32話 魔法の金槌
コリンとアネッサの身支度が終えたことを確認し、アクセルも身体を濡らした布で拭く。
その後服を受け取り、ようやく一段落つけた。
「しかし、あの蛇大きかったな!あんなの初めて見たぞ」
ハッハッハと笑うアクセルにアネッサが言う。
「笑い事ではない!君はバジリーペントを知らないのか!?かつて大陸を支配したと言われている伝説にも近い蛇だぞ?」
「へぇ。詳しいんだな。まぁあの巨体だから300年くらいは生きてるだろうなぁ」
バジリーペントとは頭に王冠の様なものがあるのが特徴の大蛇で、王冠がないものはリーペントと呼ばれ★6の魔物に分類されている。
「帰ったらすぐに討伐隊を編成してもらう必要がありそうだ」
「待て待て待て!!なんでそうなるんだよ」
「しかし、このまま放置するわけにもいくまい」
「あのなぁ、それは人間の都合だろ?あの蛇も暴れるならとっくにやってるよ。300年くらい生きてるのに、理由もなく突然暴れるなんてことないんだよ。それにかなり知能も高い。アイツなら自我を忘れて暴走することもないし、そっとしておくのが一番良いんだよ」
アクセルの力のこもった言葉に何も言い返せないアネッサ。
少しの沈黙のあとさらにアクセルが続ける。
「どっちみち討伐なんかしたら、この湿原一帯の魔物と敵対することになる。そこまでする必要も無いだろ。この湿原に入らないように言うだけで解決することなんだし、それでも入る馬鹿は食われても仕方ないだろ」
「…たしかに君の言う通りだ。すまない」
「人間は何でもかんでも欲しがりすぎなんだ。この世界で生きてるのは人間だけじゃない」
「…その通りだ。しかしバジリーペントの存在は報告するべきだと思うのだが」
その後もどのように報告するか三人で話し合った後、各々、夜を過ごした。
アクセルも見張りの為、眠らずに本を読んでいる。
「何読んでるの?」
「ん?これは鍛治の本だな。最近文字覚えから鍛治の勉強もしようと思ってさ」
「鍛治に興味あるんだ?」
「まぁ、そうなるかな。旅してる時は自分で武器を手入れしなきゃいけねぇし、ある程度は習ったけど、ある程度だからな」
コリンも寝付けない様子だが、すこし話をしたあと、おやすみと告げアネッサの元に戻って行った。
翌朝、恐怖から眠ることが出来ずそのまま夜を明かしたコリンとアネッサは、朝食の準備をしながらアクセルについて話していた。
「元はどこかの国お抱えの魔法使いとか」
「その割には若すぎる…高名な魔法使いの弟子というのが私の意見だ」
ずっとこんな感じでアクセルが何者なのか考察していた二人。
まだ15と若いながらもしっかりとした考えを持ち、そしてそれを貫く意思と実力を持っている。
二人はアクセルに興味津々だ。
「おはよう。早いな」
「「おはよう」」
「何話してたんだ?」
「君のことだよ」
「冒険者になる者は、過去になにかしらを抱えている者が多い。過去を詮索する気はないのだが、君があまりに優秀すぎるからな…」
「二人で予想してたんだぁ」
「まぁたしかにあんまり過去は聞いて欲しくないな。昨日も言ったけど、冒険者になる前はある理由から旅してたんだ」
二人が用意してくれた朝食を食べながら、可能な範囲で自分のことを話していく。
下手に誤魔化すことも、アクセルが出来ないので、話せないと正直に伝えた。
「そうか。それとなんだが、私達は君のことが気に入った。パーティーを組む気がないことは理解している。だからまた今回の様に一緒に依頼を受けることは可能か?」
「それくらいなら良いぞ」
「よかった。お礼にはまだ早いかもしれいないが、昨夜コリンから君が鍛治に興味があると聞いたのだが」
「あぁ、今本を読んでるな」
「であれば、これを貰ってくれ」
アネッサが差し出したのは、淡い緑の光を放つ金槌だ。
「これはかなり貴重な魔道具なのだが、私達の手には余るのだ。貰ってくれないか?」
「貴重なんだろ?良いのか?」
「構わない。というのも正確には私達含めほとんどの者が扱えないのだ」
この金槌は力ではなく魔力を込めて叩く為、魔力を通さなければ、人を殴ったとしても痛くも何ともない。
しかし魔力を込めれば、込めただけの力で叩けるが、一振ごとに魔力を込めないといけないため、効率も悪く、また売ったとしても需要がないため大した金額にもならない。
しかしアネッサの言う通り貴重なのは間違いなく、この金槌を使えば、ほとんどの素材を溶かして柔らかくしたりする必要がないのだ。
魔力の多いアクセルにピッタリの金槌だ。
「そういうことなら有難く貰うよ。俺は魔力だけは多いからな」
「喜んでもらえてなによりだ」
そして野営の片付けをした後、三人はアートランに帰るため歩き始めた。
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