった。気を付けてな」
シンとアヤメは明日の朝早くにポロの街を出るそうだ。
手を握り合い、二人が店を出るのを見送った。
それを皮切りに、今度はコリン達も明日別の依頼のためポロを旅立つことを告げられる。
「じゃあ私達もそろそろ帰るね!あ、その前にアクセル君、さっき北か西大陸に行くって言ってたよね?今なら北大陸がオススメだよ?」
「そうなのか?」
「うん!もう少しすると海の水が引いて北大陸に歩いて渡れるようになるんだ。暖期になっちゃうと水も戻るからこれを逃したら次歩いて渡れるようになるのは4回目の暖期前になるね」
つまり3年に1度、北大陸には歩いて渡れる時期があるということ。
「へぇ!面白そうだな!行ってみるか」
ミラとステラを見ると頷いている。
「いい情報、ありがとな!お前らも気を付けてな」
こうしてポロの街での予定は全て終わった。
そして次なる目的地は北大陸だ!
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