55話 過去との決着
アクセルとアクセルの中に宿る力を利用しようとする者達、暁との因縁はミラの活躍によって断ち切られた。
幼き日からの悲願を成し遂げたこと、暁殲滅の為とはいえアクセルに黙って行動を起こしたこと、世の人々から忌み嫌われる魔族、その姿を得てしまったこと、さらにそれを好きだと言って貰えたこと、言動や行動は大人びているがミラとて年頃の乙女なのだ。
不安や恐怖、安堵や歓喜など様々な感情が蓄積されていくなか、アクセルに優しく包まれたことで遂に溢れ出してしまった。
思えば故郷を追われた際でも声を上げ、泣きじゃくるようなことはしなかった。
「……落ち着いたか?」
「あぁ、グス……もう平気だ…ありがとう」
ミラはアクセルから離れると涙を拭い口を開く。
「私は君と離れた2年間、暁の動向を探る為イリナの協力を得て情報を集めていた。そして―――」
語られるミラによって集められた情報。
それはアクセルの中に宿っているのは超破壊魔法クロノスという名の力。
クロノスは感情と深い結び付きがあるということ。
そして暁はアクセルが最も感情が不安定になる成人年齢前後、つまり15歳前後まで適度に刺激を与え感情を揺さぶり、その後にクロノスを発動させるという計画を立てていた。
当然アクセルの成長と共にクロノスも成長し、その破壊の規模も大きくなるからだ。
しかしマールーンの力によりアクセルの監視をしていたが、アクセルが時空間魔法を再び使えるようになったことにより居場所の特定が困難になり、迂闊に手を出せないでいた。
その間も独自の方法で世界を混乱に陥れようと企んでいた暁は、様々な研究を行い人を狂人化される薬や聖地の結界を作り上げていく。
そこへ現れる紅の悪魔ことミラにより、各都市に潜んでいた暁が次々と研究成果と共に潰され計画が破綻しかける。
焦る暁だが、偶然にも最近アクセルの居場所を特定することができ、更には本拠地であるミトリースに向かって来ていると情報を得た暁は、ミラを利用し最後の目的であるクロノス発動の計画を実行に移した。
それすらもミラにより、そうなるように追い込まれていたとも知らずに。
「もちろん君の動向にも気を配っていた。だが君と離れた2年は暁を滅ぼす為に動いていたといっていい時間だった」
そう言って語り終えたミラの表情はいつも通りキリッとした表情に戻っている。
「そうか…俺が好き勝手冒険者やってた時に、そこまでしてくれてたのか……でもさ、お前どうやってそんなに移動してたんだ?」
「簡単な事さ」
ミラはそういうと言うと魔族の姿になり背中に翼を生やす。
「この姿で闇夜に紛れて空を飛べば移動にそう時間はかからない。これもイリナに鍛えてもらったお陰だが」
「おぉー!なるほどな。……っ!!だからお前の服、背中がガバッと開いてるのか」
「そう正面きって言わないでくれ…気に入ってはいるのだが羞恥心はあるのだ」
などと談笑しているとロイが会話に混ざってくる。
「マスター!覚えのある匂いがする」
「ん?匂い?」
「うん。俺らがマスターと出会った後に行った湖で嗅いだ匂いだ」
魔物雪崩後に行ったアートランの南方にある湖のことだ。
するとミラは顎に手を当て少し考えた後、小さな小瓶を取り出した。
「ロイ、これを嗅いでみてくれ」
そういって小瓶の蓋を開け、手で扇ぐ。
「うん、これだ。間違いないよ」
「まさか他の場所に流れていたとは…」
「どういうことだ?」
「これはさっき言った暁の作った人を狂わせる薬だ。すでに製法から現物まで全て処分し、本拠地であるここ以外にはないと思っていたのだが…」
「つまりその薬は人だけじゃなくて魔物まで狂わせるってことか?アートランの魔物雪崩も暁が関わっていたってことか?」
「そう考えるのが妥当だな…しかしそうなると人工的な魔物雪崩の2波、3波の可能性もある。用心しなくてはな」
思わぬ所でアートランで起きた魔物雪崩に暁の関与が発覚した。
しかし暁は壊滅したといっても過言ではない状況だ。
暁殲滅は思うがままに世界を巡るためにやったことだ。
その脅威を取り除いた今、暁ばかりに目を向ける必要もない。
そう納得し合いミトリースの宿に戻ってこれからの目的地を話し合う。
「私がミトリースに来たかったのは暁殲滅の為だ。その後のことは考えていなかった」
「ということは、また気ままに旅するか!前に言ってた別の大陸ってやつも良いかもな」
「ふむ、たしかに。ここミトリースより南に下れば南大陸と中央大陸を結ぶ橋がある。しかし南大陸は未だ争いが絶えない場所だそうだ」
「うーん、わざわざそんな所巡りたくはないよなぁ。他の大陸のことは知ってるか?」
「あぁ、まず西大陸は冒険者にとって夢のような場所だと聞いているが、ハッキリとしたことはないも分からない。東大陸は数々の島を有する大陸で、独自の文化が栄えた大陸だそうだ。そして最も離れている大陸でもある。北大陸は雄大な自然が広がり人には厳しい大陸だ。大まかにはこんなところか」
「……お前なんでも知ってるな…俺ももっと勉強しないとな……」
「私は歴史に興味を持った過程で知ったに過ぎない。君が無理に学ぶ必要もないさ」
「ハハ、じゃあそういうのはミラに頼りきるとするよ。となると目的地は西大陸か東大陸になるけど…」
「君が決めてかまわない」
「じゃあ東だな!」
「ほぅ!なにか理由でも?」
「ない!なんとなくだ」
「あながち君のなんとなくは意味を持つから恐ろしくもあるが…決まりだな」
こうして次なる目的地は独自の文化が栄えた東大陸に決まった。
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