67話 決着
大会二日目も何事もなく無事終わり、アクセルも拠点へと戻った。
「ただいまー!お?」
「おかえり…あぁ、ステラも随分と元気になって走り回っているぞ」
ミラの言う通りステラはキャッキャとロア達や動物達と走り回っている。
「それと問題という程ではないのだが…」
ミラの言葉と同時にステラもアクセルの帰還に気付き、走り寄ってきた。
「おかえりなさい。アクセル様のおかげでボクも…間違えた……私もこんなに走れるようになりました」
「あぁ、…それは良かったけど…」
そういうとアクセルはミラに視線を向ける。
「どうやら君が買ってきた英雄の物語の本に多大な影響を受けたようだ」
「ははは、なるほど!それでボクか」
ステラは気を付けていたが咄嗟にボクと言ってしまったことが恥ずかしかったのか、俯いてモジモジしている。
「いいじゃねぇか!世界は広いんだ!自分のことをボクっていう女の子がいても良いと思うぞ」
こうしてボクっ娘ウサギ獣人が誕生したのである。
宿に戻りステラが寝付いたのを確認した後、ミラがアクセルに問いかける。
「で、何かあったのか?」
「ホントになんで分かるんだよ…ちょっと怖いぞ…」
アクセルは武闘大会の2、3回戦共に勝ち進んでいるのだが、3回戦の時に問題は起きた。
それは一回戦同様の形で試合は進んだのだが、その対戦相手に「攻撃を受けることなく負けるのは強さを求める者に対する侮辱だ」と言われたのだ。
この時、アクセルには意味が分からずそのまま試合を終わらせたのだが、その後、他の試合を見ている時のことだった。
試合に負ければ死ぬんじゃないか。そう思わせるほど気概に満ちた者達が少なからずいたのだ。
そして中には腕を切り捨ててまで勝ちにいこうとする者もいたほどだ。
当然落ちた腕は元に戻らない。
戻せる薬も存在はするが、一参加者の為に大会運営側がそんな国宝ともなり得る貴重な物を用意するはずもない。
アクセルはそこまでして勝ちに拘る者達がいることに衝撃を受けたのだ。
「全てを理解出来ない訳じゃない…負けたくないって気持ちは分かるし、俺も命が掛かってるならそれくらいやるけどさ…」
「たしかに常に死が隣り合わせだった私達には理解しづらいかもしれないな…勝つにしても、負けるにしてもなにか美学のようなものがあるのだろう」
「結局腕を切り捨てた奴も次で負けてたし、それなら次の大会まで腕を上げるとかしたら良いのにって思ったんだ。でもさ、強さに対して真剣に向き合ってるってのは分かったんだ…俺も真剣に作った装飾品を見もしないで捨てられるのは嫌だし、俺が侮辱してるって言った奴はそれと同じ感じなのかなって……」
「確かに君の勝ち方は手を抜き、遊んでいるように思われるかもなしれないな…君自身そんなつもりはないだろうが」
「はぁーー、ホントに世界には色んなヤツがいるな……」
次の日、今日はいよいよ優勝者が決まる。
ミラ達を拠点に送ったあと、準々決勝が始まった。
準々決勝も開幕で勝負をつけたアクセルだったが、組み伏せ降参を迫る今までのやり方ではなく、的確に顎先を掌で捉え意識を刈り取った。
ここまで勝ち残ってきた者だ。強さに対する思いは真剣そのもの。アクセルは昨日のことを反省し、真剣な思いにはしっかり向き合おうと思い直したのだ。
試合後、待機所にいたアクセルをシンが訪ねてきた。
「よう!…やっと棒切れ使うのやめたんだな」
「俺にとってはあの木剣も立派な武器だけどな…」
「だろうな…お前は強い、だからこそ気になった。なぜ闘い方を変えたのか」
「…俺は正直、勝ち負けに興味がない。優勝賞品が欲しいだけだ。だから命を掛けてまで勝ちに拘る気もない。ただ、真剣な想いには真剣に向き合おう、そう思っただけだ」
「なるほどな…俺は強い奴と闘い、そして勝ちたい。そしてまたさらに強くなる。その先に何があるかなんて知らないが、強さなんてあって困るものじゃない。だからお前とも全力で闘いたい」
「俺は俺の思うようにやる。俺はお前みたいに闘うのは好きじゃないからな」
「はっはーー!!良いねぇ…まさに強者のみに許される言葉だ。楽しみにしとくぜ!じゃ、またあとでな…」
(はぁー、苦手だな……あいつ)
少しすると会場の方から割れんばかりの歓声が響き、決勝に進むものが決まったようだ。
十中八九、あのカタナを持った中年の男だろう…そう思いながらアクセルも会場へと向かう。
規定の時間となり、舞台に現れたアクセルとシン。
観客達の間でもはち切れんばかりの歓声と罵倒が飛び交っている。
そんな中、舞台上で向き合うアクセルとシン。
互いに言葉はなく、開始の合図を待った。
そして開始の合図と共にアクセルが拳を構え、正面から迫る。
それを見たシンも槍をくるっと手元で回転させた後、向かってくるアクセル目掛け鋭い突きを繰り出す。
アクセルは向かってくる槍の軌道を左手で変え、体勢の崩れたシンの顎に掌打を放つ。
「そう来ると思ったぜ!!」
シンはその展開を読んでいたのか、笑みを浮かべる。
そして空を切ったかに思えた槍は、鎖によって繋がれた関節により三つに分かれ三節棍となり、軌道を再び変えアクセルを襲う。
しかしアクセルはそれすら読んでいたのか、シンの顎に放った掌打は寸前で軌道と勢いを変え、三節棍を的確に捉え、いなした。
同時にシンのこめかみにアクセルの蹴撃が直撃する。
大きく体勢を崩したシンだったが、意識が遠くなるような激痛と揺れる視界を無理矢理堪え、即座に体勢を立て直す。
が、既に目の前には、白銀に輝く剣先が突きつけられていた。
「………まいった。降参だ」
▽▽▽
「さぁーて、帰るか…」
そう呟くアクセルの手には真新しくも鞘すら美しいカタナが握られていた。
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