66話 武闘大会開幕
アクセルは一人、人がごった返す中、腕を組み、うんうんと唸っていた。
昨日聞いたステラの過去を、武闘大会の予選が行われるポロからほど近い平原で思い出していたのだ。
ステラは幼少期に獣人の特徴が少ない、その見た目から気味悪がられすぐに捨てられた。
そして似た境遇を持つ者達と肩を寄せ合い暮らしていたところに奴隷狩りに合い、その後この街に売られたとのことだ。
幼い頃は暴力も比較的少なかったが、成長と共に過激になっていき、現在に至っている。
獣人の身体の成長速度は人間に比べ、かなり早い。
これは動物達と同じで、厳しい自然を生き抜く為に必要なことなのだろう。
ステラの見た目は15、6歳程だが、恐らく実年齢は10歳前後といったところだ。
(奴隷狩りなんてのにあったんなら、対策なんて出来ないよなぁ…ホントに人間はくだらないな……)
今現在、ミラとロア達、ステラはポロの街にはいない。
宿に残すよりも拠点に連れて行き、自然や動物達と触れ合いながら心も身体も癒し、勉強もしてもらおうと思いついたのだ。
そして武闘大会の間は、朝拠点に送り、武闘大会の一日の日程が終われば迎えに行くという算段だ。
▽▽▽
昼前になってやっとアクセルの組の予選が始まった。
今回は賞品目当てなのか、例年より遥かに参加人数が多い。
予選は第三予選まであり、参加人数を50人まで絞るらしい。
予選だけで一日かかる予定だ。
第一予選では会場に置かれた、城壁の材料となる岩を順番に一度だけ攻撃し、欠損させれば通過となる。
第二予選では新たな組分けがされ、空を高速で動き回る魔道具を捕まえた一名が通過し、第三予選ではさらに組み分けされた者達が一人になるまで戦うバトルロイヤルだ。
第二予選を通過したあたりからアクセルが★6冒険者であることを知っている者がいたのか、注目を集め始めた。
そして第三予選のバトルロイヤルでは集中的に狙われるも、それをものともしない圧倒的な実力差を見せつけ予選を通過した。
その後も予選はつつがなく行われ、予選を免除された者達と合わせ64名が出揃った。
本戦はトーナメントとなり、明日は8人にまで絞られる。決勝が行われるのはまた次の日だ。
予選を通過した証である木札を受け取り、そそくさとその場を後にしたアクセルは拠点へと飛んだ。
「悪い!遅くなった」
「おかえり。結果は聞くまでもないな」
「おかえり…なさい」
「ただいま!……へへへ、ただいまって、良いな」
そんなやりとりのあと全員を連れ宿に戻る。
ステラも長い間、動かなかった影響か、まだ思うように身体は動かせないようだが、笑顔で動物達と遊んでいた。
そんな報告と共に文字習得に関しては順調すぎるほどだとミラからの報告を受け、遊び疲れたのかロア達と寄り添うように眠るステラを見ながら、ほっと胸を撫で下ろす。
「それで?そっちは優勝出来そうか?」
「予選を免除されてるやつらもいるから何とも言えないけど、何人かは強そうなのいたな」
「ほう?それは見れないのが惜しいな」
翌日、早朝にも関わらずポロの街には人が溢れんばかりに集まり、賑わいをみせている。
拠点にミラ達を送り届けた後、大会までは少し時間もある為、街を見て回ろうかと思い立ったアクセルだったが、あまりの人の多さにげんなりし、平原に戻り大会の会場付近で時間を潰すことにした。
本を読みながら時間を潰していると、一組の男女がアクセルに近寄り、声をかけてきた。
「よう!あんた強いな。昨日の予選見てたよ」
この男は昨日アクセルがいった強そうな奴のうちの一人だ。
装飾された槍を持ち、予選でもアクセルに並ぶ実力を見せていた。
「アンタもな…そっちの人は予選で見なかったけど…」
そう言いながら女の方に視線を向ける。
「コイツは俺の付き添いで大会には出ない。まだ名乗ってなかったな。俺はシン、コイツはアヤメだ」
「アクセルだ」
「アンタと闘えるのを楽しみにしとくぜ」
そう言ってシンとアヤメと名乗った者達は去っていった。
(うーーん、優勝、厳しいかも……)
アヤメは兎も角、シンはかなり強い。アクセルとはいい勝負になりそうだ。が、それはあくまで大会内での話だ。
殺し合いならばシンに負ける要素は万に一つもない。
だが、アクセルはルールのある闘いの経験が全くと言っていいほどない。
その為、アクセルとの実力差が明確にある者達ならば、意識を簡単に狩ることかでき勝敗をつけられていたが、シン程の実力者となるとそれも厳しいのだ。
(カタナだけ貰えねぇかな……)
そんな事を考えていると大会までの時間が迫り、参加者達も続々と集まり始めた。
そして規定の時間になり対戦の組み合わせが発表され、観客達を呼び集めた後、ついに本戦が開始となった。
シンとは順当にいけば明日の二回戦、つまり準決勝であたることになる。
大会は開始早々大いに盛り上がりを見せ、ついにアクセルの1回戦が始まろうとしていた。
舞台に上がったアクセルは予選の時と変わらず、木剣を2本持っている。
対する相手は全身鎧を着込み、盾と剣を持っている。
そして開始の合図と共にアクセルは相手を組み伏せ、相手の背中に馬乗りの姿勢となり、剣を持っている腕を足で踏みつけ抑え込む。
そして顔の真横に一本の木剣を突き立て、もう片方は首筋へあてがう。
アクセルは一回戦を圧倒的な実力差を見せつけ、余裕をもって突破した
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