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49話 ネロ

薄暗い森の中、集落の入口付近に降り立った矢先、ロア、ロイが魔結晶から飛び出し唸り声をあげる。


「マスター、警戒を。とても嫌な感じがします」


「わかってる。お前らがいてくれて心強いよ」


アクセルも最大限警戒し、すでに相手の位置は把握している。が、同時に違和感も感じていた。


そして集落に踏み入れる一行。


以前に比べ草木が生い茂り、朽ちた建物と同化している。


久しぶりの里帰りではあるが、感動に浸る間もなく嫌な気配の持ち主が茂みの中から姿を現した。


「アオーーン」


ロイとは異なり、禍々しい雰囲気を纏った黒い狼が咆哮を上げ、アクセルを捉え唸り声を上げている。


「馬鹿な…何故あの魔物が…」


ミラが狼を見た瞬間、驚愕の表情を見せ、声をあげる。


「知ってるのか?」


アクセルも狼から目を話さずミラに問いかける。


「あれは私の世界にいた魔物だ…私も詳しくは分からないが、あれは影に潜むと聞く。注意しろ!」


ミラの動揺も相当だが、ロア達もいつも見せる穏やかな表情はなりを潜め、牙を剥き、敵対心を剥き出しにしている。


だが、アクセルはどこか落ち着き、そんなミラ達に穏やかな声をかける。


「俺を呼んでたのはあいつで間違いない。お前達は手を出さないでくれ」


「バカな…」「「マスター!!」」


一斉に抗議の声をあげるミラ達を手だけで制し、アクセルが続ける。


「あいつは俺だけを見てる…頼む」


そういうとアクセルは答えも聞かず狼に歩み寄る。


こう言い出したアクセルに何を言っても無駄なのは重々承知の面々。

それ以降は口を出しはしないが、いざとなれば介入することを目で確認し合った。


「待たせたな」


剣を抜きながら狼に言い放つ。


狼も体勢を低くし、唸り声をあげる。

次の瞬間、狼の体から闇が具現化したかのような黒い玉が3つ生まれ、宙に浮き周囲に漂い始める。


グルルと喉を鳴らした後、アクセル目掛け突進してきた。


即座に回避するアクセルだったが、先程の3つの玉がそれぞれ別の方向から襲ってくる。


瞬時に危険性を見極め、剣に魔力を纏い、弾き飛ばす。


弾き飛ばされた玉は、周囲に生えていた木にぶつかるが、その木は折れるわけでも、砕けるわけでもなく、穴だけが開いている。


(まともに喰らうと死ぬな…)


おそらく魔力を纏っていなければ剣が折れていた。

そう思わせる程の威力があった。


現に剣に纏った魔力の刃にはヒビが入ってる。


新たに魔力の刃を纏い、狼と対峙するが、先程吹き飛ばした玉が瞬時に狼の元に戻ってきている。


さらに狼がガウと鳴くとさっきの玉が形を変え、剣、槍、盾になって狼の周りを漂っている。


(おいおい、そんなの有りかよ…)


アクセルの頬を汗が伝う。


そして狼は変わらずアクセルをその爪と牙で引き裂こうと突撃を繰り返し、剣と槍もそれに追従する。


盾は狼から離れずその役割を果たしている。


目にも留まらぬ攻防を繰り広げるアクセルと狼だが、狼の剣が自身の影に溶けるように消えた。


同時に狼と槍がアクセルに襲いかかる。


アクセルも迎撃の構えをみせるが、突如自分の影から剣が飛び出し貫こうと迫ってくる。


「ぐっ…」


致命傷は避けたものの足に剣を受け、肩を槍が貫き、爪が胴体を抉った。


「「「マスター!」」」


すぐに介入しようとするミラ達を手で制し、立ち上がるアクセル。


ふぅっと息を吐き、剣に新たな魔力の刃を纏う。


狼はトドメと言わんばかりに3つの玉を全て剣に変え、上空三方向からアクセルを狙う。


それを見たアクセルは剣を持ったまま、左手の親指で右頬を弾く。


そして白銀の剣を前方に構える。

すると弾倉から圧縮した空気の玉のような物が現れ、上空から襲ってくる剣に向かっていく。


そして引き金を引いた。


キキキィンと破裂音が重なりアクセルの剣から生まれた玉は弾け、狼の剣を粉々に砕く。


同時に左手の剣を狼に振り抜いた。


狼は距離をとり、剣のみで攻めていた為、当然刃が届くわけがない。


しかし、振り抜かれた剣から赤い三日月のような斬撃そのものが狼に向かい、直撃する。


魔晶輝石により進化した白銀の剣は刃に伝わらなかった振動の残滓を溜め込む性質を持ち、それを魔力で包み引き金を切っ掛けに破裂する衝撃弾を、同様に進化した黒剣は残滓を外部に放出する特性を持ち、斬撃を放つまでにそれぞれ昇華させた。


魔法が使えないアクセルはこの剣を特性を活かすことにより、体外に魔力を放出出来るようになっていたのだ。


胴体に斬撃を受けた狼がギャンと声をあげるが、すぐに自身の影に溶けるように潜る。


そしてアクセルの影から飛び出し、食らいつこうと飛びかかる。


しかし、そこにアクセルの姿はなく、目に入ったのは振り下ろされる途中のアクセルの踵だった。


頭に直撃を受けた狼は視界が揺れているのか、ヨロヨロと立ったりコケたりを繰り返している。


アクセルは剣を収め、ゆっくりと狼の元に向かう。


そして狼の前に膝を付き、頭に優しく手を置きながら言い放つ…


「俺と一緒にこい…ネロ」


アクセルの言葉と同時にネロと呼ばれた狼は黒と白の光となり、黒の光は上空へ、白い光はアクセルと一つになっていく。


光が収まり立ち上がるとアクセルは胸に手を当て呟く。


「こい…ネロ」


アクセルから再び光が溢れ、アクセルの前に黒い狼…ではなく黒いドレスのような物を身に纏った人間の姿をした女が跪いていた。


読んで頂きありがとうございます

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