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03話 成長ととっておき

  〜数年後〜



 アクセルは身体も少し大きくなり、穏やかな日々をおくっていた。

 歳も近いセリアとは特に仲もよく、二人でいる時間も多くなっていた。



 この日も手伝いを終え、川辺で遊んでいた二人。一頻り遊び終わり、休憩していたその時セリアが気になることを口にした。



「う〜ん、やっぱり濃くなってるね。そのアザ」



 アクセルの顔にはアザがある。それは右目を覆う様に顔に広がっていて、近くでよく見ると細かく、小さな魔法陣のような模様でそのアザは構成されている。そのアザが濃くなっているというのだ。



「触っていい?」



 そういい手を伸ばす。



「だめだ!」



 アクセルは過剰に反応し、手を払う。



 咄嗟のことだったとはいえ、アクセルはやり過ぎたことに謝罪し、しばしの沈黙のあとポツポツと語り出した。



「……これ、触られるの、嫌いなんだ……」


「どうして?」


「……これは俺の中にある嫌な力そのものな気がして……これに触った人も同じ様になるんじゃないか、とか……色々……とにかく嫌いなんだ」


「……そっか、私の方こそ、ごめんね」



 再びの沈黙のあと、セリアに今日は帰ろうと促され、家に戻ったアクセル。

 この日を境に、アクセルの心は再び恐怖で埋めつくされる。



 今まで心に思っていたことを口に出してしまった、それが現実になってしまうんじゃないか……

 明日にはこの力に飲まれて死んでしまうのではないか……

 目が覚めると気が付かない間に、この力が爆発してまわりの人たちがいなくなってしまうのではないか……



 こんなことを考えるうち、アクセルの心はどんどん沈んでいった。

 そして夜中に絶叫し、目を覚まし、怯えることが増えていく。



 その都度、ネーラとグレイに寝かし付けてもらっていたが、状況はさらに悪化していった。



 眠ること自体が怖くなったのだ。



 心配をかけまいと、寝たふりをし、そのまま起き続ける……

 そんなことを続け、最終的にはネーラの魔法で無理やり眠らされる。こんなことがしばらく続いていた。


 こんな状況に二人は困り果てる。



「まずいな……」



「ええ、身体は鍛えて立派になっても心はまだ子供、どうしようもないわ。だから私たちでしっかり支えてあげましょ」


「あぁ……」



 作ったような笑顔で心配ないと言い、訓練を続けていたアクセルにグレイとネーラはそれぞれ、その時間を使い別のことを始めた。



 グレイは冒険者をしていたときの摩訶不思議な冒険譚、そして自然の偉大さを面白おかしく話し聞かせた。



 光る石や、歌う洞窟、人の上半身を持ち魚の下半身を持つ人魚、火を纏った大きな鳥、アクセルは目を輝かせ、話を聞き入った。



 ネーラは魔道具を作る課程をみせたり、一緒に作ったりした。

 火をおこす道具や、魔力で文字が書けるペン、様々な物を実演していった。



 こうして嫌な考えるよりも、楽しいことを考えさせ、希望で心を満たそうとしていたのだ。



 そのおかけで少しづつではあるが状況は改善されていく。



 塞ぎ込んでいた間、集落の人とも少し距離をとっていたアクセルだったが、これを機に以前の様な関係に戻れていった。



 そして久しぶりにセリアと二人の時間だ。



 自然と二人で川辺まで来て腰を下ろすが、セリアはチラチラとアクセルの顔を覗いては落ち着きがない。

 そしてアクセルからきりだした。



「どうした?」


「えっと、あの……ごめんなさい!!」



 突然の謝罪に困惑するアクセルを置き去りにしセリアは続ける。



「やっぱり私が変なこと言ったから……気にしてたよね。もう言わないし、しないから……」



 そういいなが、泣きそうな顔でアクセルを見つめる。



「そうか、セリアにも余計な気をつかわしちゃったのか……俺の方こそ悪かった。でももう大丈夫だから」



 そういった途端セリアはわんわん泣きだした。



「も、もう、バカー、し、心配したー」



 ごめん、と再度謝り、セリアが落ち着くのを待つ。



「落ち着いた?」


「……うん」


「本当のこというと、すごく辛かった。怖かった。みんながいなくなるんじゃないかって思ったんだ」



 そしてポツポツと今までのことを話していく。



「だから俺はもういなくなった方が……死んだ方が良いんじゃないかって思ったんだ」


「ダメ!!死んじゃったら、それで終わりなんだよ?だからもうそんなこと言っちゃダメ!!」


「…………」


「でも、もう大丈夫なんだよね?」


 セリアのその問いに、多分…と答えた瞬間、右頬に手が触れる。



「なっ!?」


「ほら、触ってもなんともないよ」



 とびっきりの笑顔でセリアは答え、さらに続ける。



「アクセルも泣きたい時はちゃんと泣くんだよ?そのあとまた頑張るの。それでもダメな時はこうするんだよ」



 そう言いながら、セリアはアクセルの頬を親指で涙を払う様に優しく撫でる……



「とっておきの、おまじないなのだ」



 ニッシシ、と可愛く笑うセリア。

 呆れた様な顔をした後、アクセルは顔を伏せる。そして……


「……ありがとう」



 そう呟いた。

 こうしてまた穏やかな日々に戻っていく。

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