33話 魔物雪崩
湿原を出て二日。
この日のうちにはアートランに到着出来るだろうと、夜明け前から行動を開始する。
現在昼食の為、休憩をとることにした三人。
このままいけば日が落ちる前にはアートランに着けそうだ。
「こんなに順調な旅路は初めてだよ」
「たしかに。魔物との戦闘がないだけで、こうも目的地に早く着けるとは…君のおかげだな」
本来は片道五日程はかかるのだ。しかしアクセルの先導により魔物を避けて進む為、驚異的な速さで旅路を進んでいる。
しかしアートランに近付くにつれ、アクセルはどこか落ちつかない。僅かだが心の底に焦りの様なものを感じるのだ。
「………」
「どうしたの?元気ないね」
先程から口数の少ないアクセルを心配したコリンが声をかけてくれた。
「いや、なんでもない。だけど、なんか嫌な感じがするんだ…それが何かはわからないけど」
顔を見合わせるコリンとアネッサ。
二人には時空間魔法のことは伝えていない。アシュリットを旅立つ際、ミラに面倒事の種だ。と言われ、人には見せないようにしていた。
「そうか。ならば一刻も早く戻ろう。私も魔力風呂が恋しいしな」
「私もー」
なんの根拠のない感を信じてくれた二人に感謝の言葉を述べたあと、早速行動を始める。
そしてそれからしばらく進むと、アクセルの感は当たってしまった。
「まて、おかしい。魔物が多すぎる。それに…」
バジリーペントを目の前にしても動じなかったアクセルがかなり焦っている。
コリンとアネッサも顔を見合わせ、只事ではないと確信し頷き合った。
「少し様子を見てくる。ここにいてくれ」
「わかった」「無理はしないでね」
そして走り出すアクセル。
「はや!!」 「!!!」
あっという間に見えなくなったアクセル。
今までアクセルが自分達に合わせて行動をしてくれていたことを理解した二人。
同時に自分達以上の実力を持っていることを悟った。
「これは…なんで…」
魔物達の群れを木の上から見下ろすアクセルは、そう呟いたあと、時空間で二人の場所に戻った。
突如目の前に現れたアクセルに驚く二人だが、構わずアクセルは口を開く。
「アートランが襲われている。魔物雪崩だ…」
「な、なんだと!?」「……」
「魔物達の目が赤く光ってた。まず間違いない」
「「………」」
そして沈黙のなか静かに目を閉じていたアクセルは、目を開き、二人に告げる。
「今は説明する時間が惜しい。俺を信じてくれるか?」
顔を見合わせ頷きあったコリンとアネッサ。
「無論だ」「うん」
アクセルは礼を述べたあと二人の肩に手をそれぞれ置いた。
「目を閉じて」
そう言われコリンもアネッサも無言で目を閉じる。
妙な感覚のあとアクセルの手が離れたことを確認した後、目を開ける。
「な!?ここは…」「…ギルド長室?」
「き、君たち一体どうやって…」
コリンの言う通りそこはギルド長の部屋、そして本人も勢い良く椅子から立ち上がった。
▽▽▽
(俺は俺の出来ることをやろう…)
アクセルはコリンとアネッサをギルド長室に送り届けたあと、すぐに元いた場所に戻っていた。
そしてまたアートランに向けて走り出した。
魔物雪崩の全容を確かめるためだ。
(…多いな…なんでこんなに…)
魔物は毎日討伐依頼を受ける冒険者達が間引きしていた。
にも関わらず、200程の魔物達がアートラン目指し、進んでいたのだ。
そして平原に出る。
すでに戦闘は行われている。
しかもかなり押されているようだ。
「くそ、さっきの奴らは追加分か…」
魔物雪崩の本体はすでにアートランに迫り、すでに冒険者たちと戦闘を行っている。
アクセルもその渦中に飛び込んでいく。
魔物雪崩を引き起こす魔物達は自我を忘れ、その目は血走ったかの様に充血し真っ赤に染まる。
そして今平原にはそんな魔物が約300程いるのだ。
そしてその中には★6や★5に分類される魔物も多くいるため、冒険者達は苦戦を強いられている。
魔物の群れのど真ん中まで切り込んだアクセルだが、周囲に冒険者の姿はない。
完全に孤立してしまっているが、それでいい。
最前線で魔物を引き受け、体制を立て直させようとしているのだ。
▽▽▽
すでに100体は魔物を倒したアクセルだったが、依然、冒険者達には動きがない。
「くそ、どうなってる…」
魔物を相手にしながらそうボヤく。
そして一度、魔物達から距離をとり街の方を見た。
「あいつらが邪魔してるのか、くそ」
街の入口付近にはスプリットベアーが三体、まるで連携するかのように暴れ回っていた。
★6の魔物がパーティーを組んでいるようなものだ。
並の冒険者では歯が立たない。
しかし、アクセルも未だに数が減らない魔物達に囲まれ、駆けつけることが出来ない。
仮に駆けつけることが出き、スプリットベアーを倒したとしても、今度はアクセルが現在抑えている魔物達が雪崩込む。
状況はかなり悪い。
しかし状況がかなり悪いだけで済んでいるのはコリンとアネッサの存在が大きい。
魔物達の援軍が突如止まったことが、アクセルによるものだとコリンとアネッサは即座に理解し、ギルド長に報告。
そして、全力でスプリットベアー討伐に戦力を当てることを進言していた。
だが、そろそろ日が落ちる。益々状況は良くない方に流れていく。
その時だった。
「「アオーーーン」」
突如、重なり合うような咆哮が平原一帯に響き渡った。