44話 ショックッション
ショックッション
フォルジュから北方に位置する山を縄張りとしていることが確認されている巨大な怪鳥。
性格は凶暴で縄張りに侵入したものには容赦なく襲いかかる。
名前の由来にもなっている対衝撃耐性は随一で対策は必須。
その羽毛の実用性は頭一つ抜け、加工もほぼ必要ない為、需要も非常に高い。
(…金取る割には大した情報じゃないな)
現在アクセルは情報収集のため冒険者ギルドに来ている。
アートランでは無料で閲覧が可能であった魔物の情報などは、ここフォルジュで有料なのには理由がある。
フォルジュは様々な素材が豊富にあり、貴重な物もフォルジュ近辺ではよく発見されている。
それらの素材を求めた多様な職人達が集まり出来たのがここフォルジュである。
そして生産系ギルドや商人ギルドがこの街を取り仕切っているため、冒険者達は他の街に比べ幾分か肩身の狭い思いをしているのだ。
(じっちゃんから言われた量もたいしたことないし、とりあえずいくか…)
並みの冒険者なら4、5日掛かるであろう道程をアクセルはロイと競争しながら走り続け、出発したその日のうちに山の麓に到着していた。
そして翌日、山頂に向かい進んでいく。
(お前らが出るとこの辺のやつら警戒するだろうから今回は留守番だな)
(わかりました)(わかった)
そして魔物達は避けてなんとか山頂付近までたどり着いた。
(あれが目的の怪鳥か?…)
遠目で見ても一目瞭然のその巨体。
目測で2階建ての家屋くらいの大きさだろうか。
そして見るからに柔らかそうな毛がその巨体に全体に確認出来た。
刺激しないようにゆっくりと近づいていく。
アクセルをその目で確認したショックッションと呼ばれる怪鳥は、折りたたんでその巨体に隠していた足を伸ばし、警戒態勢をとっている。
アクセルは全ての動作をゆっくり行い、両手を上げながら怪鳥に話しかけた。
「荒らす気はないんだ。お前の足元に落ちてる毛を拾わせてくれ」
しばらく両手を上げたまま様子を見ていたが、怪鳥は顔を左右に振りながら何かを確認しているような動作をした後、突然翼を広げて威嚇を始めた。
それを見たアクセルは腰に下げていた剣を外し、ゆっくりと掲げながら話しかける。
「これはここに置くから、そう怒るなよ」
そう言ってゆっくりと近づいていく。
怪鳥は近づいてくるアクセルに毛を逆立たせ、翼を広げ、最大の威嚇方法である咆哮のため口を開く。
「……ピヨーーーーーー!!!」
「だっはっはっはっは。お前ピヨって鳴くのか!可愛いな」
見た目はダチョウのような面影があるが、足は太く、そして何よりその巨体からとは思えぬ鳴き声にアクセルも思わず緊張が途切れてしまった。
「っ!?…ビヨーーーー!!」
「待て待て、怒るなよ!馬鹿にした訳じゃないだ」
慌てて弁明しようとするが、すでに怪鳥は臨戦態勢に入っている。
「ビヨ!」
恐らく怒りを込めた鳴き声を発したあと怪鳥の姿がブレる。
その巨体からは考えられない速度でアクセルに迫り、凪払おうと巨大な脚を振り抜いた。
「うおっ!?……速いな…」
即座に反応し避け、再び距離をとる。
そしてまたも怪鳥はアクセルに迫り、今度は連続でその脚を振るう。
「ちょ…まっ、てっ、よ!!」
全て捌きながらも怪鳥に訴えかける。
これでは進展がないと思い、チュチュ袋からクシを取り出し、攻防の隙を見て軽くクシを怪鳥の胴にある毛に通してみる。
「ビヨ!?」
(余計に警戒させちゃったか…)
クシを通された怪鳥は即座に距離をとり、先程の様に迂闊に近付いてこない。
直後、距離をとったその場から脚を降りあげ、アクセル向け蹴撃を放った。
凄まじい衝撃と爆風が襲う。
さながら空気の大砲のようだ。
「その脚でどうやって空気掴んでんだよ…」
避けながらも疑問を口にしてしまう。
怪鳥の脚は太くはあるが、鶏の様な脚だ。
とても空気を掴める構造ではない。
しかしよく脚元を見てみると、脚の間にある毛が膨張し水掻きのようになっている。
(あの毛で空気を捕まえてるのか…器用だな)
止むことが無い空気の大砲がアクセルを襲うが、全て見切り一気に怪鳥の懐に飛び込む。
そして胴体にしがみついた。
「これで何も出来ないだろ!」
だが違和感がある。身体が動かない。
「おいおい、まさか毛で俺を捕まえてるのか?ホントに毛か?これ」
毛がアクセルをがっちりと固定し身動きが取れない。
だが、幸いなことにクシを持っていた右手は動く。
そしてそのままクシで撫でるように優しく通していく。
「ビヨ!?…ピ……ピヨ~~~~~」
最後は蕩けきったような声で鳴き、そのままヘナヘナと座り込む怪鳥。
「へへへ!どうだ?気持ちいいだろ?」
「ピヨ!」
アクセルを拘束していた毛も怪鳥の表情と同じように解けていく。
「この抜けた毛、貰ってもいいか?」
「ピヨ!ピヨピヨピヨ」
「わかった、わかった。最後までちゃんとやるから暴れるな…」
あまりにも気持ちよかったのか、翼をバサバサと動かし、強請るかのようにアクセルに催促をする怪鳥。
そして夜までかかりなんとか全身をクシで解きほぐした。
「ふぅ……こんなもんか。じゃこれ貰っていくな」
そういって小さな山と見間違うほどの抜けた毛をしまい、立ち去ろうとした時だった。
「ビヨ!」
怪鳥はアクセルの袖を咥えて引き留めたのだ。
「ん?なんだ?」
怪鳥は翼に嘴を突っ込み、モゴモゴしたあと2枚の羽根を咥えてアクセルにそれを渡した。
その後クシを持つ手をグイグイ引っ張ってくる。
「…羽根もやれってことか!?…仕方ない…今回だけだぞ」
こうして朝まで羽根の手入れもすることになった。
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