47話 語り合う
アシュリットに辿り着き、ミラとの再開は目前だが、ここでも用心を重ね、門番で指名手配されているかの確認を行う。
しかしここでもすんなり街に入ることが出来た。
ここアシュリットは要人が多く集まる場所であると以前聞かされている為、情報が伝わっていないとは考えにくい。
首を傾げながらもミラのいるイリナが営む薬屋に辿り着いた。
そして扉を開くと店主のイリナが出迎えてくれた。
「いらっしゃい。あら…君は…」
「こんにちは。ミラを迎えに来た。いるかな?」
「えぇ、すぐ呼んでくるから待ってて」
そう言い残しイリナは店の奥へと姿を消す。
そして一瞬ドタバタと騒音がしたがすぐに収まり、かわりにミラが微笑みながら姿を見せた。
「久しぶりだな」
「あぁ、久しぶりだ…なんというか色々育ったな」
姿を見せたミラは、黒く艶やかな髪は背中まで伸び、表情は穏やかながらも妖艶な色気をのぞかせている。
胸も豊かに実り、細くしなやかに伸びた脚は芸術を思わせるほど美しい。
さらに服装も以前着ていた少年のようなものではなく、露出も多くなり、胸を誇張しているかのようだ。
さらにブーツにより美しい脚はより際立っている。
「あまりジロジロ見るな…恥ずかしいではないか」
「あ、悪い悪い。見とれちまった」
以前とは違い、女性としても成長したミラに思わず見とれ
てしまった。
「ふふ、積もる話もあるだろうから奥の部屋使っていいからね」
2人を微笑ましく見ていたイリナが声をかけてくれる。
イリナに礼を言い、奥の案内された部屋に入る。
そして久しぶりだからか少しの沈黙が流れるが、アクセルがそれを破った。
「えぇっと、色々と話すことがあるんだけど、まずはこいつらから紹介するよ」
そういって胸にある魔結晶を握ると光が溢れ出し、ロアとロイが姿を見せる。
「なっ!?…………」
「お初にお目にかかりますミラ様。私はロア、こちらがロイとアクセル様から名を頂きました。我らはアクセル様に付き従う者。どうかよろしくお願い致します」
「ロイです。よろしくお願いします」
狼姿のまま流暢に挨拶し、揃ってミラに頭を下げる。
ミラも目を見開き、アクセルとロア達を交互に見比べ、あからさまに動揺している。
「えぇっと、一緒になった経緯は後で説明するよ。まぁ、仲良くしてしてやってくれ。それと次が問題なんだけど………」
ここでガラット国の姫と問題を起こし、アートランを去ったことを説明した。
「大体はわかった。が私も情報は常に集めていた。しかしガラット国の姫が襲われたという話は全くなかったな」
「……となると騎士の威厳に傷が付くとかで公にしてないってことか?」
「それはないだろう。それにガラット国程の大国となれば情報操作などいくらでも出来る。賊を野放しにしておく方がよっぽど威厳に関わるだろう」
「うーーん…」
「単純に考えてその姫が問題にしていないと考えるのが正しいだろうな」
「俺、結構やらかしたぞ?」
「まぁ、君のやったことはなんとなく想像出来る。理由は分からないが問題にしたくなかったのだろう。それに随分と月日も経っている。今更掘り返すようなこともしないだろうな」
未だに首を傾げながらもミラの言うことを信じ、この問題はとりあえず保留とすることにした。
そしてそれからはロアとロイを交え様々なことを時間を忘れて語り合った。
イリナが夕食の時間だと知らせにきてくれなければ朝まで語り合っていただろう。
そしてイリナも交え夕食をとる。
「ふふ、しかし君がアートランにいたとはな…」
「ん?あぁ、ここから離れてるのか?」
「ここアシュリットはこの”中央大陸”の西に位置する場所だ。アートランは東だ」
「中央大陸?」
「今我々がいるのが中央大陸。ここより東西南北それぞれに大陸がある」
「へぇー、まだまだ世界は広いんだな」
「そういうことだ。しかしアートランでわずか1年足らずで★6まで上り詰めた冒険者がいると噂されていたがやはり君だったか」
「へへへ」
その後も久しぶりの酒も飲んでみるが相変わらず馴染めずなんて事もあったが、この日はイリナの店にお世話になることにしたアクセル達。
翌朝からミラも旅立つ準備を始め、部屋の片付けも粗方終わった時、アクセルがミラを呼び止める。
「どうした?」
「えぇっとさ、俺アートランで鍛治も勉強したんだ。それでこれを作ったから貰ってくれ」
そう言って手渡したのはバジリーペントの脱皮した皮で作ったベルトと黒い金剛石が埋め込まれた刃の黒い短剣。
「このベルトは素材が良いから結構自信あるぞ。で、この短剣はミラを想像して作ったんだ。この埋め込んだ石とかもミラっぽいし刃もそれっぽいだろ?。武器としては大したことないと思うんだけど…」
「うん?どういうことだ?」
「この短剣はさ、敵を倒すためじゃなくてお前の身を守る為だけに使って欲しいんだ。まぁ今まで助けてくれたお礼も兼ねてる」
アクセルが鍛治を習い、装飾品を作り始めたのもミラにお礼をしようと思ったのがそもそものきっかけであった。
そしてその延長で武器としてではなく、その身を守る為だけの短剣であれば1級品である必要もないだろうと思い自作していたのだ。
そしてこの短剣は1目見た瞬間にミラを彷彿とさせる宝石を埋め込み、刃もまたミラの纏う雰囲気などをアクセルなりに表現したものになっている。
「なるほど…君の想いは理解した。有難く頂こう」
「まぁ使わないに越したことはないけどな」
「ふふ、たしかにそうだな…感謝する」
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