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38話 大事件勃発

アクセルがアートランに来て早1年が経とうとしていた。


その間、魔物雪崩鎮圧の功績から★4に、そして着実に依頼をこなし、コリンやアネッサ、アクセルの上級資格試験に携わった★5冒険者たちからの推薦をうけ、アクセルは現在★5冒険者に昇格している。


そんなアクセルだが、この日はアリーに呼び出されギルドの会議室にきている。


「で、話ってなんだ?依頼か?」


「違うよ。今日はあることを伝えないといけないんだ」


そしてアリーから説明される。


なんでも近日中にガラット王国と呼ばれる大国の姫が、成人した事を機に、領地を訪れて廻るらしい。


これは顔見せとされる行事で、今回の姫だけでなく貴族の子息、息女も行っているらしい。


内容もただ街を通り過ぎるだけだとか。


しかしこれはあくまで表向きで、その裏では歯向かう意志をもった者がいないかなど、政治的なことが含まれているとアリーが教えてくれた。


「なるほど!全く興味無いな」


「アハハ…だろうね。でもね無関係では済まないんだよね」


予想した通りのアクセルの反応に苦笑いのアリーはさらに続ける。


「アートランはガラット王国の領地でもあるから、その日は領民全てでお迎えしなくちゃいけないんだ。要するにこの街に住む全ての人だね。でもここは冒険者の人が多いでしょ?冒険者はたまたま居合わせる人もいるから、強制ではないんだよ。お迎えに参列するもよし。そうでないなら、身を隠すなりしないといけないんだ…」


「えーっと、参加するなら言うこと聞け。そうじゃないなら、その間は宿なり森なりに引きこもってろってことか?」


「そういうことだね。冒険者の人はこういうことを嫌う人もいるし、そこまで頻繁にある行事でもないからね。アクセル君は初めてで勝手が分からないだろうから今回は説明させてもらったんだ」


「そうなのか。確かに初めてだ。ありがとう。で、それ参加するならどうすれば良いんだ?」


「特にやることはないよ。ただお姫様が通り過ぎるのを見守るだけだね。熱心な人は祈ったりするみたいだけど、ここではあんまりいないかな」


「大人しく見とけってことか!分かった。せっかくだし俺も見てみるよ」


▽▽▽


姫が訪れる当日を迎え、アートランは人で溢れ返っていた。

そして姫を乗せた馬車とその護衛の騎士達以外、道を歩いているものはなく、姫は顔を見せることもなくただ馬車と騎士達だけが進む様子を見守るだけであった。


(あれが姫を乗せた馬車か…顔もみせねぇのに、こんなことする意味あんのか?)


そんなことを考えているとロアが話しかけてきた。


(マスター、少しよろしいですか?)


(うん?なんだ?)


(私にはあの馬車に乗っている人間がこれほどの歓迎を受けるに値するとは到底思えません)


(だよなぁ…俺もそう思うけど、これが人間の悪い部分なのかもなぁ)


(というと?)


(結局凄いのはあの姫じゃなくて、あの姫のいる大国を作ったやつだ。どれくらい長く続いているか知らないけど、それを守り抜いてきたやつもな。だけど、中にはそんなヤツらの血を引いてるだけのやつが勘違いして偉そうにしてることもあるんだよ)


過去の栄光を自分の功績だと勘違いしている貴族や王族。そしてその権力を振りかざし好き勝手にしている者がアクセルは大嫌いだった。


(愚かなことですね…)


