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31話 湿原のヌシ

アートランの東、目の前には湿原が広がっている。


顔合わせをした二日後、アートランを出発し、それからさらに三日かけて湿原に辿り着いた。


「とても今更なのだが良いだろうか?」


「うん?」


「君は戦闘に関してどれくらい頼れば良いだろうか?」


コリンとアネッサ、二人とも魔力風呂に感動するあまり、依頼に出発してからも、どこか浮き足立っていた。


そしてアクセルの魔力操作にばかり目が行き、肝心の戦闘に関して問うのを忘れていた。


ここまでの道中もアクセルが魔物達を避けて来た為、襲ってくる魔物はいなかった。


「まぁそこそこ戦えるぞ。冒険者する前は旅もしてたからな」


「そ、そうか。本当にすまない。これでは★5冒険者など恥ずかしくて名乗れない」


戦力の把握を怠ったとアネッサは落ち込んでいるようだ。


「それより、ちょっと止まれ。多分ここから先がここのヌシの縄張りだ」


その言葉にコリンとアネッサも気を引き締める。


「承知した。しかし君のその探索力は凄まじいな。ヌシの縄張り範囲まで分かってしまうのか?」


「これは経験からくる感だ。多分って言っただろ?」


常に森を歩いてきたアクセルの感だ。間違いはないだろう。


「ということはそのヌシが人を襲ってるってこと?」


「だろうな。だけど、こんな所に入る奴のほうが悪いだろ。縄張りを荒らされたら誰だって怒る」


「しかし、迷い込みやすいのは確かだ。脅威があるのであれば確認しておいたほうが良いだろう」


「人が襲われたって所はまだ奥だよな?行くなら俺の言うことは守って欲しいんだけど、良いか?」


「うむ、先導してくれるのは君だから私は異存はない」


「私も大丈夫だよ」


こうしてアクセルの指示のもと、湿原の奥を目指す三人。


「洞窟か…」


「脅威が潜むってなるとここだな」


「深そうだね…これはマップ作った方が良いよね」


アクセルがいれば洞窟内で迷うことはないが、いざと言う時のため、そして今後のことも考えてコリンはマップを作成しながら洞窟を進むことになった。


「じゃあこれから入るけど、絶対に先に手を出すなよ?縄張りに侵入してるのは俺たちなんだ。襲ってきても殺す必要はない。あしらって逃げるからそのつもりでいてくれ」


そして陽光石を取り出し洞窟を進んでいく。

陽光石には軽く布を巻き付け、光量を落としている。目が弱い者への心遣いは忘れない。


しばらく進むとアクセルが急に立ち止まり、手で二人を制した。


なにも言わずただじっとするアクセルにコリンとアネッサも警戒を強くする。


そして


突然コウモリの群れが上空を通り過ぎていった。


「うーん、偵察かな」


そんなことを呟いたあと、また奥に進んでいくアクセル。


「…驚いた…」ヒソヒソ


「…あぁ、しかし彼は全く動じていないな」ヒソヒソ


「逸れるなよ?それともうすぐ広い場所に出るぞ」


アクセルの言う通りしばらく進むと、水脈が流れる広い空間に出た。


「広いな…それにさっきからなんの音だ…」


ここに近づくにつれ何かが地面を這うような音が常に付き纏ってきていた。


「ここのヌシだな。さっさと地図書いたらここ出るぞ」


そう二人に言った瞬間、ズズズと這う音が大きくなり、その巨体が三人の前に現れた。


「バ、バジリーペント…」


「あ、あわ、あ…」


その頭には王冠の様な毛が生えており、岩の様な身体を持つ大蛇が現れた。

体中に生えた棘の様な物が周囲の壁をガリガリと削りとっている。


「動くなよ。黙ってじっとしてろ」


アクセルは落ち着いているが、アネッサは足が凄まじい勢いで揺れている。

コリンは腰が砕け、ヘタレ込み地面を濡らしている。


バジリーペントと呼ばれた大蛇はアクセルの前に顔を寄せると、舌をチロチロ出し、アクセルをじっと見据えている。


「荒らす気はないんだ。すぐ出ていくよ。悪かったな」


まるで友達と話しているかのように大蛇にそう告げる。


そして大蛇は顔を引き、その視線を自らの胴体に向ける。


「ん?あ、脱皮の途中だったのか?手伝ってやろうか?」


そういうとアクセルは臆することなく大蛇に近付き、大蛇の古くなった皮を引っ張っていく。


「これで終わりだな」


最後の皮を剥がすアクセルを大蛇は遠くから見つめている。

そして、尻尾の先の残った皮をアクセルに投げつけるように飛ばしてきた。


「おっと!くれるのか?ありがとな。じゃ俺達は出ていくよ。邪魔して悪かったな」


そして二人の元に戻ったアクセルはアネッサの元にいき、耳元で囁く。


「これ、匂い消しだから、そこの地面に垂らしといて」


アネッサは黙って頷く。


アクセルはコリンを背負い、アネッサが地面に匂い消しを垂らし終わったのを確認すると、その空間を出た。


しばらく沈黙が続くなか、物音に反応し、アネッサが剣を抜こうとする。


「ダメだ。今抜いたら死ぬぞ?」


すぐに柄頭を抑え、アネッサを宥める。


「し、しかしあれはヴァイパーリザードだぞ?」


「いいから、黙って付いてこい」


直後アクセルの腰辺りがさらに濡れてしまったが、気にせず、そのまま洞窟を進む三人。


そしてやっとの思いで洞窟を出た三人であったが、アクセルは止まることなく進んでいく。


「ま、待ってくれ。少し休憩した方が…それに既に日も落ちている」


「だからだろ?ここはまだ、あの蛇の縄張りだぞ?お前達はアイツが口開けて目の前にいる状態で休憩出来るか?」


「す、すまない、急ごう」


そして、湿原を抜ける三人だが、既に辺りは真っ暗だ。


なんとか野営場所を確保し、一息つく。


「ごめんねアクセル君。すぐに服洗うから」


「あー、じゃあ服、脱ぐから待ってくれ」


「魔法使うから大丈夫だよ?」


「とにかく待って。あんたらも水浴びとかするんだろ?その合間にやってくれたらいいからさ」


こうして裸になり、剣だけを持ち、周囲の警戒を始めるアクセル。……かなりシュールだ。


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