34話 ルプレックス
平原一帯に響き渡った咆哮。
「あいつら、あの時の」
街の西方向、そこには夕日を背に受け悠然と立つ狼達がいた。
体も大きくなり、かなり成長している。
そして、凄まじい速さで駆け出す。
すれ違い様に魔物達を引き裂きながら、スプリットベアー三体のもとに辿り着き、対峙する。
突然の出来事に動揺を隠せない冒険者たち。
「る、ルプレックス…」「うそだろ…」「……」
ルプレックスと呼ばれた狼達。
他の冒険者などには目もくれず、スプリットベアー達を前に唸りをあげている。
そして、瞬く間に二体の熊の頭を引き裂き、そして残る一体も左右から引き裂かれ、無惨に崩れ落ちた。
そして、そのまま狼達はアクセルの元に駆けつける。
「お前達…手伝ってくれるのか…」
「「ウォン」」
「はは、ありがとな。よし!じゃあやるか!!」
その言葉の直後、狼達が咆哮を上げる。
「おぉ!凄いな」
アクセルが驚くのも無理はない。
咆哮を上げた直後、狼達に変化があったのだ。
白銀に輝く狼には澄んだ海のように美しい蒼の毛が体に混ざり、黒く輝く狼には夕日に燃える空のような茜の毛が同様に混ざっていたのだ。
「一気にいくぞ!」
そう告げるアクセルの剣にもぼんやりと魔力が覆っている。
そしてアクセルを中心に、狼達が追従する。
まるで長年連れ添ってきたかのような動きは、美しく、流れるかのようだ。
そして程なくして殲滅が終わった。
沸き立つ人達をよそに、アクセルはルプレックス達と向かい合う。
「助かったよ。ありがとな。それにしても逞しくなったな」
以前助けた子達だ。愛着もあり、どこか親心のようなものを感じていたのかもしれない。
「アナタ…タスケタ…ワレラ…ウレシイ」
狼達はアクセルの前に並んで座り、白銀の狼がゆっくりと紡ぐように声にした。
さらに続ける。
「ワレラ…タタカウ…チカラ…シメス」
おそらく戦えと言っている。言葉の意味は即座に理解した。
しかし戦う理由がない。なによりアクセルは戦うことも嫌っている。
しかし。
「わかった。力を示せってことなら、俺は剣を使わない」
そして剣をその場に置いた。
決して侮っているわけではない。自分の身一つで力を示したかったのだ。
戦いたくない、傷付けたくもない、しかしそんな感情を差し置いても戦わなければならない。そう感じ取ったのだ。
「カンシャ…」
その言葉のあと距離をとる狼達。
すでに日は落ち、月明かりが周囲を照らす。
そして、黒が動きだす。同時に白も動いた。
アクセルを左右から挟み込む様に爪が襲う。
黒の爪を交わすが、交わした先に白の爪が待っている。
手で受け流し、反撃しようと足に力を込めるが、すでに黒爪が迫ってきている。
それを再び受け流し距離をとる。
直後、咆哮をあげた狼達に蒼と茜が混じり、さらに同色の魔力が一回り大きな爪を形取り、爪を覆う。
(あれは不味いな…)
魔力を打ち消す力を持つアクセルだが、直感がそう告げている。
そして繰り返される先程の攻防。
違うのはアクセルの手が裂け、血を流していることだ。
直撃は受けていないはずだが、爪に纏う魔力がアクセルを引き裂いたのだ。
さらに続く攻防。
しかし狼達は素直すぎる。
纏った魔力は脅威だが、必ずどちらかが仕掛けると一方は対極にいる。
それを逆手にとり、黒の腹に掌底を叩き込んだ。
そのまま追撃し、横たわる黒の胴に目掛け、踵を振り下ろす。
直撃を受けても尚、ヨロヨロと立ち上がる黒だったが、力尽き、再び横たわった。
だが、それを機に白が更に変化する。
咆哮をあげた後、その両目の下には茜が線を引いている。
そして一段と速くなり、アクセルを攻め立てる。
今まで直後を避けてきたアクセルだったが、ついに捉えられ、その胴に爪痕が刻まれた。
それでも怯むことなく、激しい攻防の繰り広げ、遂に白に馬乗りになり、左手で首を押さえつけ、拳を構えた。
「はぁ、はぁ、まだやるか?」
「ワレラ…マケ」
その言葉を聞き、アクセルは下がって座り込んだ。
「お前ら、ホントに強いな…俺もまだまだだ」
直後アクセルの元に歩み寄ってきた狼達は目の前に座り、白が言う。
「ワレラ…トモニ…イキタイ」
一瞬固まるアクセルだったが、すぐに笑顔で狼達を抱き寄せる。
「あぁ、一緒にいこう!」
直後、狼達は光の粒となった後、アクセルと一つになった。
そして、アクセルは胸に手を当てる。
「こい」
静かに放たれたその言葉と共にアクセルから再び光が溢れ、白と黒が姿を現わす。
そしてそれぞれの頭に手を置き、告げる。
「ロア、ロイ。これからよろしくな」
▽▽▽
街に帰り、魔物雪崩でアクセルの戦いを見ていた者達が口々に感謝を述べる。そしてギルドに戻るように言付かった。
ギルドに入るとアリーがすぐに出迎えてくれた。
他の者達は後始末に追われ留守のようだ。
アリーはアクセルの帰りを待っていてくれたのだ。
「アクセル君!良かった、無事だったんだね」
「あぁ、問題ないよ」
「そんな怪我してるのに強がる必要ないでしょ?」
「あぁ、これは違うんだ。丁度いい、紹介するよ。おいで、ロア、ロイ」
そして姿を見せた白銀の狼ロア、そして黒の狼ロイ。
「こっちがロアでこっちがロイだ!可愛いだろ?」
「…………」
「ん?おーい!聞いてるか?おーい」
立ったまま気を失うという珍しい体験を初めてしたアリーであった。
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