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54話 光と影

不気味な笑い声が周囲に響き渡り、その場にいる者全てを恐怖が支配する。


先程までマールーンに足蹴にされ、力なく地に伏していたミラが宙に浮き、両手を広げ高らかに笑っているのだ。


マールーンが足を退けた瞬間、バチっと音がすると、マールーンの周りにいた男が倒れ、同時にミラの拘束も解かれた。


直後、ミラの背中に翼が生まれ、スゥーと宙に浮いたかと思うと両手を広げ笑いだしたのだ。


「なっ!?あの翼は…まさか、魔族」


マールーンも予想だにしなかった事態に困惑の表情を隠せない。


「はっはっはっは!!はぁ……やっとだ…やっと悲願が叶う…」


恍惚の表情を浮かべ、ミラは眼下にいる者達を見据えてそう口にした。


「下手な芝居でもやってみるものだな……さっきからベラベラとよく喋ってくれた礼だ。私も少し語るとしよう…」


未だ状況が飲み込めないマールーンに視線をやり、そう告げる


「先程貴様は言っていたな。私が貴様の元を訪ねるように仕向けたと…逆だ。私がこうなる様に仕向けたのだ」


そういうとミラの翼が自身の身体を包み、そしてバサっと音を立て、開いた。


そこには紅の角を生やし、四肢を装甲のような黒い皮膚に覆われたミラがいた。


それを見た多くの者が魔族だ、悪魔だと浮き足立ち、その場から逃げ出す者もいた。


「落ち着きなさい。いかに魔族と言えど、この聖地では無力そのもの。案ずることはありません」


マールーンの一声で落ち着きを取り戻す人々だったが、一部で別の声も上がる。


「まさか紅の悪魔…」


「我らの同胞を蹂躙していたという、あの…」


暁はここ数年目立った活動をしていない。

いや、出来なかったというべきか。


暁は人々をこの腐った世界から救済する為、様々な計画を立てていた。


そしていざ計画を実行しようとした時、突然、闇夜に紛れ暁の者達を蹂躙する者が現れた。


なんとか逃げ延びた者は口々に紅い角を持つ悪魔を見たと言い、それ以降、紅の悪魔と恐れていたのだ。


そして今まさにその紅の悪魔が目の前にいる。


「なるほど…貴方が暁に歯向かう紅の悪魔でしたか…何が目的なのです?世界征服でも企んでいるのですか?」


聖地の結界の内に逃れたマールーンがミラに問う。


「ふふふ、馬鹿を言うな。私は害虫を駆除しているに過ぎない。彼という光に群がる害虫をな」


そう告げると手を頭上にかざすミラ。


その手を紅い閃光がバチバチと纏っていく。


その光景に目にし頭を抱え蹲る者、逃げ惑う者、様々いる中でマールーンだけは余裕を見せていた。


よほど結界に自信があるのだろう。


「戯言を…先程も言ったようにこの結界がある限り貴方は無力!結界の内から貴方を嬲り殺しにしてあげましょう」


「やれやれ…ではハッキリと言ってやろう。そんな結界如きで彼の力は防げない。私の力ですら…」


すでにミラの纏う紅い雷は激しい音と共に、手だけではなく身体中に取り巻いている。


「私もマスターから多大な影響を受けているな…自然は大切だ」


目を閉じ微笑みながらそう呟いた後、マールーンを見据える。


そして


「消えろ害虫共!!!」


手を振り下ろすと同時に辺り一面を紅い光が覆う。


そして大陸全土が脈動したかと思うほどの衝撃が襲い、轟音と共に暁の聖地に光が降り注いだ。


光が治まった後、その場にはミラ以外の人影はなく、建物すら残されていない。しかし地面や森には一切影響が出ていかった。


暁に関わるものだけを塵に化し、その場を風が吹き抜けていく。


「終わった…これで彼もきっと…」


「ミラ!!!」


そこに当のアクセルが姿を見せる。


「マスター、随分と来るのが早かったな」


「お前、その姿…それにここは…何があった」


「出来ればこの姿は見られたくなかったのだかな…」


そういうとミラはまた元の姿に戻り、これまでのことをアクセルに語っていく。


▽▽▽



「…暁か…時々感じてた変な視線はそのマールーンってやつの力だったのか…」


「あぁ、時空間魔法の類いで間違いないだろう。そして君の行動を監視していた」


「なるほど…まぁそれはもう良いとして…ネロ達とは口裏合わせて、俺にはなんで黙ってたんだ?」


「…やはり気付いていたか…だが敵を騙すにはまず味方からともいうし、何より君はこういう駆け引きは苦手だろう」


「まぁ、そりゃそうだけど…」


「君の故郷に帰った時、私は誓ったのだ。暁を…君を脅かす脅威を私が滅ぼすと…それにこれは幼き日、君と旅を始めた頃からの私の悲願だったのだ」


「………」


「君にとって最早、暁など取るに足らない脅威でしかないだろう…しかし君は優しすぎる…あの害悪でさえ君は…」


「わかった!もう良いよ。…ずっとお前が暁を俺に近寄らないようにしてくれてたんだな…ありがとう」


たしかにアクセルは途轍もなく強くなった。


正面から襲ってくる者に情け容赦ないのは変わらない。


しかし暁のように策を用いて搦め手を使ってくる人間相手には、その強さ故かどこか甘さをだしてしまうアクセル。


冒険者となり、世界を知ったアクセルは自身の力の凄まじさを理解し、戦うことも、命を奪うことも嫌っている。


故にその力の使い方に戸惑っているのだとミラは感じていたのだ。


そして暁のような者でさえ見逃してしまうのではないかと。


幼い頃のミラはただアクセルの役に立ちたい。アクセルの力を利用しようとする者達から救いたいという思いが強かった。


しかし成長を重ね、そんな驚異を跳ね返す強さを得たアクセルにも苦手な事が出来た。


それが今回のようなに正面からではなく周りを巻き込んで攻めてくる者達。


それに立ち向かうにはアクセルは素直で優しすぎる。


故にミラは今回非情に徹し、暁を殲滅したのだ。


「私は君との日々を楽しく過したい。その為なら人に悪魔だと罵られようがかまわない。君が嫌うことは私が引き受けよう。だから…」


言葉の途中で突然、腕を引かれアクセルの胸に引き寄せられたミラ。


「さっきも言ったろ?もう良いよ。ありがとう…やっぱりミラがいてくれて助かるよ」


今にも泣きだしそうなミラの頭を優しく撫でるアクセル。


「それに魔族の姿もカッコ良くて好きだぞ?どんな姿でもお前はお前だ。遠慮なんかしなくていい」


ミラにとってアクセルと共にいるには力が必要だ。

そう思い魔族の力を扱う術を学んだ。


しかし魔族の姿がミラはどうしても受け入れられなかった。


「泣きたい時は泣けば良い…俺も前に教わった」


その言葉を聞き、様々な思いが胸の内にあったが、どうでも良くなった。


今はただアクセルの胸に顔をうずめ、長年溜まっていたものを吐き出しながら、幸せな時間を噛み締めようと…

読んで頂きありがとうございます

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