61話 空の散歩
武闘大会への参加受付を終わらせ、その場を後にしようとしたアクセルだったが、腕を組み不機嫌そうな顔をしたミラを見つけてしまった。
「まずは説明してもらおうか…」
近付くと不機嫌そうな態度は隠さずそう口にするミラ。
「悪い…でも、我慢出来なくて」
「もう良いさ。今に始まったことでもない。だがもう少し落ち着いた行動をとれるようにはして欲しいな」
「うん、気を付ける」
許しを貰えたようだと安心し、武闘大会に参加をすることにした理由を話し始めた。
「あのカタナはさ、武器であって、武器じゃないんだ…だから欲しかった」
「武器じゃない?」
「あぁ、武器ってのはさ、本来敵を殺すための物だろ?それにあのカタナってやつは殺すことに特化してるような造りにも思える。だけど、さっき見たカタナはカッコ良くて、綺麗だった。目で楽しめる物になってたと思うんだ」
「つまり美術品の類だということか?」
「俺がそう思ってるだけかもしれない。けど俺はあのカタナに血を吸わせたくない。大会に出る全員がそれを理解しているとも思えない…だから優勝して奪う事にした」
「なるほど、理解した。たしかに口で説明するのは難しいことだ。身体が先に動くのも分かる気はする…」
大会は五日後。
それまでは観光や冒険者としての依頼を受けることに決め、大会当日を待つことにした。
そして現在は昼過ぎ、依頼を受けるには時間が足りないということになり、この日は観光をすることになったのだが、アクセルがふと思い付いたことを口にした。
「なぁミラ、空から見る景色ってどんな感じだ?」
アクセルも空中で飛び跳ねる事は可能だが、飛行するのとは違う。
ミラに頼み込み、海も見える事だと、空の散歩をしてみることにした。
「ここまで来れば人目もつかないな」
「あぁ、では早速行くか…」
ミラはそう言うと翼だけを出し、少しだけ宙に浮く。
「完全に魔族の姿に戻らなくても良いのか!便利だな」
「まぁ翼がある時点で魔族だと言っているようなものだが…行くぞ?掴まれ」
アクセルは宙に浮くミラの腕を掴み、空へと舞い上がる。
「ここまで高く飛べば人も気付かないだろう。落ちても下は海だ!死にはしない」
かなりの高度まで上昇し、雲に並ぶほどだ。
「スゲー!!!海がずっと続いてるぞ!!」
アクセルはキョロキョロと周りを見渡しながら凄い、凄いと大はしゃぎしている。
「それにしても人一人の抱えて飛べるその翼は、凄い力持ちなんだな」
そう言ってミラに視線を向ける為上を向いたアクセル。
「バカを言うな。これは魔法で浮かんでいるのだ。翼は補助でしかない…」
ミラがそう告げた瞬間、アクセルを抱えるミラ共々落下していく。
「え?あ、おい!!!落ちてる!!それに上!!」
「バカもの!早くこの魔法は大丈夫だと信じろ!それに…上?」
急に色んな事が起こり、混乱する二人。
「こんな状況で無茶言うな!それに上、上」
ミラは懸命に翼を羽ばたかせ、落下速度を緩やかしにながら上を向くと、なんと巨大過ぎて全体が見えない程の岩が浮いていたのだ。
幸いその岩は落ちては来ていないようなのだが、こんな巨大な物に今の今まで気づかないことが有り得ない。
だが、すぐに思考を切り替え、まずは渾身の力でアクセルをあの岩目掛けて放り投げた。
「少し跳ねるくらいは出来るだろう!そのまま岩を目指せ!!」
アクセルから離れた事で再び宙に浮くことが可能になったミラはそのまま上昇していく。
放り投げられたアクセルは2、3回空中で跳ね、再び落下。
それを再びミラが掴み、また放り投げる。
何度か繰り返しアクセルは岩の底部分にしがみつくことに成功した。
「はぁーーー、死ぬかと思った…」
「まったく…すこし上を見てくる。しばらくそうしていろ!」
そう言うとミラは岩の全貌を確かめる為、さらに上昇していく。
「これは…島か?島が浮いているのか?」
そこには美しい木々が生い茂り、まさに島が浮いていたのだ。
すぐにアクセルの元に戻ると、自力で半分ほど登ったアクセルを見つけ、そのままさっきと同じように足場の安定した場所まで連れていく。
「ホントに島だな…」
「あぁ、それに僅かだが動いている」
「しかもここ凄まじいくらい魔力が集まってるぞ。魔力溜まりがあっても不思議じゃない…それなのに気付けないことってあるのか?」
「もしかしてだが、何時ぞやの認識を阻害する鉱石をこの島は含んでいるのではないか?」
「それがあったな…確かに結界とか魔法とか使ってる感じはしないしな」
遥か上空、しかも移動までして、認識を阻害する鉱石を含んでいるのなら、近付くまで気付けず、未だに存在が発見されていないのも納得だ。
アートランに来る前に僅かだが見た、空に浮かぶ島とは別の物だと一目で分かった為、周囲の探索をしてみることにした。
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