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50話 記憶と魔剣

戦闘を終え、アクセルの前に跪く女を警戒しながらもアクセルの元に駆け寄るミラ、ロア、ロイ。


アクセルも駆け寄ってくるミラ達を見て、ふぅと息を吐きその場にドカッと腰を下ろした。


「とりあえず手当を…」


ミラはそういうと手際よくアクセルに治療を施していく。


治療を受けながらも未だに跪き、動かない女に目をやると女が口を開いた。


主様(あるじさま)に謝罪と感謝を…」


女はそう言い終わると顔を上げた。


真っ直ぐにアクセルを見つめ、ミラに勝るとも劣らない端正な顔立ちをしており、妖艶な色気を感じさせる。とても美しい女性だ。


「ネロ、みんなにも分かるように話してくれ」


「承知致しました。私の知る全てをお話し致します…ですが、その前に主様がこのような呼び方を嫌うのは存じております。ですがどうか、主様と呼ぶ許可を何卒頂きとう御座います」


「うーん、まぁそこまで言うなら好きにして良いぞ。けど難しい喋り方はやめてくれ」


「承知致しました。感謝致します」


アクセルの治療も一段落し、全員でネロの話に耳を傾ける。


ネロの話をまとめると、ネロはミラのいた世界、魔界から来た魔物で、様々な呼び名はあるが一般的にアサシンウルフと呼ばれている。


そしてこのアサシンウルフは繁殖行為などで数が増えることはなく、生存する数の上限が定められている。

一体が死ねば一体が新たに生まれるといった具合だ。


そして生まれた者は他の生物と同じで幼く、年月を経て成長していく。


そしてネロも生まれて意識が芽生えた時、偶然魔界に来ていたアクセルを目撃し、一目惚れに近い感覚に陥り、後を追い、こちらの世界に繋がる門をくぐったとのことだ。


門をくぐり、怪我をしているアクセルをどうすることも出来ずにいた時、グレイとネーラに気付き、遠吠えで位置を知らせ助けを呼んだのもネロのおかげだった。


「そうか…師匠達から聞いてたけど、お前だったか。ありがとな」


頬を赤くしながらもネロは続きを語る。


「すぐにでも主様の元に行きたかったのですが、こちらの世界に来た影響なのか、上位変異種として覚醒が始まりました。そしてだんだんと自我が薄れていった為、奥地にて息を潜めておりました」


「お前も上位変異種なのか…」


「はい…ですが、覚醒とは言いましたが、実際には歴代の上位変異種の記憶を継承し、体を乗っ取ることに相違ありません。そのため私の意識とは別に体が動き、挙句の果てには主様に牙を剥くような失態を犯してしまいました…ですが、主様にネロという名を頂いたことで自我も体も取り戻すことが出来たのです」


「なるほどなぁ…俺を呼んでたのはネロで、襲ってきたのは歴代の記憶の意識ってところか…その受け継いだ記憶っていうのはどんなのなんだ?」


「申し訳ないのですが、大した記憶ではありません。上位変異種としての名を授けて貰ったこと、それに伴い新たな力を授かったことくらいです。それに歴代といいましても上位変異種は同時に複数は存在せず、鮮明な記憶があるのもおそらく初代の上位変異種と思われる記憶のみです」


「そうか、都合よくその魔界に行ける方法とか知ってる訳ではないんだな…で、その上位変異種としての名っていうのは?」


「はい、これも憶測ですが、初代魔王される存在から魔天狼と名付けられています。そして個体名を授かると同時に新たな力を授けてもらっていました。その力も歴代の魔天狼にも受け継がれています」


「魔天狼…ロア達が天狼だったな…あの黒い玉を操る力も凄かったけど、あれとは違うのか?」


「はい。あれは魔天狼としての力。そして新たに授けられたのは空間を作る力…お見せします」


そういうとネロは立ち上がり、数歩下がった後、手をかざすと何もない空間に黒い渦のようなものが現れ、手を入れる。


手を引き抜くと、その手には木の実が握らていた。


「このように物を保管したり、取り出せたり出来ます。私が作り出せる空間はさほど大きくはないのですが…」


「おぉー!チュチュ袋みたいな感じか。…なるほど、大体のことはわかった。それと長い間、待っててくれてありがとな」


「いえ、肝心なところでお役に立てず申し訳ございません」


そういうとネロは頭を下げ、座り直し、ミラとロア達に体を向ける。


「ミラ様、ロア、ロイ、これから私も主様に尽くすことを誓います。どうかよろしくお願いします」


そういって再び頭を下げた。


その後は全員打ち解け合い、輪になってしばらく他愛ない話に華を咲かせた。


しかし突然アクセルが声を荒らげた。


「避けろ!!!」


その声を聞き即座に四方に散る面々。


丁度輪になっていた面々の中心に、一本の剣が上空から飛来し、突き刺さった。


警戒を最大に高めるアクセル、ネロ、ロア、ロイだったが、ミラだけがその剣を見て反応を示した。


「こ、これは…父が持っていた魔剣」


突き刺さった剣がミラの父、ジークが持っていた物だと言うのだ。


アクセルの魔力による索敵にも何も反応がなかった為、改めて剣に視線を移す。


身の丈ほどもある巨大で、どこか禍々しい雰囲気を醸し出している。


(ネロから別れた光の片割れか?…)


そう呟きながらアクセルが近付こうとすると、それをミラが制止した。


「ダメだ!触れない方がいい…」


これにネロが続く。


「魔剣は特定の力を宿し、魔族にとっての切り札、さらに剣が持ち主を選ぶと記憶しております。魔王ジーク様のご息女であるミラ様なら兎も角、主様が触れるのは危険かと…」


ミラに視線が集まる。


「何故ここに父の剣があるのか、どうやってここまで来たのか定かではないが…」


そういうとミラは剣の前に立つ。


「私の前に姿を現したのだ。魔剣よ…私に従え!!」


そういうと柄を掴み、一気に引き抜いた。


すると魔剣は眩い光を放つ。

そして緩やかに光がおさまっていく。


「形が変わった…」


先程までミラの背丈ほどあった魔剣はやや小さくなったが、それでも大剣と呼ぶに相応しい大きさになっている。


そして先程までの禍々しい雰囲気は消え、代わりにミラを彩る一部のような一体感を醸し出している。


「これは私を主として認めたということでいいのか…」


疑問が残るが皆から距離をとり、その手にある魔剣を振ってみる。


「とりあえずは問題ないようだ」


そういい手放すと、水滴が水に落ちるかのように、魔剣は地面に消えていった。

読んで頂きありがとうございます

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