160話 開戦
更新遅くなってすみません
「よし、ここで迎え撃つ」
ミラ達は街を出て周囲に何も無い平原で神喰いを迎え撃つ。
ステラの氷で罠や防壁を造ることも考えていたが、効果が見込めないこと、さらにその罠や防壁が自身達の妨げになると考え何も設置はしていない。
アクセルの言葉によると夜明けには神喰いがやってくる。
街には戻る意味もないため、この平原で夜を明かすことにした。
何も無い平原で火を囲むミラ、ステラ、ソニア。
絶望的な死が迫る中、火を囲む3人にはそれほど焦りや恐怖がない。
そんな中でソニアがぽつりと呟いた。
「なぜ………なぜマスターはあれほどの恐怖を抱いたのでしょう……」
過去強敵とは幾度も対峙してきた。
ソニアの祖父と対峙した際にも、アクセルは恐れを表に出さず皆の前に立っていた。
そんなアクセルが神喰いに対し、立ち向かう意志を折られるほどの恐怖を抱いていたことにソニアは疑問を感じていた。
「恐らく……より強く悪意を感じ取ったのだろうな」
ソニアの問に対してミラが静かに返す。
幾度も強敵と対し、恐怖を抱いたのは間違いない。
しかし恐怖の対象はその強さに対してだ。
強さを持った者同士が意志をぶつけ合う。
それを解決するのは、何も命の奪い合いだけでは無い。だからこそ立ち向かうことが出来た。
しかし今も尚、向かってきている神喰いは意志を持って殺戮を繰り返している。
同じように殺戮を繰り返している魔獣には意思がない。
強敵であった光、闇竜も自我はなかった。
唯一悪意をもって殺戮をしていたのは、過去にアクセルの故郷を滅ぼしたベヒモスくらいだ。
そんなベヒモスなどとは比べ物にならないほどの強さと悪意をアクセルは感じ取ったのだとミラが推察する。
「彼は純粋だから………幼少期から感情には敏感だった。人から悪意を感じ取った日には、よくクロノスを抑え込もうと1人出掛けて行っていた」
「人などとは比べ物にならないほどの悪意を持った強敵………」
「マスター、上手く逃げてくれたかな………」
ステラの呟きが虚しく夜の闇に溶けていく。
そして夜明けが近付くにつれ3人にも神喰いの存在が感じ取れるようになる。
「ふふふ、なるほど…………これはとんでもない化け物のようだ」
「ぜ、全身が震えますね」
「……………」
そんな時だ。
時空間を使い、アクセルが3人のもとへやってくる。
「………………」
「来たのか?」
何も言わず歩み寄ってきたアクセルにミラが問う。
「もう……良い。どうせならみっともなく足掻いてやろうと思っただけだ。そして死ぬつもりも、お前達を死なすつもりも、ない!」
「マスター…………」
まだ完全に立ち直れたわけではなさそうだが、アクセルも神喰いに立ち向かう覚悟は決まったようだ。
段々と近付く神喰いがより強く感じ取れ始める。
「死ぬなよ………」
「あぁ」「うん!」「はい」
すでに木をなぎ倒し突き進んでくる神喰いの足音が聞こえている。そんな中、皆がそれぞれ全員と何も言わず抱擁を交わす。
「来るぞ!」
平原の周囲を取り囲む木々を抜け、神喰いが姿を見せる。
そして神喰いはアクセル達を視界に入れると立ち止まり、アクセルと対峙する。
(注意を引く必要はなかったな……)
迎え撃つ場所に定めた平原は、エディオンへの進路からは外れている。
当初攻撃を与え注意を引く予定だったが、その必要もなく神喰いはアクセル達を標的と定めたようだ。
すでに臨戦態勢となっている両者だが、動く気配はない。
だが、神喰いが先に動く。
胴にある大きく裂けた口に自らの腕を突っ込み、一振の巨大な剣を引き抜いた。
(私が活路を切り開く!!)
それを見たソニアが炎を拳に纏い飛び出した。
そして一直線に向かい拳を繰り出す構えを見せるが、神喰いがそれに合わせ剣を構える。
両者が交わるすんでのところでアクセルが叫ぶ。
「ダメだっ!!!!」
その言葉を聞き、ソニアが拳を止め、後方へ飛び退く。
直後、神喰いが振るった剣が空を切った。
「くっ……」
いくら神喰いが強大な力を持ち、武器を手にしても、それを力任せに振るだけだと思っていた。
しかしあろう事か神喰いはまさに剣技とも呼べる技量を持ってソニアを切り払おうとしたのだ。
「あれは戦い方を知ってる。むやみに仕掛けるな」
人間が強力な魔物相手に勝てるのは、技術を磨き、考える力があるからだ。
純粋な力比べをした場合、人間が勝てる道理はない。
その差を埋めるはずの技術を神喰いが有している。
状況は想像以上に悪い。
それを理解した全員から困惑が滲み出ている。
それでも既に戦いは始まってしまった。
アクセル、ソニアが前衛となり、ミラ、ステラが魔法による攻撃を仕掛け、ミラはさらに魔剣を手に前衛に加わることで戦いは進んでいく。
そんな様子を、一応街の防衛についているエディオンの冒険者達は眺めるしかなかった。
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