35話 会議室にて
ギルドで一夜を過ごしたアクセル。
アリーが気を失った為、そのまま寝かせていたが、誰もギルドにいなかった為、アクセルも残ることにした。
そして横になっていると心に声が響いた。
(マスター、この女性がアリーさんですよね?)
(ん?おお!心の中で聞こえる。変な感じだな。それになんでわかったんだ?)
(我らはマスターと魔力で繋がっています。そしてマスターの記憶も共有しているのです。マスターという呼び方もミラ様がそう仰っていましたので)
(ふぇー、凄いな。ミラのことまでわかるのか。まぁ呼び方なんて何でもいいぞ)
アクセルの心の中で行われるロアとの会話。ロアは実際声に出すことはまだあまり出来ないが、こうして心の中だと流暢に語りかけてくる。
言葉ではなく思念での会話といったところか。
(ロイも喋れるのか?)
(うん。だけど俺はまだロアみたいに声は出せない。マスター以外の人間もちょっと嫌だ)
(そうか、じゃあさっきは突然呼び出して悪かったな)
体は大きくなったロアとロイだが、まだ精神は幼いようだ。ロアも無理して喋り方を変えているのがアクセルにはわかった。
(これから長い付き合いになるんだ。無理はしなくて良いからな)
それからも会話が尽きることはなく夜通し話し込んでいた。
ちなみにロアはメス、ロイがオスだ。
夜が明け、昨夜の事を夢と思い込んだアリーは平然としていた為、そのまま別れ、一度宿に帰ったアクセル。
モーラ、コリン、アネッサに心配されたが、後日ギルドへの報告も兼ね、ちゃんと説明することを約束し解放してもらった。
そして寝ると伝えて部屋に戻り、そのまま時空間で天然魔力風呂のある洞窟の前にきたアクセル。
「宿の風呂も良いけど、やっぱこっちだよなぁ」
そう言いながらロア、ロイと共に極上の風呂を堪能した後、部屋に戻り眠りについた。
昼過ぎに目を覚まし、街にでる。
幸い住民に死人は出さなかったが、冒険者、領主の私兵には死人も出ており、街の建物もそれなりに被害があったようだ。
そしてそのまま復興の手伝いを始める。
▽▽▽
後日ギルドの会議室に集まった、ギルド長、アリー、コリン、アネッサ、そしてアクセル。
「では副ギルド長、始めてくれ」
そう言われ話し始めるアリー。
「では、まず…」
「ちょっと待って!アリーって副ギルド長だったのか?」
「言ってなかったっけ?こう見えて私はなかなか優秀なんだよ?」
ケラケラと笑っているアリーをギルド長が諌め、話が始まる。
今回の魔物雪崩は前兆がなく、突如として街の南から襲ってきたそうだ。
南には森の先に広大な湖が広がっている。
それを聞いたアクセルは首を傾げる。
(おかしい…魔力溜まりは北の岩山にあるはずだ。なのに南から…)
この地の魔力溜まりは魔力風呂の岩山のさらに奥。その地下深くにある。
当然アクセルは見つけていたのだが、人が足を踏み入れることは出来ない場所の為、アクセル自身もその目で確かめてはいない。
そして魔物雪崩は魔力溜まりから影響を受けるやすい為、魔力溜まりの近場が最も影響を受けやすいとされている。
そして今回の魔物雪崩は被害こそ出してはいるが、規模としてはかなり小さいものだった。
(もしかして、もう一つあるのか……)
複数の魔力溜まりがそう距離をおかず、存在することは今まで確認されていない。
だが、そうとしか思えない。アクセルはアリーの話を聞きながらもそんなことを考えていた。
(後で見に行ってみるか…)
「最後に今回の魔物雪崩により討伐された魔物たちは冒険者、ギルド職員、街の有志たちが総出で処理を行っています。報告は以上です」
「うむ、ありがとう。では、次に君たちの依頼の報告を聞かせてもらえるかな?」
そしてアネッサがバジリーペントの存在を報告し、縄張り範囲を立ち入り禁止区域とすることを進言した。
頭を抱えるギルド長と表情の固まるアリー。
「それで危険はないのかね?」
ギルド長の言葉にアクセルが反論する。
「あるに決まってるだろ!だから刺激しないように人の立ち入りを禁止するんだ。それでも襲われるなら自然の脅威として諦めろ」
そして討伐云々といった話が始まるが、アクセルにより黙らされた。
「で、ではこれについてはコリンさんのマップとアクセル君の意見をもとに立ち入り禁止区域を定めることとする。報酬は後日という形になってしまうのが心苦しいが非常時故、勘弁して頂きたい」
そして探索依頼の件についても話が終わった。
「最後にアクセル君、とりあえず今日の所は★3に昇格をすることを伝えておこう。また後日に魔物雪崩鎮圧の功績による昇格があると思っていてくれ。それでは今日はこれにて解散としよう」
こうして諸々の話し合いは終わったのだが、ギルド長以外はその場に留まった。
「じゃあアクセル君、先日の説明お願いね」
コリンが笑顔でアクセルに問う。
「え?でもまだアリーがいるし…」
「えー?私だけ除け者なの?」
何のことか分かっていないようだか、除け者にされるのが嫌なのだろう。
「はぁ…分かったよ…じゃあ全員俺に触れて目を閉じて」
そして魔力風呂のある…ではなく、湿原に時空間で降り立った。
「「「………」」」
目の前の光景に言葉が出ない三人。
「まぁこんな感じで俺は時空間魔法ってのが使える。あまり人には見せないようにしてるし、魔力も凄く使うから他の人には内緒にしといてくれ」
そしてまたすぐに会議室に戻ってきた。
(ロア、ロイ呼んでもいいか?)
(はい)(うん)
その言葉を聞き、未だ微動だにしない三人をよそにアクセルはさらに続ける。
「今から新しい仲間を呼ぶから驚かないでくれ」
そしてロアとロイを目の当たりにしてもアクセルに触れたまま、全く動かない三人であった。
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