42話 魔晶輝石
ドランに会うためにフォルジュの街にきた。
いつもならドランの工房に直接飛ぶのだが確かめたいことがあった。
(さすがにギルドカード見せたら反応あるよな…)
ガラット国の姫と揉めたことから追手がかかっているかどうか知りたかったのだ。
追手がなければそれでよし。あればドランに会うことも控えるべきだと思い、門番で判断しようと思いついたのだ。
ただ、アートランを出て三ヶ月ほど経っているが、情報が伝わっていない場合もある。
そして一番の問題はアートランとフォルジュの位置関係だ。
アートラン周辺の地図は確認しているが、世界規模の地図は見たことがない。
アートランにあったのかもしれないが、時空間で帰る予定だったこと、アートランに来た方法も何かの転移によるものだったこともあり調べることをしなかった。
(こういう時、ミラがいたら怒鳴られるんだろうなぁ…)
自分の無計画さに溜息をつく。
(とにかく行くか!すんなり通れなかったら逃げよう)
覚悟を決めて門番に近付いていく。
そしてギルドカードを見せると門番の表情に驚きが見て取れた。
(…逃げるか…)
「まさか★6の冒険者だったとは。どうぞ、お通り下さい」
「え?あ、ありがとう」
すんなり通れたことに首を傾げる。
(まだ情報がきてないのか?…そんなことあるのか…)
疑問を抱きながらもドランの工房に辿り着く。
「じっちゃーん」
「ん?おぉ、小僧か。久しいな。また整備か?」
ドランもいつものように迎えてくれる。
そしてまずはこれまでの経緯を説明した。
「ワシも地名など興味がない故、詳しくは知らぬが、ここより南の山を境にガラットと呼ばれる国があったはずじゃ。それほど月日が経っておるなら伝わらんことはないと思うがの」
「あの門番が知らないだけってこともあるよな?」
「そんなことはどうでもよい!今回はなんの用じゃ!土産はどうした!」
ドランも興味のない話に苛立ちが隠せないようだ。
とりあえずこの問題は先送りにしておこうと決め、本題に入る。
「土産は凄いのがあるぞ!でもその前に相談にのってくれ」
そして作った弾丸を差し出し、経緯を説明する。
「話を聞く限り、やめた方が良いじゃろうな」
がっくりと項垂れるアクセルにドランは続ける。
「まさか振砕石なんぞ見つけて加工するとは思いもしなかったが、その剣は特別な鉱石なんぞ使っとらん。形こそ他とは違うが、物は一緒じゃ。この弾を使えても一、二回じゃろうな」
「そうか…まぁそれなら仕方ない。試さなくて良かったよ」
硬い敵への対策はまた考えるとして、ドランには旅の土産を渡す約束をしている為、さっそく渡す。
「じっちゃん、お土産いっぱいあるぞ。これと、これと、あとこれもだな」
そう言いながら討伐した魔物の素材を主に渡していく。
「ふむ、どれも中々のモンじゃ。」
「最後に、これがとっておきだ!」
そういうと青緑色の石を取り出し、ドランに差し出した。
「へへん、どうだ?きれいだろ?魔力も少し帯びてるみたいだから珍しいと思うぞ」
「…………」
ドランはそれを手に取ると食い入るように見つめている。
「……お主…お主これをどこで手に入れた!?」
突然大声で叫び、凄まじい剣幕でアクセルに詰め寄るドラン。
「どわっ!ビックリした…採った場所は聞かない約束だろ?言わないぞ」
「む?そうであった。言葉の綾じゃ、忘れてくれ。しかしこれは魔晶輝石と呼ばれる物で間違いない。よいか魔晶輝石とは……」
ドランが魔晶輝石について教えてくれた。
この鉱石は様々が呼び名がある。その中でも進化石という呼び名が一番有名で、その名の通り、物質と融合し、全く新しい物質に進化させることからこの呼び名が付いた。
しかしこの石は滅多なことでは見つけることは出来ず、さらに全ての物を進化させる訳ではなく、特定の物と結び付き進化させる。
その特定の物が物なのか、何かの条件があるのか、または物の所有者なのか、色々と噂が飛び交い、付けられた呼び名が人を選ぶ石。
更には試し打ちが出来ず、常に一発勝負になるため、職人は腕を問われる。故に職人泣かせの石。
そして進化した物質は今までにない新しい物の為、奇跡の石とも呼ばれる。
「へぇ…これ、そんなに凄いものだったのか…」
「全くお主は鉱石の神にでも祝福されとるのか?ワシはこの石を求めおよそ100年はこの地を探したぞ…」
「場所は言わねぇけど、なんでここなんだ?」
「ほれ、広場に時を刻む珍しいカラクリがあるじゃろ。あれにも恐らくこの石が使われておる」
フォルジュの広場にそびえる時計塔のような物のことだ。
どんな仕組みで動いているか、その素材がなんなのか、何も解明されていない未知の物体なのだ。
「なるほどなぁ…」
目を閉じ、頷きながら答える。
するとドランが唐突に口を開く。
「しかし…うむ、これならばあるいは…小僧、お主の剣を見せてみよ」
そういうと腰に下げていた剣を奪われるように取り上げられる。
「うわっ。…じっちゃん、いつも突然すぎるぞ」
そして魔晶輝石と剣を交互に見ながら、たまに剣に石を近付けたりしている。
「ふむ、やはりこの剣に適合するようじゃ。じゃが魔晶輝石が少ない故、どうすることも出来んがの…」
「あー、まだいっぱいあったぞ?それはじっちゃんに見せようと思ってほんのちょっと貰っただけだ」
「やはり………祝福かのぅ……」
よろしければ評価、感想等頂けると幸いです