48話 里帰り
無事再会を果たし、再び旅立つ準備を終えた2人。
「ではこれからの話をしようか」
前日はお互い報告が主だった為、これからの予定を話し合えていなかった。
「あ、確かに俺も考えはあるけど話せなかったな」
「ほほぅ…成長が見られて嬉しいぞ」
「茶化すなよ…で、俺から話していいのか?」
「いや、まずは私から話そう。そうだな…この旅の目的についてだ」
「ん?それは世界を周ろうってことじゃなくてか?」
「あぁ、確かに世界を周り、世界を知ることが目的だが、そうではない。もう少し具体的な目標を持とうという事だ」
「目標…」
「そうだな…私は自分の世界について調べるうちに、この世界の歴史に興味を持った。例えばロア達の種族はルプレックスといったな。これはすでに失われた言葉で狼の王という意味だ」
「失われた言葉…」
「そうだ。何故失われたのか気になるではないか。これはほんの一部に過ぎないが、このように目標を持ち目的地を決めて旅をするのも良いのではないか?」
なるほどと頷き考え込むアクセル。おそらく目標に成りうるものを考えているのだろう。
そしてパッと顔を上げ口を開く。
「それなら俺は俺の中にある魔法についてと、魔獣について…かな」
「魔法については分かるが、魔獣は何故だ?」
「魔物は間引かないと魔物雪崩が起きるよな?」
「ふむ、それで?」
「じゃあ人間は?確かに人間同士で争って数を減らしてるけど、同時に自然も壊してる。人間って種族はこの世界の害悪でしかないんじゃないかって思ってたんだ…で、そんな人間を間引くのが魔獣なんじゃないかってさ…」
「言いたいことは分かるが、それは…」
「分かってる。魔獣がどんなやつか分かっても多分何も解決はしない。でも、もしかしたら分かり合うことも出来るかも知れないだろ?それもまずは調べてみないと分からない」
魔物を間引くことの大切さは理解している。だが暴走する可能性があるだけで命を奪う事はしたくない。以前思い悩んだ事だ。
だがこれは人間に対しても同じで、魔獣が人間を間引く存在であるなら間引くに相応しい人間がいることも事実。
他者を貶し、陥れ、快楽の為に命を奪う者は間引くに相応しいとアクセルは考えている。
だが魔獣にその区別が出来るはずもなく、調べることで可能になるかもしれないと考えたのだ。
「まぁそう都合良くいかないのは分かってるから、あくまで目標にするって感じだけどな」
そう締めくくるアクセルに反し、ミラはアクセルの予想以上の返答に困惑しているようだ。
それを感じ取ったアクセルが話題を変える。
「まぁそれは一先ず置いといてさ、次の目的地なんだけど…」
「あぁ、そうだな。何か宛はあるのか?」
「あぁ、ちょっと里帰りしてみたいと思ってさ」
旅立った目標でもある魔物の討伐を果たし、冒険者になって色々な旅もした。一度報告と故郷の現状を知りたいと申し出たのだ。
「あとそれだけじゃなくて、今の俺ならもう一度お前の世界に時空間で繋がれるんじゃないかと思ってさ」
「ふむ、そういうことなら異論は無い。私にとっても有難い話だしな」
「よし!じゃ先ず最初の目標は俺の故郷に決定だな。まぁ時空間ですぐだけど」
「いや、私も旅の感を取り戻したい。少し自らの足で旅をしたいな」
こうして当面はのんびり歩きながら旅をして、ある程度の所で時空間で一気に戻ろうと話が決まった。
そして明日に旅立つことに決め、この日はイリナに感謝を伝える為、ささやかな宴を催し、アクセルも料理を振舞った。
翌朝、涙を浮かべ見送りにきてくれたイリナと熱い抱擁を交わすミラ。
そんなミラの目にもうっすらと涙を確認し、アリーやモーラを思い出すアクセルだったが、気持ちを切り替えて別れを惜しみつつもアシュリットを旅立った。
そして順調に旅路を進む途中、アクセルはふと気になりミラに尋ねる。
「そう言えばさ、世界地図ってあるのか?アートラン周辺の地図は見たけど…」
「あるとは聞いたが、恐らく正確な物ではないだろうな。地図を描くにも世界を周らないといけない。冒険者なら兎も角、難しいのではないか?」
現在判明しているものを纏めると、中央大陸の最南西にアクセルの故郷、そこから北東にリーレスト、アシュリットと並び、ガラット国、ガラット国の北にフォルジュ、ガラット国の東にアートランといったところか。
「こうやって見てみるとまだまだ行ってないところあるんだなぁ」
「ふふ、楽しみがあって良いじゃないか」
地図を自作しながら旅をするのも良いかもしれないと思いながら数日旅を続けた。
そしてミラも旅に慣れた為、時空間でまずはアクセルの生まれ故郷である村の近くに降り立った。
「凄まじく便利な力になったな」
「ハハ、だろ?まぁ大勢は無理だけどな…ん!?」
「どうした?」
「いや、呼ばれた気がしたけど、ロアじゃないよな?」
「いえ、違いますね」
「そうか。まぁ気にしないでくれ」
女性の声で呼ばれた気がしたが、気のせいかと思い直す。
そして改めて生まれ故郷を見渡してみる。
「まぁ、分かってたけど何も無いな…とりあえず母親は大事にしてくれたみたいだから手ぐらい合わせてくるよ」
「あぁ、私はここで待っている。ゆっくりしてくるといい」
そういってミラは木に背に預け読書を始める。
アクセルも朧気な記憶を辿り、自分の家だった場所に向かいチュチュ袋からこの日の為に作っておいた墓石を取り出した。
そして地面に置き、その前に花を飾り手を合わせる。
(俺はこの通り元気だ。だからゆっくり眠ってくれ…)
しばらく黙祷を捧げ、その場を後にしミラと合流する。
そして育った集落に続く森に踏み入れた瞬間、ハッキリと聞こえる。
「呼ばれてる…それにこれは…」
「良くない気配か?」
「あぁ、近くまで飛ぶ。掴まれ」
嫌な気配を感じ、警戒の為少し距離をとり入口付近に降り立った。
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