162話 決死の一撃
更新遅くてすみません
目の前のアクセルの状態は、一目見るだけで無理をしている事を全員が理解する。
しかし無理をするなとは誰も言えなかった。
アクセルの魔装がなければ今の神喰いに敗れるのは時間の問題だ。
今、生き残るには無理も無茶もしなければならない。
深手を負ったステラがそんなアクセルを支えるように隣に立つ。
「まだ…まだ」
ステラに支えられながらも、絞り出すようにアクセルが呟くと、顔面から垂れ流す血がさらに勢いを増すと共にアクセルの体がブレる。
「マスターがもう1人………」
アクセルのブレた体はゆっくりとアクセル自身の隣に並び立つ。
アクセルはもう1人の自分に白銀の剣を投げ渡す。
「ステラ…補助を頼む」
それだけ告げ、2人のアクセルが神喰いに疾駆する。
アクセルは兼ねてより自らに宿るクロノスを扱う術を模索していた。
クロノスは破壊をもたらす魔法ではあるが、その実態はいわばとてつもなく強大な魔力の爆発なのだ。
決して破壊したという結果をもたらす魔法ではない。
だからこそ活用方法を模索し続けた。
そして魔装状態の背後に浮かぶ光球をクロノスに置き換え、置き換えたクロノスに自らの姿を模したのだ。
さらに出来た分身に自らの無意識を反映させることにより、操作が必要な人形ではなく、意志を持って動く、まさにもう1人のアクセルが完成したのだ。
こうしてクロノスを利用した分身は完成し、さらに物に触れることが出来る質量を得ている。
この分身こそがアクセルのクロノスという魔法であり、アクセルが唯一使うことの出来る魔法となった。
1時離脱していたアクセルが戦線に復帰し、全員が魔装を施し、アクセルと同等の近接戦闘能力を持つ分身が加わったことで、神喰いとの戦闘はさらに加速していく。
アクセルと分身が主となり神喰いと攻防を繰り広げ、合間にミラ、ソニアが追撃を加える。
ステラはそんな仲間達から距離を置いた場所から氷で仲間達の足場を作り、神喰いの視界を遮りと、的確に補助をこなしていく。
防戦一方だった戦況は一気に覆り、神喰いを徐々に追い詰めていく。
（ここっ！）
アクセルと分身が神喰いの前後から剣戟を加え、間を置かずミラが浮遊する魔剣を神喰いに突き立て、雷を落とす。
その隙にソニアは天高くに飛翔し、身を翻す。
（この気を逃せば次はない…渾身の力をっ！）
ソニアは神喰いに急降下しながら、残った全ての力を拳に集める。
「はぁぁぁぁ！！！」
ソニアの接近に気付いた神喰いはすぐに避けようとするが、それをステラの氷が神喰いの足を凍らせ、一瞬ではあるがそれを阻む。
その一瞬の間にソニアは神喰いが避けられない間合いへと入り、自身の腕すら焼き焦がしながら荒れ狂う炎を纏った拳を神喰いの人間の姿をした上半身、その胸に叩きつけた。
ソニアの炎は神喰いに触れた瞬間、一気に弾け、神喰いの上半身の肩から上を吹き飛ばした。
しかし神喰いは上半身を吹き飛ばされながらも、下半身の前足でソニアを横薙ぎ蹴り飛ばす。
攻撃に全ての意識を集中していたソニアは、神喰いの一撃を防ぐことも出来ず直撃受け、ばかりか、急降下した勢いをそのまま利用される形となり、大きく後方まで吹き飛ばされた。
だがソニア決死の一撃により神喰いの人間の上半身と四足獣の下半身、その丁度中間に黒い結晶となった神喰いの核が見えた。
ソニアの安否が気になるが、ソニアが切り開いた活路。
これを無駄にすることは出来ない。
瞬時にミラが全ての魔剣を神喰いの下半身の足に突き立てる。
そして超重力でその場に縫い止め、雷を纏った腕で核を貫こうと核に迫る。
直後、神喰いが咆哮を上げ、体を変化させる。
翼だった部分がうねうねと無数の触手のように形を変わり、先端を槍のように鋭く尖らせ迫るミラを貫く。
「ぐっ………がぁあ"あ"！！」
ミラは無数の触手に体を貫かれながらも、自身共々紅い雷を神喰いに落とし、触手を塵に変えていく。
致命傷を受け、さらに全ての魔力を使い果たしたミラが力なく地面に倒れていく様子を視界の端に映しながらアクセルは分身と共に前後に別れ核へと斬り掛かる。
だが神喰いも隠していたのか、核の周りの肉体を変化させ再び2本の触手となり、アクセルと分身を同時に相手取る。
背後から迫った分身は、振り下ろした白銀の剣を跳ね上げられると同時に体を引き裂かれ、霧散してしまう。
アクセルは迫る触手を左腕を大きく抉られながらも、切り落とすが、直後分身を引き裂いた触手が迫る。
その触手に黒剣を振り下ろすが、剣が砕かれ腹部を貫かれる。
触手はそのまま伸び、核から大きくアクセルを引き離した。
「らあ"あ"あ"ぁぁぁっ！！！」
距離を離されはしたが、極限まで高めた身体能力で触手を引きちぎる。
（まだ………必ずアイツは来るっ！まだ止まるなぁ）
絶えず血を流していた為か、視界も歪み意識が朦朧としながらも、アクセルが叫ぶ。
「やれっ！ステラァぁぁぁっ！！！」
「やぁぁぁぁぁぁっ！！！」
ステラは宙に舞っていたアクセルの白銀の剣を空中で掴み、前方に一回転し神喰いの核へと剣を振り下ろす。
―キィィィィン―
核に剣が触れたと同時に引き金が引かれ、甲高い音が鳴る。
「ぐうぅ……」
ステラの全身にズンっと凄まじい衝撃が襲い、右肩を脱臼してしまうが、地面に降り立ち背後を振り返る。
ステラの視界に入ったのは端から塵となっていく神喰いの姿だった。
「やっ………」
ステラの言葉と同時に神喰いの体は塵となったが、その塵は黒い煙のように留まり、さらにステラを包み込もうと頭上から覆う。
「やらせるかぁっ！！！！」
アクセルの怒気を孕んだ声が聞こえると同時に、黒い煙を全ての魔力で覆った右腕で地面へと殴るように叩きつけるアクセルがステラの目に映る。
神喰いが必ず核を壊された後、壊した本人を取り込もうとすることを予感したアクセルは、ステラが剣を振り下ろす前にすでに動き出していたのだ。
地面を大きく陥没させ、その衝撃でステラも大きく吹き飛ばされる。
「………っ！マスター！！」
立ち上がったステラは陥没した地面の中央で膝を付くアクセルのもとへと駆け寄る。
近寄るとアクセルの右腕には黒い何かがまるで侵食するかのように巻き付いている。
「マスター…」
「さわるなっ！！……………き…………」
アクセルは言葉を最後まで言い切る事無く地面に倒れ込んだ。
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