その後も馬車をただ眺めるだけだったのだが、そんな中ある出来事が起こる。


小さな男の子が人の波に押され、馬車の前に投げ出されてしまったのだ。


馬車はとてもゆっくり進んでいるため轢かれることはなかったのだが…


「無礼な!市民ごときが姫の進む道を阻むとは無礼極まりない!!」


そう言い先頭を進んでいた騎士の1人が剣を抜きながら、少年に歩み寄って行った。


「罪人には極刑を与える」


そう言いながら何の躊躇もなく剣を振り下ろした。


アクセルは恐怖で震えるだけの少年の前に現れ、振り下ろされた剣を指二本で受け止めた。


アクセルは騎士達に見えないように背中に魔力で文字を形取る。

そこには「子供を連れて行け」と記されており、それを見た民衆の中の一人がすぐに子供を民衆の中に引っ張りこんだ。


突然現れたアクセルに騎士は堂々と言い放つ。


「貴様、罪人を庇うつもりか?貴様も同罪だ」


そう言い放つ騎士だったが、剣を摘まれたまま引き抜くことも出来ずにいる。


「罪?人の波に押され転んだだけで罪になるのか?」


その言葉の後、騎士の剣はへし折られた。


その直後、他の騎士も駆けつけ、アクセルに剣を向け、取り囲むように対峙する。


「なっ!?き、貴様…我らは姫を守る誇り高い騎士だ。その騎士の剣を折るなど言語道断」


「折られる方が悪い。それに誇り高い?埃被ったの間違いだろ」


「き、貴様、まだ侮辱する気か」


顔を真っ赤にし、顔を怒りに染めながらも折れた剣を向ける騎士にアクセルが言い放つ。


「そもそも姫を守る為にお前らはいるんだろ?飛び出したのが賊か、ただ人の波に押されて転んだだけの子供か、そんなことの区別も出来ないようじゃ守るなんて無理だろ」


アクセルを取り囲みジリジリとにじり寄ってくる騎士達を全く意に介さず続けるアクセル。


「それにお前らが今、俺に向けている剣は殺すための武器だ。それとも脅して言うこと聞かせる為にぶら下げてんのか?頭数と脅しで俺が引き下がるとでも思ってるのか?」


「き、貴様…」


「貴様、貴様うるさいぞ貴様!」


煽るようにアクセルが言い放つ。


「それにだ、守るために戦う騎士が、なぜ無駄に命を奪おうとする。おかしいだろ」


この言葉を聞いた民衆も声を大きくする。


「そうだ!」「非情なことをするな」「さっさと出ていけ」


民衆もそうだ、そうだとこれを機に騎士達に非難の声を浴びせる。


「うるせぇ!!!」


しかしアクセルの大声が周囲に響き渡り、民衆を黙らせた。


「都合のいい時だけ、横槍入れてくるなんてくだないことをするな。さっき、何もしなかったお前らが今更どうこう言うことを俺が許さない。黙ってろ」


辺りが静まり返り、騎士達も狼狽える中、尚も続けるアクセル。


「殺そうとしたのは姫の指示か?お前の独断か?こんな騒ぎになっても顔を出さないようなやつどうでもいいが、どっちにしてもお前は気に食わない」


そう言いながら騎士に歩み寄るアクセル。


「貴様、戯言もそれまでだ!私が成敗してくれる!!」


そう言いながら折れた剣でアクセルに斬りかかってきた。

それを難なく躱し、騎士の顎をカチ上げる。


「き、貴様……ぎやぁぁーーー」


地面に腰をつけ、顎を手で押さえながら騎士がアクセルを睨みつけるなか、アクセルは騎士の足をすっぽりと覆った脛当ての上から、足を踏み抜き、へし折ったのだ。


「良かったな。まだ痛みを感じることが出来て」


騎士を見下ろすアクセルの目は魔獣に向けるかのように冷たい。


激痛に悶え、バタバタと暴れ回る騎士から少し距離をおくアクセルに、圧倒された他の騎士達は手を出せず剣を構えたまま立ち尽くすしかない。


「死んだら、その痛みも、恐怖も、もう感じることなんて出来なくなる…」


そう言いながら剣をゆっくりと抜き、再度騎士に向く。


「ひぃ、ま、待て。待ってくれ…」


「随分と都合の良い口だな…お前は意味もなく、あの子供の”これから”を奪おうとした。そんなお前に、これからは必要ない……」


冷たく言い放ち騎士に向かおうとしたその時、一人の女性が声を上げる。


「剣士様、お待ちを!どうかその者を…」


アクセルはそれを無視し、騎士に歩むその足を止めない。


「貴様ぁ!!姫様までも侮辱するのか!!」


「あ?言っただろ!今の今まで出てこなかったやつなんかに興味無い。興味ないから話すこともしたくない。それだけだ」


そう言い放ち、剣を振りかぶった。


しかし姫が両手を広げ、騎士の前に立つ。


「剣士様、この者はこれ以上、同じ過ちを侵さぬよう周囲に伝えて貰う為に必要です。ですからここは私だけの命で御容赦して頂けませんか?」


「………」


それを聞き、白けたのか剣を仕舞う。


「随分と都合のいい奴らばかりなんだな…俺は殺すことは嫌いだ。アイツはともかくアンタを殺す気はない。死にたいなら勝手に死ね」


そして騎士に顔を向け言い放った。


「今回は見逃してやるよ。だがまた同じことをしていたら、その時は声をかけることもなくお前の首を落とす」


アクセルはそう言い残すと、建物の屋根に飛び上がり、屋根伝いにその場を後にした。


その後、暗い雰囲気のまま姫はアートランを去っていった。


▽▽▽


(あの剣士様の言う通り…私は何もしなかった。出来なかった…でも、いつか必ず、あの剣士様のように…)


ゴトゴトと揺れる馬車の中で静かに決意を新たにする姫だった。

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