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04話 変化

 月日は流れ、現在、アクセルは十歳になっていた。



 身体も心も以前に比べ逞しくなり、剣術、魔力の操作共に、師であるグレイ、ネーラに迫るほどに成長していた。しかし魔法だけは違い、当初から発動すら出来ず一向に上達もしていない。

 そして最近では、以前使えていた魔道具すら使えなくなるという事態に陥っていた。


「うーん、やっぱりダメだ…」


「…たしかに妙ね…魔法は得手不得手があるから、まだ分かるけど、魔道具、それも以前、使えていたものが使えなくなるなんてこと…」


「壊れるってことはねぇよな…さすがに」



 さらには以前発見した自分の中にあるもう一つの力、時空間魔法すら、失敗する事が増えている。

 原因を探すが全く状況は好転せず、困り果てる三人…



 身体に有する魔力が大きすぎると扱いきれず、魔法が使えないといった事例はあるが、すでにアクセルは魔力操作に関して師であるネーラに匹敵するほど卓越した才能をみせている。

 そして魔力を込めると、発動に必要な魔力を使用者から吸い上げる、魔道具すら使えなくなるといったことは流石に前例がない事態であった。



 様々な事柄からネーラは一つの仮説にたどり着いた。それはアクセルの魔力が、その他の魔力を打ち消しているのではないか。


 魔道具とは、媒体となる道具に予め魔法陣を刻み発動させる、いわば一定出力の魔法の様なもの。その魔法陣にすら干渉しているではないかと考えたのだ。


 早速アクセルを連れ、検証を始めた三人。


「少し濡れるだけだから」


 プルプル震えるアクセルをよそに、ネーラはそういうと小さな水の塊を指先に作り出し、そのまま差し出されたアクセルの腕目掛けて、軽く指を振る。

 小さな水弾はフヨフヨと漂うようにアクセルに向かっていき、そしてアクセルに触れる直前、弾け飛ぶように霧散し、跡形もなく消し飛んだ。


 やっぱり…と呟くネーラをよそに次はグレイが桶に汲んだ水をアクセルの頭からぶっ掛けた。


「普通の水は消えねぇな」


 ずぶ濡れになりながら、水の入った桶を片手にグレイを追いかけるアクセルと、からかいながら逃げるグレイ。そんな二人を微笑ましく眺めながらも、ネーラの心は重く沈んでいく。


 夜、寝ているアクセルを横目に二人は向かい合う。


「そんなに不味いことか?魔法が効かないってことだろ?俺には便利そうに思えるが…」


「一見するとそうね、だけど、他の魔力を打ち消すほどの魔力が身体の中にあるのよ?そして月日が経ってからそれが発現した…」


「……つまり、いずれは自分自身の身体を飲み込むかもしれない…と…」


 黙って頷くネーラと状況を理解したグレイ。しかし解決策など見つかるはずもなく、見守ることしか出来ない自分達に不安が募っていく。





  ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


 もうそろそろ寒期が終わりを迎える時期の、そんなある日


「いいか?アクセル、何度も言うが夜までには戻ってくるんだぞ」


 グレイが心配そうにそういうが、当のアクセルは目を輝かせ今にも飛び出して行きそうだ。


 以前アクセルが心を病んだ時に聞かせた冒険譚にアクセルはどっぷりハマり、自分も行ってみたいと言いだしたのだ。

 今まで集落の周辺までしか行ったことがないため、そこまでがアクセルにとっての世界であった。

 そして外の世界に興味を持つのは必然であった。

 グレイは自分が話した手前、そしてすでに剣の腕前も自分とほぼ同等であり、生き抜く術を学んだアクセルを強く止めることが出来ずにいた。


 そして夜には帰るという条件つきで渋々、頷いてしまったのだ。


「この辺には魔物も少ないし、魔獣も見てない。ましてや魔族なんてのもいないとは思うが、くれぐれも気を付けるんだぞ」


「うん、分かってる。お土産持って帰ってくるよ」


 本当に分かっているだろうか、と心配をするグレイであるが、嬉嬉としたアクセルを見ていると、うるさく言うのもバカらしくなってきた。


 この世界では人や動物の他にも、獣人または亜人、魔物、魔族、魔獣と呼ばれるものが存在する。

 なかでも特に注意すべきは魔獣だ。魔獣には感情や意思といったものはなく、ただ生物を殺すことが本能。まさに全生物の共通の敵である。



 早朝から準備を整えていたアクセル。腰にはグレイが予備として持っていたショートソードを貰い、腰に携え、反対側には様々な道具が入った袋をさげている。


 そしてネーラ、グレイに見送られ、意気揚々と出発したのだった。


(…とりあえず、あっちに行ってみよう)


 元々住んでいた村とは反対方向に風の様な速さで駆け抜けていく。

 以前、森を走っていた時とは、見える景色も気分も何もかもが違って新鮮だ。



 そして日が昇りきる頃まで様々な物を手に取り、眺め、学んだアクセルは昼食の木のみを口にしている。


(…そろそろ帰ろうかな…夜になるのも早いし…)


 そう思い、腰に付いた土を払ったあと視線を横へやると、時空間魔法を使うときに見える、渦が視界に入った。

 最近は失敗する事が多くなってはいるものの、以前はモヤの様に見えていたものは現在、渦のような形に変わっている。


 しかし、今見えていること自体おかしい…アクセルは時空間魔法を使ってはいないし、なにより色が違っている。

 いつも目にしているものは闇といった表現がしっくりくる黒。しかし視線の先にあるそれは中心が夕焼けの様な朱が混じっているだ。


 少し考えたあと


(…行動しないと分からないこともあるって師匠も言ってたし…)


 不安と未知への期待を胸に、ふう、と息を吐いた後、渦に飛び込んでいった。



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