62話 浮かぶ島のヌシ
空に浮かぶ島。
その外周に沿って歩く二人。
「ホントに不思議な所だな…人のいる気配はないのに手を加えたようなフワフワの土だし、木も太くて見たことないやつばっかりだ」
島の大半は木で覆い尽くされ、森といっても良いほどだ。
その森からは生き物達の気配は感じるが、息を潜めているのか声は聞こえない。
しばらく外周に沿って進んでいると、そこにだけ木が生えておらず、しかも地面は適度に均され、人が5人ほど並んで歩ける程整った並木道が森の奥へと続いている。
「うーん…これ進んでも良いのか?」
並木道の入口に二人並んで立ち、アクセルは首を傾げている。
「私は君の判断に従う」
「……じゃあちょっと進んでみるか。何かされたらすぐ引き返そう」
「了解した」
並木道をゆっくりと進んでいると、木の枝の上にリスの様な姿にコウモリのような羽が生えた小動物が姿を見せ、二人を見ているのが分かった。
「お?アイツ可愛いな…ここは見たことないヤツばっかりで楽しいなぁ」
「隔離された世界だ。独自の進化をしているのかもな」
それからはリスのような小動物を皮切りに様々な生き物達が姿を見せるようになった。
ミラの言う通り、この空に浮かぶ島に適応する為なのか、身体を風船のように膨らましフワフワと宙に舞うウサギのような動物や、鳥の背に乗って移動している小柄な猪など、様々な生き物達を確認できた。
そして、出会う動物達は全て独特な特徴を持っている。
そんな珍しい動物達を眺めながら並木道を進んでいくと、かなり広く円形に拓けた場所に出た。
地面も芝生のような背の短い草が生えている。
そしてなにより目を引いたのが、アクセル達が来た並木道のほぼ反対側、そこにはキラキラと輝く泉があり、その周囲には白や薄い桃色の花を満開にした木が立ち並んでいたのだ。
「すげー!!!」
「たしかにこれは見事だ。美しい」
余程興奮したのかアクセルはピョンピョン跳ねながら泉の方へと向かっていく。
そして泉の元に辿り着くと穏やかな風が木を揺らし、花びらが舞う。
その幻想的な景色を前に言葉を失う二人。
すると突然アクセルがドサッと大の字で地面に寝そべった。
「はは…すげー!!!ホントにすげー!!!」
ミラもその隣に腰を降ろし、舞う花弁を眺めている。
しばし穏やかな時間を過ごしていると小動物達もアクセル達の周りに集まり始め、足に乗ったり、肩に登ってきたりとじゃれ付き、心を許してもらえたようだ。
そんな動物達と触れ合っていると、ふとアクセルが泉の奥へと視線を向ける。
「来てるな…」
「うん?」
「多分ここのヌシかな?すぐそこまで来てる」
アクセルがそう言った直後、現代で言う車程の大きさの動物が姿を現した。
「白い…獅子…いや、あの模様は虎か?」
この場所では一際目を引く白い毛並みと立派なたてがみは一層存在感を際立たせ、さらに虎模様のように黒い毛が混じっている巨大な獅子が悠然とアクセルの前に歩いてやってきて、目の前で止まった。
そして匂いを嗅いでいるのか、ゆっくりと顔をアクセルに近付ける。
「荒らす気はない。ちょっと周りを見てただけだ」
アクセルがそう言うと白い獅子はアクセルの顔をじっと眺めた後、泉の方に戻るとその巨体を地につけ、横になった。
「ふぅ…許しは出たようだな」
「毎回のことだがヒヤヒヤしてしまうな…」
その後は泉の周りに動物達もさらに増え、ロア達も交えて追いかけっこをしたり、木の実を与えたりと触れ合いを続けていた。
「はぁーー!!!ここは良いところだ!」
「同感だ」
「なぁ、ここ場所ちょっとだけ貸して貰えたりしないかな?」
「拠点にするつもりか?」
「あぁ、ちょっと荷物を置いたり、休憩したりさ…空に浮かんでようが時空間でひとっ飛びだしな」
「それはいい案だと思うが、あの獅子が許してくれるだろうか…」
「聞いてくる!!」
そう言うやいなや、アクセルは白い獅子の元に走り出し、身振り手振りで説明をし始めた。
白い獅子を立ち上がりそれを聞いている。
そしてアクセルが話終えると白い獅子がアクセルの頬をペロッとひと舐めしたあと、なんと空を駆け、森の奥へと姿を消した。
その後アクセルがミラの元に戻ってきて口を開く。
「すげー!!!見たか?アイツ空を走っていったぞ!」
「あ、あぁ、だが、肝心の拠点とする話はどうなったのだ?」
「んー、まぁ、多分大丈夫だろ。派手にこの場所に手を加える訳でもないしな」
そういうとアクセルはこの拓けた場所と、並木道との中間にゾロゾロと動物を引き連れ向かい、周囲を見渡した後、口を開いた。
「ここを借りよう…ここが俺達の帰る場所…俺達の拠点だ!」
こうして仮ではあるが拠点を手に入れた二人。
拠点とはいうが、実際には何も手を加える気は今のところなく、休憩したり動物達と触れ合うこが目的の場所だ。
それでも心が休まる場所が出来たことに喜ぶ二人だった。
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