51話 想いの形
7年ぶりとなる里帰りにて、アクセルはネロと、ミラは父の魔剣と、予想外の再会を果たした。
一段落した一行は軽く周囲を探索し、この日はアクセルが住んでいた小屋に移動し一夜を明かすことにした。
そして翌日から建物の解体、荒れた地の整理などを行っていく。
これで月日が経てばあるべき自然の姿に戻るだろう。
だが皆を埋めた場所だけは手を加え、綺麗に整えていく。
墓石を置き、刺してあった杖も綺麗にし、グレイから貰ったショートソードを加工した短剣も杖の隣に置く。
「よし!これで良いな」
墓の周りに一同が集まる中、ミラが言う。
「マスター、私からも花を供えさせてくれ」
ミラはチュチュ袋から色鮮やかな花を取り出し供えたあと、1粒の種を取り出し墓の手前に埋める。
「これは想花の種…貴方達を想いやる心が貴方達を天に導いてくれる…」
「ミラ、ありがとな…」
皆で黙祷を捧げ、アクセルだけをその場に残し離れた。
アクセルは墓の前に座り込み語りかける。
(皆の仇は討った…俺はこんなに大きくなって強くもなったぞ…仲間も出来たんだ。だから安心して眠ってくれ…また帰ってきてら色々報告する!)
その後は集落跡で一夜を明かすことにし、野営の準備に取り掛かった。
食事を終え、火を囲むアクセルとミラ。
ネロも魔結晶に移り、ロア達と仲良く眠っている。
静かな森の中にある集落。
火の明かりだけが周囲を照らし、パチパチと音をたてる。
そんな中ミラが静かに口を開く。
「ここで初めて見たあの燃える鳥を覚えているか
?」
「あぁ」
「あの鳥はカインドフェニックスという名の不死鳥だそうだ。人が人を思いやる心、その想いが不死鳥を象り世界を巡っているのだとか…」
「ほぉ……」
「そして普段は姿を現さず、ある特定の日の短い時間だけ姿を現す」
「世界中の空を飛んで、ある特定の日の短い時間だけ…前に見て追いかけたのは奇跡的だったんだな…」
「そういうことだ。故に幸運をもたらす象徴とも言われている。そしてここの住民達も君の想いが不死鳥の一部となり、不死鳥が天へと導いてくれるはずだ」
「そう考えると随分あの鳥にも助けて貰ったな…」
しみじみと感傷に浸る2人。
5年もの間、旅を続けてきた。
その中で様々な人に助けられもしたが、長い間2人で乗り越えてきた。
そして今、ようやく一区切りついた。
その後、今日という日を心に刻み、2人は眠りについた。
翌朝、昨日の雰囲気とは一転し、朝食をとりながらこれからの事を話し合う。
「さて、これからどこに向かおうか…」
「では私に付き合って欲しい。行きたい所があるのだ」
「おぅ!じゃ決まりだな。ミラは歴史を調べるんだったか?」
「あぁ、しかし今回は世界の歴史とはあまり関係はないんだ。なんでも未来を見ることが出来る人物がいるんだそうだ。その人物に会いたい」
「あ!それ先生から聞いた事あるぞ!その人に未来を見てもらって俺を探し始めたって言ってたな」
「…なるほど」
こうして次の目的地は決まった。
旅立つ準備を終え、集落入口にまで進むとアクセルが歩を止め、集落の方に振り返る。
(行ってくる!)
そして一行は次の目的地、未来を見ることができる人物のいる街、ミトリースを目指す。
ミトリースは中央大陸のほぼ中央に位置する場所だ。
時空間で飛ぶには繋げる空間を知っておく必要がある為、今回は使えない。
よって歩いて目指す。
その道中、野営時にアクセルは何やら思い悩んでいた。
その様子を見かけたミラが声をかける。
「どうした?何かあったのか?」
「いや、ネロに聞いたんだけど、空間を作る力ってやつ俺にも出来るはずって言うんだよ」
「………何故そうなった…」
現在ネロ達はアクセルの魔力と繋がり、一つとなっている。
それにより具現化するにはアクセルの魔力を必要とするが、思考や感情、視界を共有することも出来る存在になっている。
それぞれ意識、肉体を持ったアクセルの分身とも言える存在なのだ。
よってネロは空間を作り出す固有の力も一体となったアクセルなら出来ると言っていたのだ。
「うーん、私には分からない感覚だな…」
「俺はさ、ロア達と今の関係を契約って言ってるんだ。使役はあれこれ命令すること。契約はそいつの力の一部を分けてもらうって感じでさ」
「ふむ、で契約を果たしたマスターならその空間を作り出す力も使えると…」
「ネロはそう言うんだけど、中々上手くいかなくてさ。コツとかも聞いてるんだけどなぁ」
ミラと話ながらも手を握ったり、腕を振ったりするアクセル。
「ふむ、まぁそういうことなら練習するしか…」
「あ、出来た…」
「………」
その後、数日の内に使いこなせる様になったアクセルは1つの気掛かりを解決させる。
「前から考えていたんだよなぁこれ。ミラの魔剣見て閃いてよぉ…これを…こうして…」
そういうとアクセルは左右の腰に下げている剣を外す。
そして少し大きめのホルスターの様なものを取り出しベルトに付け替え、細工を施す。
「よし!完成だ」
そういうとアクセルは剣をホルスターに仕舞う。
が、刃部分がホルスターに収めていくと同時に消えていく。
そしてグリップ部分だけが顔を出していた。
「さすがに全部仕舞うといざという時、反応出来ないからな。でもこれであの大きな鞘に動きを阻害されることもなくなった」
そういいながら飛び跳ね、走り回るアクセル。
(確かに発想は凄いが、なんでも有りになってきているな…)
複雑な感情を胸にミラは、はしゃぐアクセルを呆れた表情で眺めるしかなかった。
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