26話 魔力風呂
報酬を受け取りギルドを後にしたアクセルは再び街の外へとやってきた。
そして人目のない所まで移動すると、魔力を薄く展開し、念入りに人目がないことを確認すると時空間魔法を使い、岩山の中にある洞窟の入口に降り立った。
そしてチュチュ袋からある石を取り出す。
これは光を溜め込み、暗くなると発光する陽光石と呼ばれるものだ。アクセルの石コレクションの中の一つでもある。
陽光石で洞窟を照らしながら奥まで進んでいく。
そして広い空間がある場所に着いた。
その空間の中央には何やら湯気の様なものが立ち昇っている。
天然の魔力風呂だ。
早い話が温泉である。
この世界にも温泉はあるが、火山地帯に多く、あまり数は多くない。
そして魔力風呂はもっと少なく、薬草採取の傍らアクセルが見つけ出したのだ。
魔力風呂は高濃度の魔力が多く集まる場所に出来、魔力を有する者達には様々な恩恵を与えてくれる。
魔力は一度、生物を経由してしまうとその生物の魔力に染まり、他者に干渉すると有害なのだが、魔力風呂はその心配が一切ない。
そして高濃度故に水も温められ、とにかく最高なのだ。
アクセルはチュチュ袋から底の浅い桶を取り出すと、服を脱ぎ、お湯を掬って身体を流したあと魔力風呂に浸かった。
「あぁーーーーーーー」
とても長い息を吐き、身体をゆったり伸ばす。
沈んだ気持ちも解れていくようだ。
(やっぱりこれの報告はやめとくか…)
ギルドへの報告のことだ。異変や未知のものを発見した際には報告の協力を頼まれているが、発見者の意志を尊重するとのことだった。勿論異変に関してはその限りではない。
そしてアクセルが報告を躊躇う理由は目の前にある。
このお湯に浸かっているのはアクセルだけではないのだ。
そこには熊や猿、犬といった様々な種類の魔物達や動物もいるのだ。
しかしここでは一切の争いが起こらず、アクセルを含む全ての者が他者を襲うことは皆無なのだ。
(全部ここみたいに平和だと最高なんだけどなぁ)
魔力風呂を堪能したあと、洞窟を歩いてでる。
魔力風呂のある場所から直接、時空間で飛ばないのはそこにいる者達を魔力を使って驚かせたくないというアクセルの心遣いだ。
時空間で戻ったあと街の入口に向かうと門番の男が話しかけてきた。
「よう、またどこに行ってたんだ?そっちは岩山しかないだろう」
「まぁ、ちょっとな」
アクセルがアートランに来た時に対応してくれた門番だ。
魔力風呂は、ここに来た次の日に発見して以来毎日入っている為、かなりの頻度で街を出入りしている。
その為自然と門番の男と接する機会も多く、そこそこ話す仲になっていた。
街に入りそのまま宿に戻る。
「おばちゃーん」
「あいよー。あんた今日はやけに早いじゃないか」
そう言いながらもモーラが出迎えてくれた。部屋の鍵を受け取りベットに横になりながら目を閉じる。
(やっぱり俺の頭じゃ答えなんて出ないよな…アリーに聞こう)
しばらく悩んだ末、結論をだし部屋でた。
「おばちゃん、飯食べれる所教えて」
「あんた、今までどうしてたんだい?」
チュチュ袋に入れておけば傷む物はないのだが、せっかくの保存食を食べ尽くすのも勿体ないと思い、気分転換も兼ねて外で食べようと思い立ったのだ。
モーラに呆れられつつも場所を教えてもらい、その場所に入るとそこには冒険者ギルドで見たことのある顔ぶれが多数いた。
冒険者に人気の酒場のようだ。
店で料理を食べたことがあまりない為、どの料理も美味しく頂き、満足したあとその店をでた。
すると、偶然アリーにバッタリ出くわした。
「あ、アクセル君!こんばんは」
「こ、こんばんは」
昼間の事があり、やや気まずいアクセルだったが、アリーは構わず続ける。
「偶然だね!もうご飯食べちゃったかな?良かったら一緒にどう?」
「ちょうどここで食べ終わったばっかりだ。でもちょっと話があるからついていくよ。」
「話?なになに?ちょっとドキドキしちゃうな」
ニヤニヤするアリーと違う店に入った。
少々高そうなバーといったところか。
「アクセル君はお酒は飲む?」
「飲んだことはあるけど、今はいらない」
そっかとアリーは言うと料理を注文し始めた。
そしてアリーが食べ終わるまで世間話や相槌で過ごす。
「で、肝心の話っていうのは何かな?」
「相談があるんだ。ここでは呼び方違うかもしれないけど、魔力風呂って知ってるか?」
極力声を抑えて尋ねる。
「勿論知ってるよ。それに名称も同じだよ。それがどうかしたの?」
「みつけた」
「!!!!!!!」
あまりのことに声すら出なくなったアリー。
「本当はギルドには報告したくない。で、相談っていうのはここからなんだ」
▽▽▽
店を出た二人。
「じゃあ明日な」
「うん。まだちょっと信じられないけど」
再び宿に戻り少しの不安と共にアクセルは眠りについた。