14話 モモチュー 前編
長くなったので分けました。
「じゃあな、じっちゃん。じっちゃんの魔力は覚えたから、また今度会いにいくよ」
「うむ、まさか時空間魔法まで使えるとはの」
「ハハ、最近は上手く使えないけどな」
ドランと別れ再び旅を始める。アクセルは常に剣に触れ、ウッキウキで歩いている。
(…走ろうなんて言い出さなければいいが…)
そんなことを思いつつミラも後に続く。
(しかしドラン様には感謝だな。随分と表情が明るくなった)
これは復讐の旅ではあるが、アクセルもミラも随分と前から旅自体を楽しむようになっていた。
特にアクセルは見たことが無いものに目を輝かせ、これが本来の笑顔だと思わせる表情もするようになった。
しかしここ一年ほど、常にどこかその表情は曇り、負の感情を目の当たりにした際にはより顕著に現れ、夜な夜などこか消えるなんてことをミラは何度も目撃している。
これをミラは、アクセルの負の感情に呼応し魔力が暴れ、何とか抑え込もうとした行為だと推察した。
アクセルは素直で純粋で感情的だ。負の感情の影響も受けやすい。
そんなミラをよそにアクセルは度々、剣を自慢してくる。
分かった、分かったと適当に流しているミラだが、久しぶりに見たアクセルの純粋な笑顔に満更でもないようだ。
▽▽▽▽▽
「凄い人だな…宴でも始まるのか?」
山奥で見つけた村を見ながら呟く。
小さな村に数十人が集まり何やら、やる気になっている。
「たまには立ち寄ってみないか?くだらないことであればそのまま去ればいい」
「そうだな」
村に入ると一軒の民家に人が列を成している。
アクセル達も並び、前にいる男に声をかける。
「なあ、これって何に並んでるんだ?」
「あぁん?なんだガキか…」
振り返った男はいかにも荒事が好きそうな言動と格好をしている。
「情報を売ってもらう為だよ」
「なんの?」
「何も知らねぇなら俺が答える必要もねえな」
男は前を向いて、これ以上話かけるなと言わんばかりの雰囲気を出している。
「金って今400ポルンくらいあるよな?足りるかな」
「さあ、しかしこれだけの人を惹きつけるだけの価値がきっとあるのだろう…」
しばし周りを見渡しながら順番を待つ。
民家に近づくと前の様子も見えてきた。中に入った者達は、何やらメモらしきものを手に持って出てきている。
どうやらあれを買い取っているらしい。
そしてアクセル達の番がきた。
「こんにちはー」
元気よく挨拶しながら中に入ると、そこには椅子に座り、杖をついている老人がいた。
側には小さな机があり、白紙の紙が置いてある。
「おや、随分元気のいい若者だ」
「なあ爺さん、これってなんの情報を売ってるんだ?俺達、金あんまりもってないけどそれが知りたくてさ」
「おや、何も知らずこんな山奥まで来たのかい?」
「うん、旅してるんだ」
「このご時世に旅とは…まあ、何も聞きはせん。質問の途中じゃったな。ここではモモチューと呼ばれる魔物の情報を売っておる」
「魔物…」
「本当に何も知らんのじゃな、ああ、それと金はいらんぞ。お主達は他の者達と違うようじゃからの」
意味深なこと告げる老人に首を傾げながらも、その情報を教えてくれた。
モモチューという小型の魔物は特殊な袋を一個体、一個持っている。
そしてその袋は、袋に入る大きさの物なら無制限に収納出来るという夢のような袋だ。
その袋を求め現在この村には、常に人が押し寄せている状況らしい。
「へえ、便利な袋があるもんだな。でもさ狩りをするような身なりしてる奴いなかったよな?」
「そうじゃな、モモチューは警戒心が一際強く、またとても敏感じゃ。武器なんぞ持って住処に入っても出てこんよ」
そうだよな、と納得しているアクセルにかわりミラも質問する。
「しかし、そこまで警戒心が強い魔物が、なぜまだこの辺りにいるのでしょう?遠くに逃げてもいいだろうに…」
「ふふふ、それはじゃな、袋を手に入れる方法にも関係するんじゃ。そうじゃ、お主達の後ろに並んどる者はおったかの?」
「いや、俺達が最後だな」
「ふむ、では存分に語ろうかの」
老人は腰をあげ二人を部屋の奥に案内すると語り始める。
「モモチューの袋を手に入れるには、その持ち主であるモモチューに認めて貰わねばならん。その方法は早い話が追いかけっこじゃ」
「捕まえたら、認めてくれるのか?」
「そうじゃ。だが簡単ではないぞ。モモチューの走る速さは魔物一と言っていいほど速いからの。しかも身体が小さいのじゃ」
この話が真実であったとしても不明なことが多過ぎる。考え込むミラをよそに、アクセルはあっさりとミラ疑問の答えに辿りついた。
「つまりその魔物にとって袋は景品、追いかけっこはそのまま遊びなんだろ?」
「鋭いな、お主。正解じゃ。正確には、袋をより大きくする為に逃げ切るということがモモチューには大事なんじゃ。そしてより袋が大きい者が高い地位に付くというわけじゃ」
「なるほどなぁ…ん?爺さん、この情報売ってるんだよな?何で俺達は金がいらねぇんだ?」
「お主たちが金に執着しておらんからじゃ」
微笑み答える老人。
いまいち理解できていない二人にさらに続ける。
「モモチューの袋はの、二種類あるんじゃ。一つは極稀に市場に出回る袋。もう一つはモモチューに認められ得られる袋。これには明確な違いがあるんじゃ」
要約すると、市場に出回るのは偶然モモチューが他者に気づかず驚き落とした物であり、次の袋が出来上がると只の袋になってしまう。言わば時間制限付きの袋なのだ。しかしそんな紛い物でも目を疑うような金額が付く。
そして追いかけっこに勝利し、正式に譲り受けた物は時間制限も付かない本物なのだ。
「ワシの情報に群がる者達はモモチューのことを金の成る木としてしか見ておらん。そんな邪な考えを持った者達にこんな情報を伝えても無駄じゃ。小細工をしたところで認められんと意味もないしの」
「なるほど、爺さんは俺達にモモチューの遊び相手になって欲しいんだな」
「ホッホッホ。そういうことじゃ」
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